
ロシアのウクライナ侵攻を巡るトランプ米政権の和平工作が難航しています。フィンランドの地政学アナリストで、ウクライナの英字紙キーウ・ポストに定期的に寄稿しているジョニ・アスコラ氏は「西側諸国の圧力は、ウクライナを衛星国に変えるというロシアの戦略的目標を変えるほど強くない」と語ります。
――ウクライナの戦況をどうみていますか。
戦術的には、ウクライナは深刻な課題に直面しています。歩兵が不足し、ロシアのゆっくりですが粘り強い進撃を止めるのが難しい状況です。ロシアは、めぼしい成果がなく、コストが高くついても戦争を継続できると思います。
戦略的には、ウクライナの方が強い立場にあります。全面侵攻からほぼ4年が経ちましたが、ロシアは依然として(ウクライナ東部のドネツク州、ルハンスク州からなる)ドンバス地域を巡って戦い続けています。「ウクライナを衛星国に変える」という(開戦当初の)2022年2月の戦略目標から遠ざかっています。
――今後の展開をどうみますか。
戦争は今後、前線の戦果よりも(ロシアとウクライナ)両陣営の(国境から離れた場所に対する)深い打撃作戦に左右されるでしょう。別の都市を奪取するよりも、相手の経済を混乱させる能力の方が重要です。
この戦争はロシアにとって戦略的な失敗になっています。プーチンに立ち止まる余裕がないため、戦争は終わっていません。一方、ウクライナは大きな被害を受けています。両陣営が長距離攻撃を強化する中で状況は依然として困難なままです。
――ロシアは全ドネツク州を占領できますか。
ロシアによるドネツク全体の占領「莫大な犠牲伴う」
ウクライナが現在抱えている人員と補給の問題が著しく悪化せずに安定すれば、ロシアはドネツク州全体を制圧するために莫大(ばくだい)な犠牲を払わなければならないと思います。(ロシアが制圧を発表した同州の戦略的要衝)ポクロウスクの占領には1年以上かかり、(さらに北方にある)スラビャンスクとクラマトルスクの占領はさらに困難になるでしょう。
もしロシアが数十万人の兵士を失い、場合によっては最大100万人の死傷者を出し、さらに1年から3年を費やす覚悟があれば、(ドネツク州全体の占領に)成功するかもしれません。
しかし、代償は途方もないもので、ロシアもウクライナも数年にわたる攻撃の激化や人的損失の負担に耐えられるのか、はっきりしません。
――ウクライナ軍のロシア領へのミサイル・ドローン(無人機)攻撃は効果をあげていますか。
ウクライナ国内ではドローン生産が急拡大し、巡航ミサイルも定期的に攻撃に使えるほどの量を生産しています。しかし、ロシアを弱体化させるにはまだ不十分で、はるかに多くのドローンとミサイルが必要です。
――トランプ米政権は和平案を提示しました。
トランプ政権の最初の28項目案は基本的にモスクワで作られ、ウクライナが受け入れられない条項が含まれていました。どんな最終合意も、被害者のウクライナにとって不公平なものになるでしょうが、「クレムリンの要求リスト」のように読めるものよりも、はるかにバランスの取れたものでなければなりません。
「西側はモスクワの計算を変える十分な圧力かけていない」
――ロシアは、ウクライナや欧州の修正案を拒否しました。
ウクライナ・欧州案は、トランプ政権の当初案より、はるかにバランスが取れています。
ロシアが提案を拒否したのは、核心的な戦争目的を損なうからです。妥協すれば戦略的目標の達成に失敗します。西側はモスクワの計算を変えるだけの十分な圧力をかけていません。
――ウクライナのイエルマーク大統領府長官が辞任しました。
現在の汚職スキャンダルは深刻です。ゼレンスキー大統領と彼のチームに直接影響を及ぼしています。ゼレンスキー政権に対する国民の信頼低下は、重要な局面でウクライナを弱体化させます。
ゼレンスキー氏は厳しい視線を浴びていますが、それでも多くのウクライナ人は彼を戦時指導者とみなしています。必要に応じて彼を批判しますが、戦争が終わるまでは彼の指導力を信頼し続けるでしょう。腐敗に対する不満を抱きながらも、彼の粘り強さと対話の姿勢を評価していると思います。
ウクライナは「緊急の軍事・財政支援を必要としている」
――ウクライナに必要な支援は何ですか。
ウクライナは緊急の軍事・財政支援を必要としています。ロシアの凍結資産をウクライナの資産に移すことが優先事項であるべきです。さらに、防空システムの増強、ドローンやミサイルの国内生産拡大のための予算拡大、すべての重要な軍装備の継続的な支給が求められています。
――ロシアが勝利すれば、中国が台湾に侵攻する可能性が高まるという指摘があります。
その見方は正しいと思います。ロシアの勝利を許すことは、ロシアの最大の支援者である中国に危険なシグナルを送ることになります。
率直に言って、西側はすでに弱いシグナルを(中国に)送っています。ウクライナへの支援が依然、不十分ですし、米国のアジアを重視する方針への転換は中途半端です。トランプ政権と同盟国との対立は、(中国への)抑止力をさらに弱めています。強さは攻撃を抑止し、弱さは攻撃を招くでしょう。







