番外編
京の師走、南座の顔見世が今年も近づいてきた。京都育ちの片岡仁左衛門(78)は61回目の出演となり、現役の役者で最多となる。初めて出たのは7歳だった1951(昭和26)年。関西での歌舞伎人気が振るわなくなった昭和中頃の苦境や30年前の大病も乗り越え、今の芸境がある。忘れないように心掛けるのは、舞台に立てる喜びや初心。本紙の単独インタビューで聞いた。
子どもの頃の顔見世を「南座の楽屋に火鉢が置いてあったけど、それでも寒かった。びん付け油も寒くて溶けなくてね」と懐かしむ。
なんとyoutubeにアップされていました。
というわけで、ボグダノビッチによるフォードへのインタヴューから。
他愛もない競馬のストーリーを撮りに、はるばるケンタッキーくんだりまで出かけた。撮りながら、お笑いをどっさり詰め込んだ。
雌の仔馬がいて(実にホレボレする容姿だった)。それが何かと私にすり寄ってきたっけ。
群から一頭だけ離れて、俺んところにばかり来るんだ。
俺の帽子をくわえて逃げ、こっちを振り返る。そして、トコトコ戻って来ては地面に落とす。拾おうとすると、またくわえ上げて逃げていく。
持ち主が言ったもんだ。
「どうして名前をつけてやんなさらない? あの仔は監督さんにホレてるんですぜ」
そこで私は、その仔馬をメアリー・フォードと名づけてやった。
メアリーは大人になりレースに出場し、3回連続して優勝したという。
が、可哀想にその場で脚を折り、競走馬として使い物にならなくなって、乗物用の馬に売り渡されてしまったとか。
私は競馬の通ではないが、そんなことにならなければ、あの仔は有名な競走馬になったと思う。
あの仔馬のことは、いつも忘れたことがないな。馬にしては珍しいほど、私のことを愛していたんだ。
役者に演技をつけている間、あの仔は私の椅子の脇にじっと立っていた。
撮影が終わって立ち去る時、あの仔は群の他の連中が半マイルも向うにいるというのに、柵沿いに我々の乗った車の後を慕ってどこまでもついて来たものだった。
youtubeにアップされていたHD全長版が削除されたので、代わりにこれを。
このところ毎回、投票率の低さが問題となる日本の国政選挙。かたや海外では、投票が義務化されて怠ると罰金を支払わなければならない国々もあります。義務投票制を導入して130年近い歴史を持つベルギーでは、投票率は約9割にのぼります。「投票の義務」は、現地ではどのように進められ、どう受け止められているのでしょう。同国出身の法社会学者で、日本研究も手がけるディミトリ・ヴァンオーヴェルベーク東京大学教授に聞きました。
ウクライナは1990年代、旧ソ連から引き継いだ核兵器を廃棄し、持っていた核兵器をロシアに移送することで、非核兵器国となりました。もしこの時、核兵器を維持し続けていたら、その後の歴史は変わっていたでしょうか。今回、ロシアの侵攻を受けることもなかったでしょうか。
フランドル地方の都市ルーヴェンに10年以上家族で住んでいる岸本聡子さんが、東京都杉並区の区長に選出されました。
ウクライナをネオナチから解放する――。
ロシアのプーチン政権は、見え見えのプロパガンダをなぜ連発するのか。ヘイトスピーチや差別語など言語のダークサイドに詳しい言語哲学者の和泉悠さん(南山大学准教授)に聞くと、都合のいい「事実」を作り上げて、権力の序列関係を強調しているのだという。
――プーチン政権のプロパガンダとは、どのような性格なのでしょうか。
「いろいろなものを含んでいます。例えば『どこそこを破壊したのはウクライナだ』とあからさまなうそをついたとします。これは『偽情報』(disinformation)です。一方、『ネオナチからの解放』は、それだけ見れば特別変なことは言っていない。ウクライナと結びつけるから、おかしなことになる。プロパガンダは、必ずしもすべてが偽情報でなくてもよいのです。そもそもプロパガンダの目的は、相手に間違ったことを信じさせようとするものではないからです」
――では、何が狙いなのでしょうか。
「相手を恐怖で混乱させ、分断を引き起こすことです。『ウクライナ政権はネオナチだ』と言うことで、恐怖をあおり、解放者の『我々』と恐ろしいネオナチの『やつら』を分断する。『ナチスは悪だ』や『迫害をやめさせよう』のようにだれも否定しない言葉を利用して、都合のいい主張にすり替える。客観性や一貫性はお構いなしに、膨大な情報を迅速かつ継続的に流す。『そういう考えもありかな』と思わせる種をまけばいいのです。速く広く伝われば、裏を取ろうとするジャーナリズムを出し抜けます。自国民が情報の真偽を検討する前に、そして他の選択肢などを理性的に検討する前に、混乱させてしまえば勝ちです」
――いまに始まったことなのでしょうか。
「ロシアは2014年に一方的にクリミアを併合しましたが、その時も同じようなことをしています。アメリカのシンクタンクのランド研究所が、16年にロシアのプロパガンダについて面白い分析を出しています。それによると、特徴は四つあります」
「まず、量が膨大かつ複数のチャンネルを使う。二つ目が、迅速、継続的でかつ反復的。三つ目が、客観的事実にコミットしていない。四つ目は、一貫性にコミットしていない。今回も当てはまるかもしれません」
――なぜ、そんなことをするのでしょう。
「権力の維持に有効だからです。だからナチスドイツなどのファシスト政権も、トランプ前米大統領もやってきました」
――どういうことですか。
「まず、人々が混乱して分断されていれば、団結して自分に逆らうのを阻止することができます。次に、プーチン大統領のように権力者が『やつらはナチスだ』とまじめに断定するとき、裏には『自分はそういう発言をしてもいいのだ』とのメッセージがあります。『ナチス』という言葉の内容だけでなく、だれかを『ナチスだ』と言うこと自体に、大きな影響力があるのです。ウクライナの政権に対し、そういう言葉を使ってよいのだという承認を意味します」
「なにかについて、それをしてもよい、してはダメ、というルールを作れるのは、権力を持っている人です。教室を想像してみて下さい。夏休みの宿題はこれこれで、何日までに提出しなさいと決められるのは先生です。生徒が『宿題はその3分の1にしましょう』と言っても通りません」
「さらには、ルールだけでなく『事実』を作り替えることができる存在こそ権力者です。古代中国で、秦の始皇帝に仕えて絶大な権力を握った側近が、鹿を馬だと周囲に言わせることで権勢を示したように、権力者は『事実』を作り上げようとします。それによって序列関係をはっきりさせるのです。何かを『ナチス』や『フェイクニュース』などと呼ぶことがどれほど荒唐無稽であっても、それを言う意義があります」
――そうして権力の序列関係をはっきりさせてから、何をするのでしょうか。
「こうしたランク付けは、暴力の正当化につながります。善良な『我々』より何もかも劣っている『やつら』は危険な存在になります。まったくそのような事実がなくても、人々に危害を加える『危険なやつら』とされ、『正当防衛をするしかない』となるわけです。学級内の理不尽な序列『スクールカースト』が容易にいじめや暴力に転化するように、スケールは違っても、権力の序列関係はウクライナ侵攻を正当化するのに使われていると思います」
――プーチン大統領は、そうした効果を意識してプロパガンダを連発しているのでしょうか。
「わかりません。自分が信じることを誠実にやっているだけかもしれない。ただ、いつか自分が国民から『やつら』の側に追いやられるかもしれないという恐怖はあるのかもしれません。いままで敬語で呼ばれていたのに、ある日突然タメグチで話されたら、当惑しませんか。例えば会社で、部下から『さん』をつけずに呼び捨てにされたら、上司はびっくりするでしょう。ただの言葉なのにです。権力の序列関係は継続的に確認しなければ安心できない。プーチン大統領はプロパガンダを連発することで、序列関係を確認し続けているのかもしれません」
――そうした状況はロシアなど特殊な国のできごとにも思えます。
「そうでしょうか。欧米や日本でも、より巧妙になって存在していると思います。例えば米国では、表面上は黒人などへの差別的表現が完全に排除される一方で、選挙での不正投票防止を理由に、投票手続きを厳格化する州法の制定が進んでいます。裏の意図は、マイノリティーの投票制限かもしれない。『選挙の公正』はだれも否定しませんが、それをマイノリティーへの隠された差別メッセージとして使うことも可能です」
「トランプは、移民を『犯罪者』呼ばわりしましたが、これは有権者に恐怖を感じさせて、『やつら』と『我々』を分断しようとする言葉です。プーチン大統領の『ネオナチ』と同じです。都合の悪い報道を『フェイクニュース』と切って捨てる『言語的ハイジャック』や、オバマ元米大統領を『アメリカ合衆国出身ではなく、大統領になる資格はない』とこき下ろしたのも、広い意味ではプロパガンダの一種だと思います。人々に間違った事実関係を信じさせるというより、感情を喚起し、じっくり考えさせない手法がプロパガンダだからです」
――そうしたプロパガンダに惑わされないすべはあるのでしょうか。
「ずっと頭の片隅で考えているのですが、難しいというのが正直なところです。惑わされないという意識を乗り越えてきてしまう。わかっていても、振り込み詐欺にひっかかってしまうような……。でも、プロパガンダの基本的な戦略や戦術、機能といった点を知っておくことは、自分が餌食になっていないか考えるよすがにはなると思います」
いずみ・ゆう 1983年生まれ。南山大学准教授。専門は意味論。差別語やヘイトスピーチなど言語のダークサイドにも詳しい。著書に「悪い言語哲学入門」など。
(ロンドン=国末憲人)
きくち・つとむ 青山学院大学名誉教授。日本国際問題研究所上席客員研究員。1953年、群馬県生まれ。南山大教授などを経て、今春まで青山学院大教授。その間、副学長も務めた。専攻はアジア太平洋の国際関係。著書に「APEC アジア太平洋新秩序の模索」など。
大手10電力のうち北電を含む7社の社史編纂に携わった国際大学の橘川武郎教授(エネルギー政策)に聞いた。
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