2019年10月
分断があおられ、排他的な言葉が飛び交うトランプ時代、「米国は自由と理想の国のはずでは?」といぶかる声をよく聞きます。でも、こうした狂騒は、今に始まった話ではありません。約70年前の冷戦下に「赤狩り」で追われた関係者をたどり、米カリフォルニア州を訪ねました。政権を批判すると「反日」という中傷がぶつけられる今の日本にも、響く物語です。
香港の中心地で起きた反政府デモの矛先は、必ずしもいびつな経済発展に向けられているわけではない。だが、住宅不足や継続する所得格差の拡大が、市民の怒りを増大させたのは間違いない。
林鄭氏が率いる政府の「新たな船出」と喧伝された割には、打ち出された政策は公共住宅用の土地収用から住宅ローンの規制緩和まで断片的な施策にとどまり、住宅政策に関する全体構想が全く見えない内容だった。つまり役には立つが、人々の心に響かない提案を同氏は行ったことになる。
もし、林鄭氏が住宅政策で主導的な役割を果たせないなら、誰ができるだろうか・・・・。郭氏の一族が経営権を握る新鴻基地産や恒基兆業地産(ヘンダーソンランド・デベロップメント)、他の同族経営型の複合企業が、音頭を取りたいと考えるかもしれない。
彼らが推定1000ヘクタールの農地を手元に抱えて、不動産価格を押し上げているとの批判は強まる一方だ。香港内からの苦情だけでなく、中国共産党機関紙・人民日報は9月、不動産開発会社が「土地ころがし」で「上前をはねる」のをやめるよう警告した。
香港経済が抱える惨状の全責任が、エリート層にあるわけではない。それでも政治の不安定化と暴力のエスカレートによって、失うものが最も大きいのも彼らだ。調査会社・デモグラフィアの試算では、香港の平均住宅価格は家計所得の21倍に達し、9年連続して世界で最も住宅購入が難しい市場となっている。
国際NGOのオクスファムが2018年に公表したリポートによると、完全雇用に近いにもかかわらず、香港に暮らす約5人に1人が貧困状態に陥っている。一方、経済誌フォーブスの見積もりに基づくと、18年における香港で最も富裕な50人の資産合計額は3070億ドルで、香港政府の財政予備費の2倍に上る。
その解決策は、既に一部からヒントが示されている。鄭一族の下で不動産開発のほかにホテルや宝飾品販売、百貨店などを手掛ける新世界発展は、同社が所有していた300万平方フィートの農地を公共住宅向けに寄贈すると表明した。同業者も追随し、実際に住宅建設を始めなければならなくなっている。
- 今日:
- 昨日:
- 累計: