東京新聞記事
厳しいゼロコロナ政策を続けてきた中国で、広州市など各都市が11月30日から、地域封鎖(ロックダウン)などの規制を大幅に緩和し始めた。市民に連日求めていたPCR検査も必要なくなり、市民からは「解放だ」との声が上がった。ただ、感染は広がる可能性があり、全国的な緩和につながるかは見通せない。
1日午前、広州の中心部に近い広場。前日まで常に数百人が列をなしていた無料のPCR検査場に行くと、撤去が始まっていた。
「あれ、もうなくなったの?」。いつものように検査に来た女性が目を丸くすると、作業員は面倒そうに言った。「PCR検査? もうすべて終わり。検査したければ、病院に行ってお金払ってやってくれ」
オフィス街にある別の無料PCR検査場にも行ったが、人はいない。全員検査で陽性者を見つけるとの意気込みを示した「医療診察部 党員突撃隊」の赤い旗が、無人のテントで冷たい風になびいていた。
広州市政府によると、市内には約5600カ所のPCR検査場があった。1日に約1560万人が検査を受ける日もあり、全員検査で徹底的に感染者をあぶり出してきた。その拠点だった検査場の大半が、一夜にして閉鎖された模様だ。
こうした変化が起きたのは、前日の市政府の発表がきっかけだった。
午後3時からの記者会見で、①一部の高リスク地域を除いてロックダウンを解除する②PCRの全員検査はしない③地下鉄やバスの運転再開、などの措置を公表。さらに夜になって、商業の中心地における外食禁止や人の移動制限も解除されるなど、立て続けに規制緩和にかじを切った。
「解放された」「集中治療室から出て、カラオケに来たみたいだ」
1日、人々はこうSNSに書き込み、オフィスビルの周辺では昼食を買い求める人でごった返した。
こうしたゼロコロナ緩和の動きは、他の都市にも広がっている。
前日の感染者が初めて5千人を超えた北京でも1日、大型商業施設が続々と営業再開を表明した。あるショッピングモールは、営業を停止した日より、市内の感染者が40倍以上に膨らむ中での再開となった。
四川省成都市の政府は30日夜、団地の出入りでPCR検査の陰性証明を見せなくてもいいと発表。重慶市も全住民対象のPCR検査を中止し、高齢者や妊婦の濃厚接触者は、政府指定の施設ではなく自宅隔離でも良いとした。
突然の方向転換の背景には、全国で高まるゼロコロナ政策への不満があった。
広州では今月中旬に感染者が1日1万人に迫り、多くの街が封鎖され、工場や食堂などの営業も禁止。市民からは「収入がなくなった」との悲鳴があがり、先月14日夜には「PCR検査はいらない。我々を解放しろ」と求める暴動も起きた。同月29日にも市民と警官が衝突し、多数が拘束される事態になっていた。
北京では同月27日夜、数千人が集まり、PCR検査廃止だけでなく、「言論の自由を」と政治的要求もあがった。市トップの尹力・党委書記は30日に幹部会議で「人びとの差し迫った懸念をすぐに解決せよ」と指示。市は同日、外出しなければ数日ごとのPCR検査は不要だと発表した。
地方政府は、市民にうっ積する不満をガス抜きするため、急いで不満解消策を打ち出したみられる。
政府でコロナ対策を担う孫春蘭副首相は1日、衛生関係者を集めた座談会を前日に続いて開き、オミクロン株の毒性は弱まっているとしたうえで「防疫対策をさらに最適化するための措置を取っていく」と語った。これまでのゼロコロナ堅持を強調してきた立場とは異なり、中国政府の内部で方向転換が行われた可能性もある。
ただ、全面的なゼロコロナ解除につながるか、現時点では見通せない。
広州の新政策では、PCR検査をしないかわり、個人がそれぞれ防疫対策をするよう市民に求めている。しかし、市民が病院でお金を払ってPCR検査を受けるとは思えず、政府が感染者を把握することは難しくなる。北京や重慶では感染経路がわからない市中感染が200~350人程度出ている。感染ががさらに拡大したときに、政府がどう対応するかは不透明だ。
(広州=奥寺淳、北京=高田正幸)
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