無題8
朝日新聞に掲載されたNYtimesの記事の抄訳を以下に。

 ボートの左舷前方にピンク色のヒレが海面に現れた時、乗船していたカナダ人の学生たちはカメラを手にして船首に集まり、写真を撮り始めた。

 「10時の方向だ!」。双眼鏡でボートの上部デッキから見張っていたスタッフが、中国シロイルカを指さして叫んだ。「およそ100メートル前方!」。イルカは、珠江の河口に沿って泳いでいた。

 カシャ。学生たちははしゃぎながら、シャッターを切っていた。この日、学生たちは香港で2番目に大きい島のランタオ島周辺を回る1日海上ツアーで、ぜんぶで十数頭のシロイルカが泳いでいるのを見たことだろう。このイルカ、名前はシロだが、血管が浮き上がってピンク色に見える。

 シロイルカは香港の公式マスコットだが、海洋生物学者たちは、その生存可能性は長期的にみると疑わしいとみている。

 昨年の夏、香港国際空港で3番目になる滑走路の建設が始まった。海を埋め立ててつくる。関係当局の話だと、第3滑走路建設は香港のグローバルな航路ハブ機能を維持するために推計180億ドルをつぎ込む事業で、2023年ごろの完成後には新滑走路の近くにマリンパーク(海洋公園)も設ける計画がある。滑走路建設でシロイルカの生息海域が破壊されることの代替で、マリンパークの広さは米ニューヨーク市のセントラルパーク(訳注=面積は約3.4平方キロ)の2倍が検討されている。

 しかし、生物学者たちによると、環境へのダメージは複合的とみている。高速フェリーの運航や香港とマカオ、中国本土をつなぐ橋や海底トンネルの建設といったインフラ整備事業による悪影響だ。香港は、英国流の法体系と高度な自治という政治的な特性を備えたコマーシャルセンターだが、経済発展がイルカの生息環境をますます侵しつつある。約10年前、中国本土の長江流域で固有種のイルカが絶滅してしまったように、である。

 「もっとおカネが欲しいがために自分たちのイルカを守れないとなれば、香港のイメージは最悪になる」とサムエル・フンは言う。何十年も河口の白いるかを研究してきた生物学者で、新滑走路の建設反対を法廷で訴えてきた。

 珠口河口周辺の海域に生息するシロイルカの数は、推計で2500頭。この数は、中国沿岸一帯や、おそらく東南アジア全体と比べても最多の生息数とみられる。香港大学の生物学者たちによる4年半の調査をもとにした研究報告が3月発行の科学誌「PLOS」に掲載されたが、それによると、シロイルカは「香港の領海域だけで少なくとも368頭が生息」している。

 一方、香港政府の資金によるフンの研究は別の調査方法で行われたものだが、香港海域で一定の時間帯に何頭のシロイルカが現れるかを調べたところ、2003年に188頭だったのが2015年になると65頭にまで減っていたことがわかった。「非常に深刻な局面にある」とフンは言う。

 香港の空港当局によると、第3滑走路の建設で、昨年は7050万人の乗客が利用した国際空港の能力が大きく拡大され、2061年までに580億ドルの収入増が見込まれる。このプロジェクトは香港の代表的航空会社、キャセイパシフィック航空も支援している。

 「すでに第3滑走路が完成しているとすれば、役に立っているはず」。オーストラリアに拠点を置く航空コンサルティング会社、Capa Center of Aviation(CCA=カパ航空センター)の上級アナリストのウィル・ヒルトンは、そう言う。「(だが、新滑走路がまだないため)地元航空各社の成長は潜在性の割に伸びておらず、外国の航空会社は増便の許可待ちをしている状態だ」と指摘する。

 しかし、批評家の間には、第3滑走路が無用の長物になるとの見方がでている。今後数十年間、中国の航空当局が香港にどの程度の航空枠を配分するのか、香港の空港が中国本土の空港と長期的に競い合っていけるのかなどの見通しが不透明なためだ。

 航空技師で香港議会の議員だったアルバート・チェンは、香港は新滑走路の建設事業に乗り出すべきではなかったと話している。あらゆる点で中国本土に主流の座を奪われており、運輸需要も低下しアジアの航空ハブとしての地位も失うことになるからだと言う。

 もう一つが、今回の新滑走路建設事業の提案者が環境リスクについて正確に把握していたのか、そして香港政府は事業を進める許可を出すべきだったのかという問題だ。

 香港の空港当局は、マリンパークの設置提案は国際的な最善の慣行に基づくものであり、新滑走路の工事用船舶が出す騒音も長期的な視点からするとシロイルカへの悪影響はないと述べてきた。なぜなら、シロイルカは「知的な動物だから、船舶の航路から離れるとみられる」と言うのだ。また、当局の声明によると、計画されているマリンパークの面積は新滑走路プロジェクトの4倍近い規模で、ランタオ島の北側周辺海域のシロイルカ数の回復に「つながる」。

 だが、生物学者たちは、このマリンパークでは今後2023年までの間の建設工事による騒音からシロイルカを守ることはできないだろうし、ランタオ島の南西側の危機的状況にある生息海域をカバーできないと指摘している。