北海道電力が再稼働を目指す泊原発(北海道泊村)の運転差し止めなどを道内外の約1200人が求めた訴訟で、札幌地裁(谷口哲也裁判長)は31日、「現在ある防潮堤は津波に対する安全性の基準を満たしていない」として、北電に運転差し止めを命じる判決を言い渡した。
大手10電力のうち北電を含む7社の社史編纂に携わった国際大学の橘川武郎教授(エネルギー政策)に聞いた。
大手10電力のうち北電を含む7社の社史編纂に携わった国際大学の橘川武郎教授(エネルギー政策)に聞いた。
――札幌地裁が泊原発の運転差し止めを命じました
「原子力規制委員会で審査中の原発に対して裁判所が判断を下すのはちょっと違和感があります。判決文は、審査が長引いているから先に判決するんだというように読め、少しロジックとして弱い気がします」
「ただ、北電はなぜ新しい防潮堤についてもっと主張しなかったのか。詳細は審査中だから言えないとしても、もう少し説明の仕方はあったはずです。判決文を読むと、なかなか主張をしない北電の対応に裁判長はよっぽど頭にきていたんだなと感じました。北電らしいなと思います」
――判決は再稼働に影響があるでしょうか
「あまり影響はないと思います。判決のロジックが弱い気がするので、上級審で簡単にひっくり返りそうな印象を受けます」
――そもそも原発の訴訟リスクはどうみていますか
「大したことはないと思います。過去の訴訟で原告が勝ったケースも上級審で全部ひっくり返っています。もちろん再稼働までの時間が余計にかかりますから経営的にはダメージですが、根本的なリスクではない」
――仮処分の決定で運転を止める原発もありました
「でも仮処分で確定した事例はゼロです。上級審で全部ひっくり返っています」
――泊原発は原子力規制委の審査も長引いています
「大手電力の中でも、北電の原発への対応や進め方は非常に拙劣だと感じます。一番早く再稼働を果たしたのは九州電力で、泊原発と同じ加圧水型炉(PWR)でした。PWRで再稼働を申請した大手電力は4社で、北電以外の3社はもう審査が終わっています。動かすものは動かし、廃炉にすべきものは廃炉を決めました。北電だけ審査が進んでいないというのは、客観的に考えておかしい」
――何が要因にあるのでしょうか?
「もともと泊原発を3基とも動かすという北電の方針が欲張りでした。四国、九州、関西の各電力は廃炉する原発もちゃんと決め、絞り込んだ上で再稼働を果たしています。北電も最終的に泊原発は3号機に絞りましたが、その過程でだいぶ時間がかかりました。最初から3号機に人材を集中していれば、審査ももっと早く進んだかもしれません」
――なぜ3号機に絞るべきだと?
「北海道の電力需要から考えて、3基とも動くと原発の比重が重すぎます。18年の胆振東部地震の際に苫東厚真火力発電所への依存度が高すぎてブラックアウト(全域停電)を招いたように、一つの発電所で5割近くも供給量をまかなうのはリスクが高いです。古い1、2号機は廃炉にすればいいと思います」
――北電と他の大手電力で何が違うのでしょうか
「たとえば九電は原発の審査を通すためには肉を切らせて骨を断つと言うか、規制委に妥協すべきところはどんどん妥協します。その結果、規制委の新規制基準クリアも早いし、プルサーマルやテロ対策施設も全て第1号でした。同じ大手でも九電と北電では、良いか悪いかは別として、原子力対応のうまいか下手かがはっきりと見えます」
――北電にとって原発を維持する必要性はあるのでしょうか
「原発は新設するのは確かに高くつきますが、既存の原発を動かす経済的メリットは大きいです。北電も再稼働できれば、電気料金を下げられるでしょう。原発は発電時に二酸化炭素を出さないというメリットもあります。泊3号機が動いていれば、ブラックアウトが起きていなかったのも確かだと思います」
――北電の電気料金は全国的にみても高いです
「九電と関電は原発再稼働の後、値下げしているわけです。北電は道民に対する責任があるのに、ここまで再稼働を遅らせた経営責任は大きいと思います」
「ただ、原発はどこかで事故が起きると止まります。3・11以降はっきりしたことは、原発はベースロード電源であることは間違いないが、極めて不安定な電源であるということです。そこを電力会社の人はまだ全然わかっていません」
――電源はバランスよく確保すべきだと
「そうです。北電はいま泊原発のことしか考えていないように見えますが、そうじゃなくて、北海道は再生可能エネルギーのものすごい宝庫なわけだから、もっと再エネを軸とした将来ビジョンを出しながら、当面は泊3号機が必要だから再稼働させてくれと言うべきです」
――ロシアのウクライナ侵攻を受けた化石燃料の高騰で、原発を推進すべきだという声も自民党内では高まっています
「ただ、政権は原発の新増設・リプレースについては先送りを続けています。結局、選挙で負けるから、原発政策に手をつけられずにいるんです。もう原発はのたれ死にしていくという未来が見えてきました。2050年には再エネが5~6割、アンモニアと水素などを使った脱炭素火力が3~4割となり、原発は1割以下といった形になると思います」








