香港郊野遊行・續集

香港のハイキングコース、街歩きのメモです。

2023年04月

パラオに近づく中国、圧力は常に 「旧日本軍と重なる」その動きとは(朝日新聞有料記事より)

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 パラオ・マラカル島の南端にあるパラオ海上保安局。庁舎2階のオペレーションルームには、AIS(船舶自動識別装置)情報に基づき、パラオ近海の船舶の航行状況を示すスクリーンが設置されている。

 2021年6月2日、このスクリーンに北部からパラオの排他的経済水域(EEZ)に見慣れない艦船が進入した。

 ジム・シロー・クロウレアス上級職員(大尉)は「大きなレーダーがいくつもそびえ立った船体だったので、驚いた」と振り返る。中国の衛星観測船「遠望6号」だった。

【連載】激戦地パラオはいま 米中の覇権争いの中で

西太平洋に浮かぶ島々からなる国、パラオ。ダイビングで世界的に有名ですが、第2次世界大戦での日米激戦の地でもあります。あれから約80年。パラオで米中両国の動きが激しくなっています。その背景に迫りました。

 21年11月29日、今度は中国の別の船がパラオのEEZに入り、12月4日まで航行した。中国の海洋調査船「大洋号」だった。20年7月には沖ノ鳥島付近で予告なしに調査をしていたことが確認された船だ。クロウレアス氏は「私たちは米沿岸警備隊にも協力してもらい、大洋号を追った。パラオの海底ケーブル沿いに移動していたようだが、中国から何の説明もなかった」と語る。

 22年7月には、遠望6号と同じタイプの衛星観測船「遠望5号」がパラオのEEZを通過した後、スリランカに到着したのが確認されている。米国防総省の報告書は、「遠望」が中国軍の戦略支援部隊の指揮下で運用され、人工衛星だけでなく長距離ミサイルも追跡できるとしている。

 こうした中国艦艇の動きについて、林廷輝・台湾国際法学会副事務総長は「米国の軍事活動の監視が目的だろう」と語る。

 22年夏にはパラオで米軍をめぐる動きがあった。同年6月の軍事演習「バリアントシールド」では、パラオに最新鋭のステルス戦闘機F35を展開し、地対空ミサイル「パトリオット」と連動させて、敵のミサイルを迎撃する訓練を実施。翌7月にはパラオ周辺海域で、米軍が主催し、海上自衛隊や英海軍の艦艇も参加した共同訓練「パシフィックパートナーシップ」が開かれた。

 この訓練にはパラオ海上保安局も参加し、パラオ政府によれば、日米英のほか、米国、英国、台湾の枠組みでも訓練をしたという。パラオ海上保安局には、日本と豪州が協力した中型巡視船各1隻と小型巡視艇3隻が配備されている。しかし、クロウレアス氏は「パラオのEEZは広い。追いついても、中国の大型艦には太刀打ちできない」と語る。

 パラオ、ミクロネシア連邦、マーシャル諸島3カ国は米国と自由連合盟約を結んでいる。3カ国の国民はビザなしで米国で働く権利を持ち、様々な経済支援を受ける代わり、米国が3カ国の安全保障に関する権利を独占している。

 中国にとって、扱いにくい地域だが、パラオへの中国の接近は海上にとどまらない。

 人口2万人に満たないパラオの経済にとって観光は最大の民間産業だ。10年代前半は国内総生産(GDP)が年平均3・9%の成長を遂げ、その原動力となったのが観光客の大幅な増加だった。パラオ政府が22年に発表した経済財政資料によれば、パラオへの入国者は10年度の約8万1千人から、15年度の約16万9千人に倍増した。15年度の入国者の半数は中国人が占めた。

 しかし、中国は17年末、外交関係がないことを理由にパラオへの観光ツアーを事実上禁じた。パラオへの入国者は年々減少し、19年度には約9万人にまで落ち込んだ。コロナウイルスの感染拡大も相まって経済はマイナス成長に陥っている。

 中国政府の措置の背景にあると見られているのが、中国が自国の一部と主張する台湾とパラオの関係だ。

 パラオは台湾が国交を結ぶ13カ国のうちのひとつ。ウィップス大統領は「中国は常にパラオに圧力をかけ、台湾から中国に外交関係を変更するよう提案している」と語る。中国は経済的な機会、投資にも言及し、「パラオに100万人の観光客が必要なら、中国が提供しましょう」とも持ちかけてくるが、常に「台湾との断交」という条件付きだという。

 「今後も台湾との関係を断ち切ることは決してない。台湾は強力な同盟国であり、同じ価値観を共有している」。そう言い切るウィップス氏には、台湾の将来が人ごとではないという懸念があるという。

 「台湾に何かが起こる可能性がある場合、私たちの主権はどうなるのか。中国の船が16世紀にパラオに来たという主張もある。それをもとに『パラオも中国の一部』と言い出すのかもしれない」

 非営利組織(NPO)「組織犯罪と汚職報告プロジェクト(OCCRP)」は昨年12月、「太平洋での策略」とする報告書を発表した。報告書によると、中国人のビジネスマンらがパラオの有力者に対し、16年以降にカジノや経済特区などのビジネスを提案し、接近していたという。有力者にはレメンゲサウ、トリビオン両元大統領や州知事、閣僚らが含まれる。

 報告書は、一連の動きに組織犯罪集団のリーダーが関与している可能性を指摘した。米財務省は20年12月にこの人物を制裁対象とした文書のなかで「(統一戦線組織の)中国人民政治協商会議のメンバー」と認定。この集団が麻薬密売や人身売買、違法ギャンブルなどに関わっており、パラオでも違法な活動をしていたとした。

 こうした動きは、豪チャールズ・スタート大のクライブ・ハミルトン教授が18年に発表した著作「Silent Invasion(静かな侵略)」を思わせる。同書では、豪州に移住した中国の富豪が豪州の政治家や大学に献金して影響力を行使したエピソードなどが紹介されている。

 太平洋島嶼(とうしょ)国では19年にソロモン諸島とキリバスが相次いで台湾と断交し、中国と国交を結んだ。さらに中国は昨年4月にソロモン諸島と安全保障協定を締結した。米国と自由連合盟約を結ぶマーシャル諸島、パラオのほかにツバル、ナウルは台湾と外交関係を保っているが、存在感を増す中国の出方は地域の今後を大きく左右するため、関係国の関心を集めている。

 オーストラリアの研究機関などは、戦前にこの地域を統治した日本のアプローチを現代の中国と重ねて分析している。

 第1次世界大戦が始まった1914年、日本はドイツ領だったパラオを含む南洋群島を占領。20年には国際連盟から委任統治が認められ、22年にはその行政を担う南洋庁がパラオに設置された。その後、対米戦をにらんだ日本海軍は、南洋群島を米艦隊撃滅のための「不沈空母」とする構想を持つようになった。

 国際連盟の委任統治条項では南洋群島の軍事基地化を禁じられていたが、日本は33年に国際連盟を脱退し、34年にはワシントン海軍軍縮条約の破棄を決定。平時から南洋群島の開発を目的とした会社を通じて軍事基地を設置する準備を進め、41年12月の太平洋戦争の開戦直前までには、主要な島々に航空基地と軍艦が寄港する港湾施設が設けられた。

 太平洋戦争の戦史に詳しい田中宏巳・防衛大学校名誉教授は「中国は日本軍が太平洋でラバウルやガダルカナルに固執した理由に関心を持ち、戦略的な意義について研究している」と語る。

 太平洋島嶼国の事情に詳しい笹川平和財団海洋政策研究所の塩澤英之主任研究員は「近年の中国の動きをみると、かつての日本の足跡をたどっているようだ」と話す。その狙いについては「米国とオーストラリア、ニュージーランドが太平洋島嶼地域を勢力圏にしてきた戦後秩序を変えたいのだろう」と分析する。

(パラオ=牧野愛博) 

日本軍の痕跡が残る西太平洋の島 ペリリューに再び米軍が来た理由(朝日新聞有料記事より)

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  鏡のようになめらかな海面は青色やエメラルド色に変化する。300ほどの小さな島が集まったロックアイランドと呼ばれるこの海域は、ダイビングの名所であり、世界遺産に登録されている。

 パラオの中心地コロールから小型ボートで1時間半。緑に覆われたその美しい島ペリリューは1944年9月から日本軍守備隊とそれを攻撃する米軍部隊の激戦地となった。降り注いだ大量の砲弾で島影は茶色に変わり果てたと伝えられる。

【連載】激戦地パラオはいま 米中の覇権争いの中で

西太平洋に浮かぶ島々からなる国、パラオ。ダイビングで世界的に有名ですが、第2次世界大戦での日米激戦の地でもあります。あれから約80年。パラオで米中両国の動きが激しくなっています。その背景に迫りました。

 南北約9キロ、東西約3キロのこの島を米軍は数日間で制圧できると見込んだが、日本軍は島内の洞窟などを使ったゲリラ戦で悩ませた。ペリリューでの戦闘は2カ月以上続き、日米両軍で戦死者は1万2千人以上に及んだ。

 米軍がこの島の攻略を目指した最大の理由は、島南部に日本軍が1940年に完成させ、東洋一とも呼ばれた飛行場にあった。この飛行場を確保すれば、次なるフィリピン決戦の拠点にできるという計算があったためだ。

 飛行場には今も日本軍の痕跡が残る。米戦艦の砲撃を受けた燃料貯蔵庫は一部が崩落して、曲がった鉄筋が露出していた。飛行部隊の司令部跡はほとんど崩れ落ちている。周りには破壊され、放置されたままの日本軍戦車もあった。さびついた車両の内部には緑の草が生い茂る。

 米軍は戦後、死闘の末に奪取した飛行場を放棄した。その後は近くの島との間を結ぶ軽飛行機のチャーター便が飛ぶだけだった。

 そんなペリリュー島に、最近ある変化が起きている。

 ところどころには草が生え、水たまりができていた滑走路の一角で整地が進んでいた。近くにはショベルカーや整地作業に使われるグレーダーなどの重機が置かれ、大型のテントも設営されていた。

 「米軍の装備です」。案内してくれたペリリューに住むジョエル・オカダさん(47)が教えてくれた。

 米軍の第1陣約60人は昨年7月、ペリリューにやってきたという。州庁舎付近の道路舗装や飛行場周囲のジャングルの伐採などを行った。第1陣が引き揚げた後も、米軍関係者が何人か残った。

 米軍の飛行場整備について、パラオ政府の国家安全コーディネーター、ジェニファー・アンソン氏は「地震などでパラオ本島の飛行場が使えなくなった場合の医療支援などに備え、パラオが米政府に依頼したものだ」と説明する。

 一方、センゲバウシニョール副大統領は「米国はパラオでの軍事に関する独占的な権限を持っている。米軍はペリリューの飛行場を使って軍事作戦も展開できる」と語る。

 第1次世界大戦後、パラオは国際連盟の委任統治領として日本の統治下に置かれたが、第2次大戦後は国連の信託統治領として米国が統治した。94年に独立する際、米国との間で自由連合盟約を結び、米国から経済支援を受けるかわりに、安全保障をめぐる権利を米国に委ねている。

 今年3月初めには、米軍の第2陣がやってきた。96年からペリリューに住む日本人、マユミ・ホコダ・サダオさん(50)は「今度は飛行場の舗装でしょう。近所の人同士で、中国を意識した動きだと、うわさし合っています」と語る。

 近年、中国がパラオを含む太平洋島嶼(とうしょ)国での影響力を強める一つの要因は、台湾海峡有事などを意識した軍事的な思惑とみられている。

 パラオは、小笠原諸島からグアムやパプアニューギニアにかけて延びる「第2列島線」上にある。中国は「第2列島線」と、九州から台湾東岸などを通り南シナ海を囲むように延びる「第1列島線」の間で米軍を迎え撃つという戦略を持っているとされる。台湾海峡からパラオまでの距離は約2200キロで、約2800キロ離れた米軍の拠点グアムよりも近い。

 パラオ周辺での米軍の活動も活発化している。

 昨年6月の軍事演習「バリアントシールド」では、パラオに最新鋭のステルス戦闘機F35を展開。地対空ミサイル「パトリオット」の発射訓練も実施した。昨年11月の「ベテランズ・デー」には、戦略爆撃機B1Bがパラオ上空に飛来した。ペリリューよりも南に位置するアンガウル島には、水平線より遠くの物体を監視できるOTHレーダー施設を設置する作業を始めている。

 こうした動きの背景にあるとみられるのが米空軍が力を入れる「機敏な戦闘運用(ACE)」という戦略概念だ。米空軍は西太平洋で有事に使える滑走路の調査を進めている。従来の訓練で、米軍が作戦の拠点にしてこなかった空港に、最新の戦闘機と、燃料、弾薬、整備員を搭載した輸送機とをパッケージで展開するなどの取り組みだ。

 自衛隊関係者は「中国のミサイル攻撃に備え、できるだけ基地を分散したい考えなのだろう」と語る。

 パラオは米軍にとって良い思い出がない場所だ。防衛省防衛研究所の庄司潤一郎主任研究官は「上陸作戦にあたった海兵隊に屈辱の歴史を与え、戦略的な価値も失ったペリリューは、米国にとって忘れられた戦場だった。サイパンや硫黄島が日本の本土攻略の拠点になり、長く記憶されたのと対照的だ」と語る。

 米中対立の激化は、忘れられた島を再び戦略拠点へと変容させるかもしれない。

(ペリリュー=牧野愛博)

米国機密流出、問題抱えた兵士がなぜ? 同盟国の情報共有が滞る可能性も(朝日新聞有料記事より)

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 米国の機密文書流出事件で、スパイ防止法などに違反したとして訴追された空軍州兵ジャック・テシェイラ被告(21)が27日、マサチューセッツ州の裁判所に出廷した。検察側は、SNSで殺人願望を示していた被告の反社会的な傾向を指摘。問題を抱える下級兵士がなぜ、国家機密を入手できたのか。バイデン政権に批判が向けられており、外交上の打撃も大きい。

 検察側の資料によると、被告は2019年9月に入隊し、21年に機密にアクセスする権限を得た。22年2月ごろから「ITサポート技術者」の業務とは無関係な国防などの機密資料を閲覧するようになっていた。22年12月ごろからSNSに政府の資料を投稿していたとされるが、被告自身、それより前から機密を投稿していたことを認めていたという。国防情報の不正な保持・送信などに問われており、禁錮25年かそれ以上の刑を受ける可能性がある。

 被告は長く暴力や殺人に関心を持ち、日常的に身勝手な言動を重ねていたようだ。入隊後の22年7月には公用パソコンで、過去の銃乱射による殺人事件について検索していた。22年11月、SNSで、仮に自分の思い通りになるなら「精神の弱い人を淘汰する」ために「大量の人を殺す」と発信した。23年2月には、特定のミニバンを「暗殺用バン」にしたいと発言したり、スポーツ用多目的車(SUV)の後部座席から射撃しやすいライフルの種類を仲間に尋ね、「混雑した都市部か郊外」での射撃方法について言及したりしていた。

 高校在学中の18年3月には「火炎瓶、学校での銃、人種的な脅し」に関する問題発言で停学処分を受けていた。同じ年に、銃器の購入や所持に必要な認証カードを申請したが、高校での発言を地元警察が懸念し、却下したという。

 今月に入り、米メディアが機密文書の流出について報じ始めると、被告はSNS上の仲間に「口止め」をした。自宅の捜索では、タブレット端末やノートパソコン、ゲーム機が破壊された状態でゴミ箱から見つかったという。証拠隠滅を図ったとみられる。また、自室からは拳銃や散弾銃、ライフルなども見つかった。

 検察側は、さらなる機密情報の流出や、被告の逃走のリスクがあるなどとして、被告の勾留を求めた。米ABCによると、被告側は保釈を求めたが、判事は判断を保留した。裁判の本格的な開始はこれからで、被告の拘束はしばらく続く見通しだ。

 米空軍は、被告が所属していた組織の調査が終わるまで、被告の上司にあたる幹部2人を停職とした。米紙ニューヨーク・タイムズは、被告が「国家の最も機密性の高い情報にアクセスする権限をどう取得したのか、新たな疑問を提起している」と報じた。

 流出文書は、被告が対話アプリ「ディスコード」上で限られた仲間と共有したものが他のグループにも投稿され、拡散していったとみられている。米紙ワシントン・ポストはディスコード利用者から入手した約300点の機密資料の写真を検証しているといい、米メディアは次々に「新事実」を報じてきた。真実であればきわめて重要な外交情報も含まれ、バイデン政権の内政や対外政策に与える悪影響は大きい。

 ロシアのウクライナ侵攻をめぐっては、両軍の戦力のほか、ウクライナが米国の警告に反して東部バフムートの防衛を続けたことや、「23年中の停戦交渉は可能性が低い」という米側の見立てなどが報じられている。

 中国関連の文書も目立つ。報道によれば、米軍が2月に撃墜した「スパイ気球」には最大1万ワットの発電が可能なソーラーパネルが装備され、雲や煙に遮られる時や夜間でも画像が得られる高機能レーダーが搭載されていた。米国はこれ以外にも最多で四つの中国の「スパイ気球」を把握しており、一部は太平洋を航行する米空母打撃群の上を飛んでいたとみられるという。

 報道からは、米国がイスラエルや韓国など同盟国へも情報活動を仕掛けていることや、ロシアなど敵対国の深部に情報源を持っていることも示唆されている。

 バイデン政権は機密情報の配布先を制限するよう軍と情報機関に指示したが、調査中を理由に情報管理の非を認めず、抜本的な再発防止策も打ち出していない。国防総省のライダー報道官は27日の記者会見で「軍や構成組織に勤務する大多数は、立派に勤務している」などと弁明した。

 オバマ政権の国家安全保障会議で危機管理対策を担ったブレット・ブルーエン氏は「バイデン政権は事態の深刻度を軽視している」と指摘する。

 米国が同盟国も情報活動の対象としていることは「公然の秘密」だった。だが今回、より明確に示されたことで同盟・友好国の政権が野党や反体制派から批判され、情報の共有に慎重になる可能性がある。「同盟国は『米国は若いアルバイトのような軍人に極秘情報を与える国だ。情報を共有して自国の情報源や情報活動員を危険にさらしたくない』と考えるだろう」とブルーエン氏は話す。

 また、相手が米国の盗聴を意識して偽情報を織り交ぜる可能性も、より意識しなければならなくなる。

 ブルーエン氏が最も問題視するのは「バイデン氏が謝罪の言葉を口にせず、問題を認めない」ことだ。

 「『申し訳ない』と言えば、ある程度の責任を認め、変わろうとする気があると相手に感じさせることができる。問題を認めないことは、問題に十分に対処しないという印象を与える。批判を控えた同盟国は米国に貸しを作った形になり、米国は借りの積み重ねや影響力の低下という形で代償を払うことになるだろう」
(ワシントン=下司佳代子)

流出した「機密資料」をもとに報じられた疑惑

【ロシアのウクライナ侵攻関連】

・米情報機関が「紛争終結への交渉が今年中に行われる可能性は低い」と評価

・「撤退しなければロシア軍が包囲する」という米国の警告に反しウクライナはバフムートを防衛

・中国が今年初め、ロシアへの重大な支援の提供を承認。軍事品の民生品への偽装を計画

・ウクライナがロシアによる侵攻1年にあわせてモスクワ攻撃を計画。米国の説得で断念

・ウクライナがシリアに駐留するロシア軍の攻撃を計画。ゼレンスキー大統領が中止を指示

・エジプトがロシアにロケット弾を提供する計画をやめ、ウクライナ向けの砲弾の生産を決定

【それ以外】

・米国は中国の「スパイ気球」を、2月に撃墜したもの以外に最大四つ把握

・中国がアラブ首長国連邦(UAE)で軍事施設の建設を継続

・過激派組織「イスラム国」がアフガニスタンを拠点に欧州・アジア全域で攻撃を計画

・トルドー首相が、カナダの防衛費は北大西洋条約機構(NATO)の目標に届かないと発言

・台湾と中国が紛争になった場合、台湾は中国の航空優勢を防げない

(米紙ワシントン・ポストによる) 

今朝の東京新聞から。

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72歳ででしごかれた芝居 奈良岡朋子さんをしのぶ 俳優・仲代達矢(朝日新聞有料記事より)

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 私の知っている女優さんは、自分をしっかり持って一本筋が通ってる方ばかりでしたけれども、奈良岡朋子さんは誰とも違った強さと言いますか、スマートで、インテリジェンスがしみ出しているような人でした。

 私は19歳で入った劇団俳優座の養成所時代から大ファンでしてね。すでに劇団民芸の舞台に出ておられて、何せ美しい。同期の宇津井健と夢中になって追っかけて、「オレの方が大ファンだぞ」って二人で言い争ったりして。当時の新劇界では珍しい存在だったでしょう。

 最初の共演は、1967年放送の「旅路」というドラマでした。妻の宮崎恭子がシナリオを書きまして、私は草笛光子さんや奈良岡さんに思いを寄せている、軟派の役だったと記憶しています。憧れの人との共演でしたからね、恐る恐る芝居したような気がします。

 2005年から舞台「ドライビング・ミス・デイジー」で共演しました。民芸の稽古場に出向き、72歳にしてたくさんしごかれました。「ああ仲代さん、そこはそうじゃなくて、こうやるの」と、随分教えていただきました。毎日、恐ろしい思いで一生懸命頑張ったことだけは記憶に残っております。

 役者として、受けの芝居を覚えました。ぶつける芝居は割と得意だったですけども、奈良岡さんがバーンと来るのを受けて返す。そういう芝居の勉強になったような気がします。

 私がいた俳優座は、シェークスピアを含めた歌い上げる芝居が素晴らしかった。リアルな演技は民芸さんの特徴だった。奈良岡さんには「もっとリアルにやってよ」ということをよく言われました。僕の話になりますけど、いま演じている「バリモア」は歌い上げる芝居とリアルな芝居が混然としてます。奈良岡さんからリアルな演技を学んだことが生きました。貴重な作品でした。

 新劇女優としての在り方を持っておられた方です。作品の根底にある思想やテーマを打ち出して、お客さんに訴えかけるのが新劇だと思います。奈良岡さんも女優としてそういうつもりでやってきたんじゃないか。

 「ドライビング――」は足かけ5年で全国を回りました。一緒に食事をしたり、行ったことのなかったカラオケに連れていかれたりしました。歌はお上手でしたよ。「あなた、歌はうまいのね」って言われまして……。演技以外のことは非常に親切にしていただきました、ええ。

 私は三つ年下ですけど、少年のような気持ちでついていった気がします。先生のようであり、姉のような感じであり。貫禄や風格がありましたね。

 最後の上演が終わったときに、楽屋に来て「長い間ありがとう。あなたもお元気でね!」と言ってくださいました。私も畳の上に正座して「ありがとうございました」と頭を下げました。その後、ご一緒した記憶がほとんどないんです。もう一度お会いしたかったな。

(構成・井上秀樹) 

大阪のカジノは成功するか 日本参入をめざした業界人が語る現実(朝日新聞有料記事より)

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 大阪府と大阪市が進めるカジノを含む統合型リゾート(IR)の整備計画が、国に認定されました。カジノを含むIRの建設が、日本で初めて動き出します。

 でも、開業予定は2029年とかなり先のこと。さらなる遅れを心配する声や、年間5千億円以上という収入の見込みをいぶかる声もあります。

 はたして、日本のカジノは成り立つのでしょうか。

 シンガポール出身で、米国のカジノ企業で日本参入をめざした経験も持つダニエル・チェン氏(57)が、大阪の可能性、同じく整備計画の認定を求めている長崎の可能性、さらには日本のカジノ政策の問題点までを、率直に語ってくれました。

 ――まず、日本とのかかわりを教えてください。

 カジノ業界での経験は20年ほどになります。07~08年ごろから時折、市場調査のために日本に来ていました。本格的なかかわりは14年からです。米国フロリダ州などでカジノを展開するハードロック・インターナショナルに移り、日本への参入計画を担当しました。

Daniel Cheng

カフェやホテル、カジノを運営する米ハードロック・インターナショナルの元シニアバイスプレジデント。19年に退職後、22年には日本のカジノ導入の経緯を追った「ジャパン・カジノ・アップライジング--茨の楼閣」(未邦訳)を出版した。

 多いときは月2回は日本に来て、政府、自治体関係者との面談を重ねました。20自治体以上とは話をしたと思います。

 ――先日、大阪でのカジノ整備計画が認められました。どう見ていますか。

 元東京都知事の故・石原慎太郎さんがお台場のカジノ構想を打ち上げてから、20年あまりです。長くかかりましたが、大きな一歩だと言えるでしょう。ただ、開業まではまだ道のりがあります。

 ――大阪でのカジノ計画は成功するでしょうか。

 大阪を何度も訪れ、参入もめざした経験から言えば、可能性はあると思います。周辺人口や所得、インフラなどを考えれば、いまも魅力的な市場です。それは日本全体についてもそうです。

 ――いまの大阪の計画は、売上高が年間5200億円というものです。野心的すぎませんか?

 日本のみなさんにかかっている、と言えるでしょう。私は日本の関係者との面会のたびに強調してきましたが、カジノ事業を支えるのは、基本的には地元の顧客です。世界には外国人専用のカジノもありますが、どれも大規模ではありません。

 そのうえで世界のカジノを見渡すと、中国人がいい顧客として知られています。韓国人もそうです。でも、日本人についてはあまり聞きません。

 もし日本人がいまの韓国人なみにカジノに行くなら、成算は立つと思います。韓国には1カ所だけ国民も行けるカジノがあります。ソウルから車で4時間ほど離れた地域にありますがここは成功しています。

 ――大阪は、埋め立て地の「夢洲(ゆめしま)」にIRをつくる計画です。立地はどうですか。

 土地の整備が課題でしょう。大阪の当局は地盤沈下対策に790億円をかけると言っていますが、さらに高くつく可能性も指摘されています。土壌汚染の可能性が指摘されているのも気になります。

 また、夢洲は半分はコンテナターミナルです。予定地の周辺がどう使われるかにもよりますが、いまのところレジャー向きの土地とは言いにくいですね。

 ――ほかにも課題はありますか。

 大阪に限りませんが、私が一貫して言っているのは従業員をどうするのか、という問題です。国際基準のIRをつくるなら、英語で接客できる人材が多く必要です。それをどう確保するのか。あるいは外国人をたくさん雇うとなった場合、ビザはすんなり出るのか。考えておくべきことはたくさんあります。

 ――そもそもIRは大阪の住民に歓迎されているのか、といった問題もあります。

 今回の審査で大阪が獲得したのは、1千点満点中657.9点でした。600点という認定基準をわずかに上回っただけです。特に低かったのは、住民との関係に関する評点です。大阪府市と事業者(米カジノ大手のMGMリゾーツとオリックス)は、もっと住民に丁寧に説明すべきでしょう。

 ただし今回、大阪維新の会が地方選に勝利して政治基盤を固めたことで、当面は計画が進むでしょう。逆に中央の岸田文雄首相の側からすれば、その勝利を見たうえで計画を認めたのかもしれません

 ――話を聞いていると、いまの計画が予定通り進むのは相当に難しいようにも思えますが。

 難しいと思います。しかし事業者目線で言えば、計画が大幅に遅れたり、土地の問題が解決しなかったりすれば、違約金を払って手を引くことができます。その違約金も、事業規模を考えれば大きな額ではありません。

 ――長崎についてはどうですか?

 私は認められるかどうかの予測はしませんが、事業者目線で見ると、長崎の条件は厳しいです。私は長崎のみなさんとも話をしましたし、土地も人も大好きですが、条件が厳しいことには変わりありません。

 ――どこに難しさがありますか?

 まず周辺人口が限られます。そのため他地域からのアクセスの良さが重要ですが、残念ながら長崎空港は便利とは言えません。それにハウステンボスまでは、空港からさらに1時間ほどかかります。

 また、長崎は欧州のカジノ企業と組みました。しかし欧州のカジノは規模が小さい。日本が求める大規模なIRを運営する経験には欠けていると思います。

 ――昨年出版された著書では、日本でのカジノ政策のちぐはぐさを指摘されていました。

 問題はいくつもありますが、ひとつは規模の問題です。もともと日本では東京、大阪、横浜といった都市型のIRと、沖縄や北海道といった地方のIRが想定されていました。しかしできあがった法制度では、たとえば10万平方メートル以上の床面積を持つホテルが必要だと定めています。これは、小規模な地方のIRを考えるには不向きでした。

 また、自治体と企業が合同で計画をつくるしくみも問題でしょう。自治体は住民を向いた組織ですが、企業は営利体です。目標が違います。自治体が枠組みをつくり、その中で企業が創意工夫を発揮するというしくみの方がよかったのではないでしょうか。

 計画づくりや選定のプロセスを一度に進めたのも問題だったと思います。世界の大手カジノ事業者は大きな収入が期待できる東京、横浜、大阪といったところに焦点を当てて提案合戦を進めました。その分、その他の自治体には関心が向けられなかったのです。

 東京や横浜がカジノをあきらめたとき、その事業者たちには他の自治体、たとえば長崎などと話をする時間はもう残されていませんでした。

 日本のカジノ計画は、多くの点でシンガポールを参考にしています。そのシンガポールでは、まず政府が2カ所の立地と、それぞれのIRの性格を決めました。ビジネス型がひとつ、リゾート型がひとつです。そのうえで、ひとつずつ提案を募りました。そしてビジネス向けの提案では敗れた事業者が、リゾート向けの施設を勝ち取ったのです。

 こうしたプロセスは、シンガポールのカジノ計画が効率的に進んだ理由のひとつですが、残念ながら日本には取り入れられませんでした。

 もうひとつ大きな違いは、言語です。世界のカジノ業界では英語が標準語です。その点シンガポールは何も問題はありませんでした。日本では、常に翻訳や通訳を挟む必要がありました。たとえば海外の事業者を集めた説明会であっても、日本語で説明されたのです。この点も、非効率だったと思います。

 ――シンガポールとの対比でいくと、大阪の計画は地元客に頼りすぎで、もっと海外客にターゲットを絞るべきだ、という声もあります。

 その考え方には、誤解があります。シンガポールのカジノに海外客が多いのは、小さな国で、国民に比べると訪問する外国人の数が圧倒的に多いからです。言わば、特殊な事例です。世界のカジノではほとんどが国内客が中心です。

 ――カジノが海外からの観光客の誘致につながる、という話にはなりませんか?

 日本にはすでに多くの魅力があります。自然、景観、文化、ショッピング、そして食事。それらがとても魅力的なことは、海外からの人気で証明されているでしょう。IRはそれにどれほど魅力を上積みできるでしょうか。

 またIRというのは、基本的には顧客にずっと中にいてもらうよう仕向けるビジネスです。食事も買い物も施設内ですませ、なるべく賭け事にお金を落としてもらうことで利益が上がります。IRに客を招いても、その客が毎日、富士山などに観光に行ってしまったら、施設は利益を上げるチャンスを失うのです。

 ――しかし日本では長年、IRは海外からの観光客を招くと言われてきました。

 日本では石原さんが打ち上げたカジノ構想が、具体的な議論の出発点だったと思います。お台場の活性化を狙ったもので、確かに日本を旅する国内外の観光客を、「お台場」に呼ぶ効果は期待できると思います。

 しかし私はその話が少しずれて「日本」に観光客を呼べる、という話になってしまったのではないかとみています。日本の魅力はあくまで全体的なもので、IRはその一部を構成するだけなのですが。

 ――著書では、カジノ政策と政治のかかわりも詳しく書かれていましたね。

 不思議だったのは、政策を立案する官僚のみなさんは、個人個人はとても優秀なのに、マスタープランのような全体像を出してこないことでした。あくまで政治家の注文に応えるだけの受動的な対応が見受けられました。また各省庁が、自分の持ち場だけを見ていて横の連絡が取れていない、とも感じました。

 政治家は、選挙で変わります。さらに同じ政治家であっても、主張が変わることもあります。

 だから長期的な計画を進めるには行政の力が重要だと思いますが、カジノ政策は政治の動向に振り回されてきました。規制とビジネスベースの話にならなかったのは、すこし残念ですね。

 ――また、政治と行政が国民の声を聞いていない、と端的に書かれています。

 世論調査を見れば、良くて半々、多くの場合は反対の声の方が多いですよね。だから私は、各自治体のみなさんと話をするときにも、住民投票の実施を勧めていました。でも尻込みするところがほとんどでした。

 日本は教育の行き届いた、リベラルな国です。全国各地で住民投票を実施すれば、おそらくカジノのメリットを前向きに捉えてくれる自治体がいくつか出てきただろうと感じています。そこを出発点にすれば、その後の展開もスムーズだったと思います。

 アジアでは、どこの国でもギャンブルは微妙な問題で、そこに向けられる感情もさまざまです。

 強い政治基盤を持つシンガポール政府は、カジノ誘致に当たって国民の意向を直接聞くことはしませんでした。もし聞かれたら私もノーと言ったと思います。

 ――カジノ業界に身を置いているのに、ですか。

 個人的なことですが、私は貧しい家庭出身で、父がギャンブラーでした。ギャンブルが家庭にどういう影響を及ぼすか、少しは知っているつもりです。

 だからこそ私は日本でもカジノのいい面だけではなく、悪い面も説明してきました。そのうえで受け入れてもらうことが重要だからです。

 IRと言っても、カジノはギャンブルです。中には問題に陥る人も出てくるでしょう。何千、何万の顧客のうちの数人、数十人かもしれませんが、本人と家族にとっては悲劇なのです。

 そうした悲劇に陥る少数の人のことを考え、手をさしのべることも非常に重要だと思っています。

 私は日本に友人も多くいますし、大好きな国です。IR計画も、日本の人々にとって、よりよい方向に進んでいくことを願っています。

(シンガポール=西村宏治)
 

常識覆すアマゾンの雪玉作戦 ウクライナ個人情報はこうして救われた(朝日新聞有料記事より)

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 ロシアに攻め込まれたウクライナの市民が「奪われる」危機にさらされているのは、命や故郷、財産にとどまらない。その一つが「個人情報」だ。

 爆撃が続くなか、ウクライナからの膨大な個人情報の国外避難は、米アマゾンのクラウドサービス事業会社「AWS(Amazon Web Services)」の作戦によって成し遂げられた。

 作戦のカギとなったのは、「スノーボール」と呼ばれるMサイズのスーツケースぐらいの大きさの直方体。ロシア軍が侵攻してきたその日に始まった作戦は、この「雪玉」に例えられる直方体を使ったデジタル時代の固定観念を打ち破るものだった。

作戦は、ピロシキを囲む昼食から始まった

ウクライナとアマゾンが組んで実現した「雪玉作戦」とはーー。関係者の話から、その実態をたどります。

 2022年2月24日、ロンドン。AWS幹部のリアム・マックスウェル氏はウクライナ大使館に向かった。数時間前にロシア軍が同国の首都キーウなどに向けて進軍を始めていた。

 国のデジタル化を進めるウクライナ政府は、21年に政府公式アプリの構築でAWSの支援を受ける覚書を交わしており、両者には頻繁なやりとりがあった。

 大使館でマックスウェル氏を迎え入れたのは、バディム・プリスタイコ駐英大使。本国の外相を務めた経験もある。ちょうど昼食の時間、ウクライナ名物のボルシチを振る舞った。

 その席で、マックスウェル氏は、メモをとる紙を準備して、切り出した。

 「どんなデータを持ち出したいのですか」

 プリスタイコ大使が答える。第一に、選挙や住民投票をする際に欠かせない国民の戸籍情報だ。資産税を管理するための土地の登記簿も必要だ。教育機関のデータ、医療情報、犯罪履歴――。仮にロシア軍の手にわたったら国民に不利益が及ぶ情報は、枚挙にいとまがなかった。

 マックスウェル氏は、優先順に書き出していった。

 問題は、その膨大なデータをどう持ち出すかだ。

 ウクライナではその1週間前に法律が改正され、こうした重要なデータの国外移転が可能になっていた。

 しかし、すでにロシア軍の爆撃が始まっており、インターネット接続が維持できるかは見通せない。ネット空間にはデータを奪うための激しいサイバー攻撃も予想される。

 マックスウェル氏が提案したのは、インターネットを使わず、「陸路」でデータを運搬することだった。

 大使が承諾すると、AWSのセキュリティー担当のスタッフが即座にロンドンからアイルランドのダブリンに飛んだ。

 そこにあったのが、スノーボール。依頼があった組織のデータを、AWSのクラウドサービスに移行させる目的で生み出されたサーバーだ。

 灰色の頑丈な樹脂に覆われた高さ約40センチ、幅約72センチ、奥行き約27センチの直方体。コンピューターを接続するUSBやLANの端子部分などは樹脂のふたで覆われ、金属製のラッチ部分は、ボタンを強い力で押し込みながらロックを解かなければふたが開かない。

 最大70Gの衝撃に耐えられ、高度1万2千メートルの環境でも運ぶことができ、機器が盗まれてもデータが守られる様々な仕掛けが施されている。一般の荷物と同じ扱いで運ぶことを想定し、梱包(こんぽう)もされない。いわば、データを運ぶアマゾンプライムのようなサービスだ。

 名前の由来は「snowball effect(雪玉効果)」。増大するデータに対し、より多くの記録能力、処理能力、転送能力を備えることで、雪だるま式にサービスが成長するとの狙いが込められた。

 3台のスノーボールを確保したAWSスタッフはまたすぐに空港へ。飛行機の預け入れ荷物にし、ウクライナの隣国ポーランドのクラクフに飛んだ。

 クラクフに着いたスタッフは、スノーボールを車に積んだ。戦時の国には入らず、代わって車を運転していったのはウクライナ側の担当者。200キロ余り先のウクライナ国境を越え、キーウへ到着したのは侵攻から3日目、2月26日の遅い時刻だった。

10ペタバイトの「避難」

 28日朝からのスノーボールへのデータの転送作業は、現地の職員らが国外のAWSのスタッフとチャットアプリでやりとりしながら進められた。

 国外移転されたデータは、10ペタバイト超とされる。

 AWSの試算では、企業などで一般的に使われる速さのネット回線をフルで使い続けても、転送を終えるまで約3年かかるデータ量に相当する。

 それが、数カ月で終えられた。マックスウェル氏は「当時の最大の心配が、通信ネットワークの状況。もう一つは、現場の人たちがこの機器を扱えるかどうかだった」と振り返る。

 そして、こう加える。「だが実際は、彼らはその能力を持ち合わせていた」

 マックスウェル氏は、戦時下での作業が成功した背景に、ウクライナ政府と国民のテクノロジースキルの高さがあると言う。

 AWSとの覚書や「雪玉作戦」につながる政府のデジタル化を主導してきたのはミハイロ・フェドロフ副首相兼デジタル変革相だ。フェドロフ氏は昨年11月、米国でのAWSのイベントで講演し、38の政府機関と24の大学に関するデータを国外移転させたと話した。

 そして、ロシアの攻撃で政府のバックアップデータを保管していた建物が破壊されたことも明かし、「(データの移転が)意味することは、教育が継続され、財産の所有権などの記録が維持されるということだ」と「雪玉作戦」の意義を強調した。

 マックスウェル氏は言う。「フェドロフ氏らは、戦時下の制約の中で最も難しい仕事を手がけた。彼らは勇敢な人々だ」
(編集委員・須藤龍也、同・五十嵐大介) 

大富豪ははなぜスーパーヨットを買うのか  NewYorkTimesコラム(朝日新聞有料記事より)

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ポール・クルーグマン

 ニューヨーク・タイムズ紙と提携して取材したこともある非営利・独立系の報道機関「プロパブリカ」は最近、米連邦最高裁のクラレンス・トーマス判事と保守派の大富豪ハーラン・クロウ氏の関係について、驚くべき記事を出した。

 ウォルマートの駐車場をぶらぶらするのが好きな控えめな嗜好の持ち主だと装っていたトーマス判事が、長年にわたってクロウ氏の負担で何度も豪華な休暇を過ごしていたというのだ。このことは、これまで公表されてこなかった。倫理的な問題は明白なようだ。

 だが、ウォールストリート・ジャーナル紙は「クラレンス・トーマスへの中傷」という見出しの社説を掲載し、プロパブリカを非難した。プロパブリカがスキャンダルに見せかけようと含みのある言葉を使っている、というのだ。クロウ氏が所有する全長162フィート(約50メートル)のプライベートボートを「スーパーヨット」と呼んだ、というのがその一例だという。このボートは「スーパーヨット・ファン」というウェブサイトに掲載されているにもかかわらず、だ。

 ニューヨーカー誌の2022年の記事によると、実はヨット業界では全長98フィート(約30メートル)を超えればスーパーヨットとして扱われている。

 一連の出来事で、大型ヨットと、大型ヨットが示す社会のあり方について考えさせられた。

 金持ちは大型ヨットを購入して運航する経済的余裕があれば、そうするものだ。実際、ヨットは所得と富が少数の手に集中している不平等を示す、大変分かりやすい指標だ。(19世紀後半の)「金ぴか時代」には、より大きく、より豪華な内装のヨットが続々と登場した。(モルガン財閥の創始者である)J・P・モルガンが大型の蒸気ヨットを建造した際には、1898年に行われた進水式をニューヨーク・タイムズ紙が取り上げた。

 反対に、1940年代に所得格差が縮小する「大圧縮」の時代を迎え、その後40年にわたり米国が相対的に中間層の社会になると、スーパーヨットの最初の黄金期は終わりを告げた。フォーチュン誌は55年に「経営トップ層の暮らしぶり」という素晴らしいエッセーで、その生活水準が戦前と比べるとどれほど質素になっていたかを強調した。とりわけ、大型ヨットは「累進課税の海に沈んだ」とし、「今では全長75フィート(約23メートル)ほどのヨットが一般的だと考えられる」と述べた。

 そして今、スーパーヨットが復活した。前述のニューヨーカー誌の記事によれば、私たちは今まさに「かつてないヨットビジネスの隆盛期」を生きている。

 私は長年、所得と富の不平等をめぐる議論を追うのに多くの時間を費やしてきた。80年代に経済格差の拡大が始まって以来、所得や富が上位層で急増しているというデータを疑問視し、格差の否定とも言えることに執念を燃やす知的産業のようなものが現れるようになった。確かに、上位層で物事を測るのには技術的な注意も必要だ。超富裕層はごく少数であるため、無作為抽出調査で見落とされる可能性があるし、節税にもたけているので、税務データでの追跡も困難だからだ。

 しかし、私たちが「金ぴか時代」に匹敵する、あるいはそれ以上に極端な富の集中の時代に生きているのかどうかに疑問を持っているとしたら、スーパーヨット・ブームがその疑問を解消してくれるはずだ。

 スーパーヨットの急増は、大金持ちの消費の動機と結果について、いくつかの重要なことを教えてくれる。

 まず、なぜ富裕層はスーパーヨットを買うのだろうか。

 ボートに乗ること、つまり大海原に出て自然を間近に感じることは、多くの人にとって大きな楽しみの源となり得る。(ちなみに私は違う。船酔いしやすく、シュノーケリング中に朝食を生態系に戻してしまうことで私は知られている)。しかし、本当に大きなヨットは、浮遊する豪邸のようなものなので、乗客は海上の体験から隔絶され、目的は果たせないように思える。

 実際、55年のフォーチュン誌の記事によると、当時の経営トップ層は、それ以前の富裕層が巨大ヨットに満足していたのと同じくらい、小型の船に満足していたという。「船旅好きの経営層の多くが興味を持つ船の仕様は『40フィート(約12メートル)、4人乗り、4万ドル』である。55年の経営者らは、この程度のこぢんまりとした船で実に満足げに海に出る」(ちなみに、55年当時の4万ドルは、22年現在の価値だと約45万ドルに相当する)

 しかし、巨大ヨットを所有し運航することは、(経済学者の)ソースティン・ベブレンがいう「誇示的消費」のこれ以上ない分かりやすい一例だ。直接的な満足を得るためではなく、自分の富や地位を顕示するための消費なのだ。前述のニューヨーカー誌の記事からは、「すべての富裕層が飛行機を持っていると思えてから、高揚感は消えた」とあるように、スーパーヨットへの需要は、自家用機の所有が人目を引くステータスシンボルでなくなってから実際に急増したのだ。

 ただ、ヨットはいくらでも大きなものを造ることができるので、このゲームに明確な終わりはない。ステータス争いは、単に暗黙のものでもない。例えばボート・インターナショナル社は毎年、「創意工夫と職人技」をたたえるとされる「世界スーパーヨット賞」を開催しているが、明らかに大きさも重視されている。

 ある意味、これは悲しいことだ。近代史の中でこれほど多くの富が少数に集中していることはまれなことなのに、その富の多くが相手を出し抜くためのゼロサムゲームに費やされている。

 もう一つのポイントは、ニューヨーク・タイムズ紙への投稿でも指摘されていたが、スーパーヨットが環境に多大な悪影響を及ぼす点だ。公平を期すために言うが、億万長者のスーパーヨットが及ぼす環境破壊が、同じ金額が他の方法に費やされるよりもひどいかどうかははっきりしていない。しかし、その可能性はあるだろう。海運や航空の脱炭素化が、おそらくスーパーヨットや自家用機も含めて難しいというのは周知のことだ。

 私は、地球を救うために経済を縮小しなければならないと考える脱成長論者ではないが、超富裕層によるぜいたくかつ破壊的な支出を抑制することは、気候変動の解決策の一つになるだろう。

 いずれにせよ、最高裁判事を乗せるかどうかにかかわらず、スーパーヨットの増加は極端な経済格差を表す明らかな指標となっている。そしてこの格差は、米国の民主主義を引き裂いている極端な政治の二極化の要因であることは明らかだ。そして、スーパーヨットをそう呼ぶことが何らかの下劣な中傷だと主張するような人は、この問題に加担しているのだ。

(NYタイムズ、4月11日電子版 抄訳) 

「縦割り」中国、台湾統一工作に矛盾 識者が語る日本の役割とは(朝日新聞有料記事より)

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 中国の習近平政権が今月、台湾の蔡英文総統の訪米に反発し、台湾周辺で軍事演習を行いました。習政権は3月の全国人民代表大会で、台湾の「平和的統一」をめざすと唱えたばかりです。中国の本意はどこにあり、今後、どんな動きが想定されるのでしょうか。中国の対台湾政策に詳しい東京大学の松田康博教授に聞きました。

 ――中国の軍事力増強が進み、世界的に台湾有事への関心が高まっています。「有事」はあり得ますか。

 台湾統一を目的とする中国の武力行使には、非常に大きなコストが伴います。米国の介入を招いて失敗するリスクがあるほか、低成長期に入った中国経済も甚大な打撃を受けます。中国軍の能力は飛躍的に向上しているものの、まだ台湾への上陸作戦を成功させられるレベルには達していません。私は、短期的には中国が台湾に進攻する蓋然(がいぜん)性は極めて低いと考えています。

 ――台湾本島ではなく、台湾が管轄する中国沿岸の金門島や馬祖列島など、離島への進攻の可能性はどうでしょう。

 限定的な武力行使でも、損得勘定が合いません。台湾統一を掲げる中国は、離島のみを攻撃しても、「本島は狙わない。これは限定的な攻撃だ」とは表明できません。また、台湾が管轄する南シナ海の東沙島や太平島を含め、離島には人が住んでいます。人的被害が出て、ボーダーラインが変更されれば、国際社会の警戒が高まり、台湾防衛準備がさらに進み、その結果、中国はかえって台湾を取りにくくなります。

 ――では、今回を含め、台湾周辺での軍事演習の狙いをどう理解すればいいのでしょうか。

 中国の軍事演習には軍事パレードの延長という性格もあります。台湾を含め、海外に台湾統一に向けた決意を見せつつ、国内にも政権の強さを示すことができます。中国軍も、最高指導部が認めた演習となれば、普段は台湾や国際社会の反発を警戒してできない弾道ミサイル発射訓練を台湾周辺で行うことができ、一石二鳥です。中国にとって演習は、常に成功や勝利が約束された手段なのです。

 ――習政権は3月の全人代でも、台湾の「平和的統一」をめざすと強調していました。

 中国の対台湾政策は、「独立阻止」と「統一促進」から成り立っています。

 その手段として、中国は経済面での台湾人の取り込みや、言語・文化的な近さを使った学生や宗教界との交流などを進めています。ところが、その一方で、軍事的、経済的な圧力もやめていません。つまり、同時に正反対のアプローチをとることで、それぞれの効果が相殺されてしまっています。

 ――矛盾するように見える行動の原因は何でしょうか。

 中国政府の各部門は、習氏の命令や指示に服従し、動いています。ただ、縦割りの組織で、部門をまたいだ横の政策調整ができていません。過去にも、矛盾した政策により、混乱が起きてきました。各部門も「習氏の指示通りにやった」と弁明するため、担当者が処罰されることもありません。習氏に権力が集中し、最高指導部もすべて年下のメンバーで意見具申できる人物がいなくなった結果、この傾向は今後、さらに強まると思います。

 ――中国の最終目的を台湾に対する「強制的平和統一」だと指摘してきましたね。

 「強制」と「平和」は矛盾した概念です。ただ、先に述べたように中国も武力行使は避けたいのです。そこで、台湾人の取り込みなど、様々な方法を使って台湾の独立を阻止しながら、まずは台湾に中国への抵抗力が弱い政権を台湾に誕生させようとしています。

 その上で、米国が介入しにくいタイミングを狙い、大演習を行って圧力をかけ、台湾の政権に統一を迫るのです。政権に「降伏しなければ台湾は滅亡する」と信じ込ませ、統一を受け入れさせる戦略です。

 ――台湾では、ロシアの侵攻を受けたウクライナに軍隊を派遣しなかった米国に対する不信感が広がっています。蔡総統の訪米はどんな変化をもたらしたと考えますか。

 ウクライナ戦争後、中国の軍事的圧力の増大は、米国が「戦略的あいまいさ」をとっていることもあり、中国語で「疑美(米)論」と呼ばれる対米不信を強めてしまいました。今回の蔡氏の訪米は、米台協力によって、対米不信を打ち消す意味があったと思います。

 台湾にとって米国は、安全保障面で最大の後ろ盾です。蔡氏が米国との関係強化を目指すのは当然の選択だと思います。

 ――一方で、国民党の馬英九前総統も同時期に中国を訪れていました。

 国民党は馬氏の中国での言動をひやひやしながら見ていたでしょうね。総統選を前に、台湾で「親中政党」という見方が広がることは、マイナスだからです。ただ、馬氏の訪中に絡むニュースはこの間、台湾のメディアでも多く報道され、少なくとも、蔡氏訪米をめぐるニュースの放映時間を減らす効果がありました。しかも、投票までまだ時間があり、悪影響はそれほど大きくないでしょう。

 ――米国は最近、日本やフィリピンなどとも協力し、中国抑止を進めようとしています。日本政府は防衛費の増額を決めましたが、台湾有事を防ぐ効果はどの程度、あると考えますか。

 自衛隊はこれまで実戦準備をしていなかったので、効果は極めて高いです。中国が台湾に進攻する際には、必ず在日米軍を含めた米国の軍事力を無力化しようと試みます。自衛隊が攻撃に耐える力や戦いを続ける力を高めたうえ、反撃能力を持つことで、中国の行動に対する抑止力が格段に上がります

 ――中国の硬軟の揺さぶりに直面する台湾に対し、日本が防衛力の強化以外で、できることはありますか。

 台湾人に対し、「国際社会で孤立していない」と伝え、行動することです。好例が、コロナ禍での日本によるワクチン提供でした。「東日本大震災の時に受けた支援の恩返し」という理由で、中国の「ワクチン封鎖」にあえぐ台湾に、大量のワクチンを贈ったことで、台湾に安心感を与えることができました。日本政府は、国民が支持したことで、果断な行動をとれたのです。

 また、中国は台湾からの農産物輸入を止めるなどの「嫌がらせ」を連発しています。中国が行う経済的な揺さぶりは、台湾向けにとどまりませんが、これまでは対象国が単独で対応するのが常でした。日本は、中国によるこうした経済的な揺さぶりを、国際協力によってやりにくくさせる方策を追求すべきだと思います。台湾が安心できる国際環境は、日本も安心できる環境なのです。
(聞き手・石田耕一郎) 

今朝の東京新聞から。

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