香港郊野遊行・續集

香港のハイキングコース、街歩きのメモです。

2023年09月

禁忌の僧侶批判に数千の「いいね」 仏教国ミャンマーで揺らぐ信仰(朝日新聞有料記事より)

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 「妄信するのはやめよう」「批判しても、地獄に落ちることなどない」

 2021年に国軍がクーデターで全権を握り、反発する人びとを弾圧し始めてから、ミャンマーのSNSにはこんな投稿が目立つようになった。すぐに数千の「いいね」がつく。

 批判の対象は、仏教僧だ。

【連載】見えない明日 ミャンマー クーデターが壊したもの

 2021年のクーデターで全権を握った国軍による抑圧的な支配に終わりが見えないミャンマーでは、社会のさまざまな要素が壊れ始めています。それは信仰心、自然環境、仕事……と広範囲に及びます。現場から報告します。

 国民の約9割を仏教徒が占めるミャンマーで、僧侶は尊敬の対象だ。市民が托鉢(たくはつ)僧に食べ物を捧げる早朝の風景はいたるところで見ることができる。人びとは、悩みごとがあれば寺を訪ね、僧侶に教えを乞う。よりよい来世を願ってのお布施も欠かさない。仏教と人びとのつながりは、日本人が想像するよりずっと濃密だ。僧侶批判は禁忌であり、考えられないことだった。

「殺害にも、空爆にも黙ったまま」と信徒はまくし立てた

 クーデターから2年半が過ぎた。国軍が国民の批判を封じる根拠となっている非常事態宣言は7月末に4度目の延長が発表され、抑圧体制からの出口は一向に見えてこない。国軍に殺害された市民の数は4千人を超す。そんな息の詰まりそうな状況のなかで、仏教や僧侶への帰依が「疑念」に変わりつつある。

 「国軍が市民を殺害しても、空爆しても、多くの僧侶は黙ったまま。家を追われた市民を助けた僧侶がどれほどいただろうか」

 ヤンゴンの女性教諭(24)はまくし立てるように言った。女性は最近、ミャンマーの誰もが知る高僧、セーキンダ長老の信徒組織を脱会した。

 セーキンダ長老はクーデターの前、「私はアウンサンスーチー氏の側にも国軍の側にも立たない。僧侶は政治的に中立であるべきだ」と繰り返し説き、「困ったことがあれば何でも相談しなさい」と言っていた。

 だが、クーデター後、セーキンダ長老の側近は信徒に対して反クーデターデモに参加しないようにとの通達を出した。複数の若い信徒がデモに加って拘束された時、セーキンダ長老らは沈黙した。

「信徒をえり好みしたことはない」と反論する僧侶

 その一方で、現地メディアは昨年7月、セーキンダ長老が最高権力者であるミンアウンフライン国軍最高司令官のロシア外遊に同行したと報じた。

 「これまで口にしたこともなかった僧侶への批判が止まらなくなった」。信徒の会社員男性(28)もそう振り返る。

 「私は仏教の教えに集中している。人々の批判は気にしていない」。セーキンダ長老は朝日新聞の取材にそう答えた。「政治的な問題についての質問には、僧侶としては何も答えられない」

 1980年代に当時の民主化運動を支持し、明快な説法で老若男女に人気だったティータグー長老もミンアウンフライン氏のロシア外遊に同行した。ティータグー長老は今年8月、ミンアウンフライン氏肝いりで首都ネピドーに建立された大理石製大仏の開眼式典にも出席して説法をした。

 「仏教は無力だと知った」「なぜ大勢を殺したミンアウンフライン氏に罰があたらないのか」「因果応報はうそなのか」「一部の僧侶はぜいたくざんまいの生活をしている」――若者の批判にはもうためらいは感じられない。

 ぜいたくな振る舞いや国軍との近さが批判されている僧侶のひとりを、ヤンゴンの僧院に訪ねた。

 僧侶は顔色を変えることなくこう言った。「私のもとを訪ねてくる信徒をえり好みしたことはないし、拒んだこともない。国軍と戦うための弾薬を私が寄付すれば、若者たちの気持ちはおさまるのか」

支配の「正統性」アピールに仏教を使う国軍

 国軍に近いとされた僧侶が何者かに殺害される事件も起きている。国軍系メディアは今年2月、民主派によってクーデター以降、僧侶24人が殺害されたと発表した。

 仏教界と国軍の関係は曲折をへている。1988年の民主化運動や2007年の反政府運動には僧侶が合流し、国軍の激しい武力鎮圧を受けた。一方で国軍は、支配の「正統性」をアピールするために盛んに仏教行事を執り行い、仏教の保護を印象づけてきた。

 ミャンマーの仏教に詳しい東大東洋文化研究所の藏本龍介准教授は「僧侶には現状を打開する力がないと市民が感じ始め、さらに国軍と近い立場の僧侶がいることも明らかになった。社会の中心にあった仏教や僧侶に対する大きな失望が広がっており、これはミャンマー史上、初めてのことだ」と指摘する。
(ヤンゴン=福山亜希) 

「ヒトラーの狂人」1943年

監督:ダグラス・サーク、出演:ジョン・キャラダイン


今朝の東京新聞から。

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「ロシア占領地域に普通の生活はない」 証言集めるウクライナの記者(朝日新聞有料記事より)

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 ロシアによるウクライナ侵攻から1年半が経過しました。英紙ガーディアンに寄稿しているウクライナのジャーナリスト、ナタリヤ・ギュメニュクさんは、ロシアによる戦争犯罪を文書化して記録する「レコニング・プロジェクト」を共同創設しました。

 ――ハルキウなどウクライナ各地で取材を続けているそうですね。

 レコニング・プロジェクトで、(ロシアによる)犯罪の直接の目撃者と対話もします。戦争の悲劇を生き抜き、苦しんだ人々の証言です。家を失ったり人々の死を目撃したりした恐ろしい話です。

 すでに数百もの戦争犯罪を生き抜いた人々の証言を記録しました。昨年6月、マリウポリからモスクワに連れて行かれ、養子縁組を迫られた子どもの証言を記録しました。幸い、家族は再会しましたが、今後、記録をウクライナ検察官に渡し、まずウクライナ語で発表する予定です。

クラマトルスク駅へのミサイル攻撃「最大の悲劇の一つ」

 昨年4月に起きた東部の主要な交通ハブ、クラマトルスク駅へのミサイル攻撃は、最大の悲劇の一つです。約60人が死亡し、120人以上が負傷しました。駅には当時、3千人以上の市民がいました。

 ロシア軍が使った兵器は、間違いなく人間にダメージを与えることを目的にしていました。「戦争の巻き添え被害にすぎない」とは説明できません。駅が標的にされたのです。それは犯罪でした。偶然の出来事でも、一人の兵士による誤った行為でもありません。

 ミサイルは都市へ、ショッピングモールへ、住宅地へと発射されます。「戦争の巻き添え被害」という表現は、正確には当てはまりません。最前線に近い町であれば攻撃される可能性も高まります。でも、間違いなくロシア軍による攻撃は、ウクライナ軍だけではなく、民間人をも対象としています。民間人が苦しんでいる確かな証拠が存在します。

 ――ウクライナの記者も攻撃の標的にされるのではないですか。

 砲撃で亡くなったすべてのジャーナリストが標的になったと言わなければなりません。ジャーナリストやボランティアだとわかれば、ロシア軍によって拘束されます。

 彼らは100%、標的にされていますが、残りの人々も攻撃されていることを理解するべきです。私もジャーナリストを名乗る前にまずウクライナ市民であると考えています。

「銀行も交通機関もない 食べ物へのアクセスも限られる」

 ――ロシアによる被占領地域の状況をどの程度、把握していますか。

 侵攻直後は、被占領地域から逃れた地元の記者にインタビューしていました。現在は、被占領地域から逃れた人々に話を聞いています。彼らは被占領地域に残った人々と連絡を取っているので、何が起きているのかを把握できます。

 ヘルソン州の一部が解放された後、人々の証言を確認することができました。むしろ、証言よりも現実の方が悪い状態でした。

 (被占領地域では)通りに出ると、尋問や嫌がらせを受ける可能性があるため、いつも自宅にいたそうです。普通の生活はありません。病院の設備は整っていません。銀行システムもありません。交通機関はなく、食べ物へのアクセスは限られています。被占領地域はロシアの軍隊によって運営されているのです。

 被占領地域からウクライナに逃れることは許可されていないので、逃げる唯一の方法はクリミアに行くことです。クリミアからロシアのどこかに行き、バルト3国などを経由して欧州に逃れます。

 被占領地域内を移動する際、人々は「filtration(濾過)」を受けることを恐れています。ロシア軍は、住民がウクライナ本土と連絡を取っていないか、徴兵できる年齢なのかを探っているのです。人々にとって被占領地域は、自分たちの領土なのに巨大な刑務所と同じようなものです。

 ――ウクライナ軍の反転攻勢の状況はどうなっていますか。

 ウクライナは航空優勢を握っておらず、高速の進軍を可能にする兵器もないため、厳しい状況にあると思います。

 戦争の長期化は、(被占領)地域がより要塞化されることを意味しますから、非常に困難な状況です。でも、他に方法はありません。反撃を続けます。

「平和は時々、武器で守られる」

 ――ウクライナと東アジアの関係をどうみていますか。

 ワシントンが中国の脅威にどれほど真剣に向き合っているのか理解しています。第2次世界大戦が終わると、英国は超大国ではなくなり、米国の世紀になりました。ロシアとこの戦争は、世界史と中国にとって重要です。同時に、この戦争でウクライナが勝利すれば、世界の安全保障システムは維持され、敗北すればすべての破壊を意味します。

 ウクライナは、中国が仲介者になるとは期待していません。中国に対する期待は、ロシアを公然と支援せず、経済的に支援せず、核を使用しないよう圧力をかけることです。ウクライナにとって、少なくとも中立的なパートナーとして、中国と関わることが重要です。

 ――ウクライナのため、日本や国際社会は何ができるでしょうか。

 インフラの再建や人道支援は重要です。私たちはウクライナの領土は再建されるに値すると信じています。

 同時に、軍事を含む直接的な支援が重要です。ウクライナを守るために、より強く正確な武器が必要です。直接の軍事援助は、まず命を救うことになるので、どんな形でも重要です。平和は時々、武器で守られます。現在、他の方法はないのです。
(牧野愛博) 

今朝の東京新聞から。

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「ポランスキーのパイレーツ」

忘れ去られた映画といえばこれ、1986年の大コケ作品。
日本ではビデオテープのみで。
IMDBに記載されているものを少しばかり紹介。

撮影は1984年11月にチュニジアで始まった。

撮影が始まるまでに予算は4,000万ドルに膨れ上がり、マッソーとポランスキーはそれぞれ100万ドルを要求し、映画のために建造されたガレオン船の費用は700万〜800万ドルで、2つのサウンドステージの建設に1,000万ドルが費やされた。

実物大のガレオン船は、チュニジアのスース市にあるポート・エル・カンタウイ港の造船所で建造され、タラク ベン アンマル スタジオに隣接しており、この作品専用に建設されました。 喫水線より上の正確なレプリカですが、鋼鉄の船体と 400 馬力の補助エンジンを備えたネプチューンは、チュニジア海軍の登録簿に登録されており、現在もジェノヴァ港の観光名所となっており、内部を見学することができます。 料金は6ユーロです。 ガレオン船は予定より 5 か月遅れの 1985 年 4 月 21 日まで完成せず、嵐に遭遇した 。

撮影は非常に問題を抱え、悪天候と多くの事故に見舞われた。

製作者のアマールは撮影中に「今頃、別のプロデューサーが髪を引きちぎったり、潰瘍を発症したり、精神安定剤を大量に飲み込んだりしているかもしれない」と語った。 「しかし、これは単なる映画です…確かに『パイレーツ』がヒットすることは私にとって重要ですが、失業率が約20パーセントに達するこの国で船を建造することで、2,400人に2年間働いてもらったことも重要です。 「はい、ポランスキーは災いを起こしやすいように見えますが、彼の才能は非常に優れているため、マッソーのような素晴らしい俳優やヨーロッパのトップ技術者が皆、ここで彼と一緒に仕事をしたいと考えていました。パイレーツは私のスタッフに、お金では買えない映画製作のレッスンを与えてくれています。」 

「ポランスキーはとても魅力的で魅力的だと思います」とマッソーは語った。 「彼はオーケストラの指揮者のようなものです。彼は音を与えますが、あなたは好きなように演奏します。あなたがインスピレーションを得たら、彼はあなたを放っておいてくれます。これは極端な例ですが、黒猫があなたの首に飛び乗ってくるとしたら、 、彼はそれを映画に取り入れたでしょう。」

アマールとプロデューサー仲間のトム・マウントはMGM/UAの関与に不満を抱き、最終的には映画を買収する資金を集めた。 キャノン・フィルムズが配給に同意した。


英米は制裁に動いたが・・・原子力分野の対ロシア包囲網を構築するカギは(朝日新聞有料記事より)

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 ロシアの原子力産業への制裁にはほぼ手つかずの状況が続く欧州連合(EU)だが、ロシアの国営原子力企業「ロスアトム」への制裁を強めている国もある。その一つが、EUを離脱した英国だ。その背景とは――。

 英政府は今年2月、ロシア国営企業で原子力ビジネスを一手に担うロスアトムのアレクセイ・リハチェフ社長ら、同社の取締役会メンバーらに資産凍結や渡航禁止などの制裁を科すと発表。5月までに、原子炉の設計などを手がける研究センターなど、ロスアトム傘下のグループ企業11社にも資産凍結などの制裁を科した。

 制裁の理由について英政府は、ロスアトム幹部や傘下企業がビジネスを通じ、ウクライナに侵攻するロシア政府を支えていることなどを挙げた。また、ロスアトムグループの一部企業が手がける製品が、ロシア軍の武器などに転用されている疑いにも触れている。ロスアトム傘下の企業が手がけるレーザーが戦車に装備されたり、生産する炭素繊維をベースにした複合材料が軍事転用されたりする恐れがあるという。

 離脱したとは言え、同じ欧州地域でありながら、EUはできず、英国が制裁に踏み切れるのはなぜか。

日本は、原子力狙いの制裁は未実施

 その一因について、英王立国際問題研究所のアントニー・フロガット上級研究員は、ロシアへの原子力依存の低さがあると説明する。

 フロガット氏は「英国には1950年代初頭から稼働していた再処理施設や、ウランの濃縮施設もあったため、ロシアへの依存度はかなり低い」と分析。英国は稼働中の原子炉9基を抱えるが、運転を担う仏電力公社EDFの広報担当者によると、このうちロシアからの燃料を使っているのは英南東部にあるサイズウェルB原発の1基のみだという。

 北大西洋条約機構(NATO)の盟主でロシアに厳しい姿勢をとる米国は、米エネルギー情報局によると、昨年の国内原発向けの濃縮ウランの24%をロシアから輸入しており、ロシア依存は小さくない。それでも、米国務省は今年2月、ロシア軍が占拠するザポリージャ原発の管理を担うために設立されたロシア企業や、国外での原発建設を担うロスアトムグループ企業などに制裁を科すと発表した。

 米議会下院の小委員会ではウラン輸入を禁止する法案が5月に可決されるなど、脱ロシア依存に向けた動きとともに、制裁へも前向きな姿勢をみせる。

 カナダも8月、一部のロスアトムグループ企業に制裁を科すと発表するなど、米英に足並みをそろえている。

 だが、米英やカナダの制裁ですらも、ロスアトムグループ幹部や一部のグループ企業に限られている。本格的なロシアの原子力産業への制裁と呼ぶにはほど遠い。広島で5月にあった主要7カ国(G7)のサミットの首脳声明では「ロシアからの民生用原子力および関連製品への依存をさらに低減する」と盛り込まれたが、原子力分野への制裁の議論は盛り上がらなかった。

 米欧と足並みをそろえて経済制裁を科す日本は、これまでの制裁対象に原子力関連の研究機関が含まれてはいるが、ロシアの原子力ビジネスに狙いを定めてはいない。

 果たして日本の原子力産業はロシアにどの程度依存しているのだろうか。経済産業省の担当者に尋ねると、国内原発のサプライチェーン(部品供給網)にロスアトムグループが関わっているという情報は把握していないという。EU諸国が依存する濃縮ウランについては、2022年2月のウクライナ侵攻前に結んだ契約に基づいてロスアトムグループから今も購入する国内の電力会社はあるが、大きく依存する状況ではないとされる。

 ただ、国際的にロシアの原子力産業への制裁機運が高まらないなか、日本政府として制裁を急いでいる様子は感じられなかった。

 今後のロシアの原子力産業への制裁は、濃縮ウランの供給を中心としたロシアへの依存関係をどこまで減らせるかに左右される。

 ロシア型原子炉が15基あるウクライナは昨年4月、米原子力大手ウェスチングハウスから全量、燃料を調達することで合意した。ウクライナは繰り返し、EUなどにロシアの原子力産業への制裁を求めている。

 英国王立防衛安全保障研究所のダリヤ・ドルジコワ研究員は、「(燃料調達での)ロシアからの切り替えは技術的には可能だが、西側諸国に十分な生産能力などがあるかが問題だ。時間と投資が必要になる」と話す。

世界で増えるロシア型原子炉 新興国に影響力も

 ただ、仮にG7を中心に先進国の原子力分野での「脱ロシア」がうまく進んだとしても、国際的な包囲網をつくるのは難しい。新興国を中心にロスアトムグループが手がけるロシア製の原子炉を導入する国が増えているためだ。

 日本エネルギー経済研究所の木村謙仁・主任研究員が、日本原子力産業協会の統計(23年1月1日時点)をもとに分析したところ、世界で建設中の原子炉72基のうち、ロシア製が26基と最も多く、中国製が20基と続く。計画中の原子炉86基でもロシア製と中国製が25基ずつでトップだという。

 木村氏は「中国製は中国国内がほとんど。最も原発の輸出が盛んな国はロシアだ。世界で稼働中の原発は米欧製が中心だが、今後はロシア製、中国製がどんどん増える」と言う。

 ロシア製の原発が建設されているのは、中国、インド、バングラデシュ、エジプトやトルコなど新興国が中心だ。ロスアトムの原子炉は米欧製などに比べて安いうえ、原子炉建設だけでなく、資金の手当てや人材育成などを含む総合的なサービスを提供することで、世界で受注を増やしている。

 このため、ロシアが原発の受注拡大を通じ、エネルギー安全保障分野で新興国への影響力を強める可能性もある。原子力だけに配慮したわけではないにせよ、実際に中国やインドは今年2月の国連総会で、ロシア軍に「即時、完全かつ無条件の撤退」を要求する決議を棄権するなど、ロシアとの関係には配慮を見せている。

 その意味では、ロシアの影響力を抑えたい日米欧にとって、自国での脱ロシア依存だけでなく、新興国を含めた世界のエネルギー安全保障体制をどう築いていくかが大きな課題だ。

 ロシアにとって原子力産業は稼げるビジネスだ。英国王立防衛安全保障研究所のドルジコワ研究員が関税データなどをもとに調べたところ、ロシアは、ウクライナ侵攻後の22年3~12月に、10億ドル(1480億円)以上相当の原発設備など原子力関連製品を輸出した。これには濃縮ウランなどは含まれておらず、輸出額はさらに膨らむという。こういった収益がロシアの財政を支え、ウクライナ侵攻の戦費の一部になっているとの懸念は強い。

 事業を拡大するロシアの原子力ビジネスに対抗するのは容易ではないものの、新興国を取り込むために日米欧側でも改善できる余地は大きいとの指摘もある。

 日本エネルギー経済研究所の木村氏は「ロシアへの制裁で終わりではなく、日米欧は、世界の原発プロジェクトを(ロシアから)自分たちの手にどう取り戻していくかを真剣に考えていく必要がある。建設の遅れをなくしたり、魅力的な条件で資金を提供したりする体制をつくるなど、できることは多い」と話す。

 当面は原子力分野の「脱ロシア依存」を進めつつ、中長期的には原子力依存そのものを減らす取り組みも必要だ。脱原発を決め、再生エネルギーへの転換を進めるドイツをはじめ、原子力に頼らずにエネルギー需要をまかなえる仕組みを示していけるかも問われる。

邦人拘束「中国に堂々と主張を」 及び腰な政府に元警察官僚は訴える(朝日新聞有料記事より)

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 中国で2014年に反スパイ法が施行されてから少なくとも17人の日本人が拘束され、10人が裁判で有罪判決を受けています。今年、法律が改正されて、さらに取り締まりが強化されそうです。中国の対応は理解に苦しみますが、元警察官僚で内閣審議官なども務めた南隆さんは、日本側の対応にも問題があるといいます。南さんに話を聞きました。

みなみ・たかし 1952年生まれ。警察庁入庁後は諜報事件などを捜査する外事畑や公安畑が長い。89~92年に在中国日本大使館1等書記官。元内閣官房審議官兼内閣情報調査室審議官。

 ――すでに多くの日本人が拘束されています。

 中国政府は詳細を公表しませんので、報道などを元にまとめると、14年に反スパイ法が施行されてから、17人が拘束され、全員が「スパイ」と認定されているようです。このうち10人が裁判で有罪判決を受けています。量刑は重く、懲役3~15年。昨年、70代の元航空会社社員の方が獄中死しています。

 今年7月には改正反スパイ法が施行されました。幅広い解釈が可能でより広範囲に「スパイ」の摘発が可能となりました。

 ――人権の視点からも異様な事態です。

 判決文を読むと、実質的に中国の国益を害したのかどうかではなく、日本の公安調査庁と接したという事実をもって「スパイ」と認定しているようです。日本であれば、政府関係者と接し、時に質問することなどは通常の社会生活の範疇に含まれる合法的な行為でしょう。同じレベルの活動をしている在日中国人はごまんといるはずです。

 ――常軌を逸しているように思います。

 しかし、中国の姿勢自体は以前から変わっていないと思います。

 私は1989~92年に北京にある在中国日本大使館に出向して、天安門事件も現場で目撃しましたが、流血による弾圧後の戒厳令下、危険分子と見なす外国人やそうした外国人と交流のある中国人に対する当局の監視体制はかなりのものでした。

 ソ連崩壊後は、中国は経済は改革開放していくが、政治改革は一切しないという姿勢でした。外国資本は歓迎だが、共産党の一党独裁体制を揺るがすような西側文化の流入は阻止するというものです。

 ――具体的にはどんな攻撃姿勢でしたか。

 例えば邦人記者が中国共産党や軍事関係の情報をスクープすると危険人物としてマークされます。私は、邦人記者が拘束されるたびに中国公安部へ行き、抗議をしていました。しかし「内政干渉には応じられない」で押し通されました。常に尾行されて精神を病む邦人記者もいました。これに対し、日本政府の対応はその場をしのぎ、やり過ごすだけでした。

 ――皆さん拘束されて、裁判になったのでしょうか。

 刑事手続きにまでいくことは少なかったです。非公式の国外退去で決着することがほとんどでした。

 中国は当時、外国資本の誘致が必要でしたから、西側諸国との関係を悪化させたくなかったのでしょう。日中関係も、経済だけ見ればまだまだ日本の方が上でした。しかし中国が強国に成長し、習近平政権となってからは、厳罰に処することが増えました。

 ――やりすぎだと思います。

 中国の行き過ぎた対応はもちろん批判されるべきことです。また、自国への「スパイ」活動を取り締まる一方で、国家情報法第7条により海外に住む中国国民に対しては、情報活動を義務づけています。矛盾どころではないですね。

 しかし、私は日本政府の対応についても問題があると思います。

 ――どうしてでしょうか。

 私がこの拘束問題を調べるようになったのは、鈴木英司さんの「中国拘束2279日」を読み、驚愕したことがきっかけです。

 鈴木さんは長年草の根レベルでの日中交流に尽力された方のようですが、2016年にスパイ容疑で懲役6年の実刑を受け、昨年帰国されました。著書には、突然空港で拘束、尋問された時の様子や獄中生活などが生々しく書かれています。

 今も獄中で叫び、助けを求めている人がいるのかもしれない。私はそう思い、自分でも調べ、研究者や友人の記者らにも聞いたのですが、その実態は全く分かりませんでした。犯罪事実だけではなく、氏名すら分からない人もいるのです。それよりも驚いたのは、多くの日本人は、こうした事実すら知らないということでした。

 というのも日本政府は情報開示に積極的ではなく、会見などでも「個別の事案についてお答えすることは控えたい」というような対応です。メディアの関心も欧米諸国に比べると極端に低い。

 ――なぜ政府は情報開示に積極的ではないのでしょうか。

 日中の国交回復直後は、過去の戦争への贖罪意識があったはずです。だから問題があっても「臭いものにはふた」をする姿勢だった。その歴史事情はやむを得ないところがある。しかし、時代が変わってもその姿勢が染みついてしまい、前例踏襲、事なかれ主義として今でも残っているのでしょう。

 経済関係を損ないたくない。日中関係にこれ以上火種を作りたくない。色々な理由があると思いますが、中国から不当な対応を受けた場合の日本政府の対応は卑屈なほど弱腰だと思います。面倒でやっかいな中国政府との交渉を避けるためには、なるべく情報は公表せず、忘れられるのを待っていた方がいいという考えが透けて見えます。しかし、国民の安全を守るというのは、国家として最低限度の責務ではないでしょうか。

 メディアも問題です。初報の後、継続的に深掘りしていくことはありません。結果、国民が事実を知る機会が損なわれているのです。

 ――日本の態度は中国政府にも見透かされているのでしょうか。

 そうでしょう。海外では、政府が情報を公開し、メディアが継続的に報じ、その結果国民レベルの連帯が生まれる。最近では中国通信機器大手「ファーウェイ」の問題で、中国の「人質外交」を激しく非難したカナダの対応などがそうでしょう。

 もちろん中国は、原理原則に忠実で外圧には強く、そう簡単に方針を変えることはありません。しかし、日本政府が中国に対して堂々と主張して不法行為を批判し、主権者である国民が事実を知り、対中政策の国民レベルでのコンセンサスを作っていくことは必要なはずです。そうすることで、中国側の反撃はより厳しくなるかもしれない。しかし、厳しい現実を知れば、徒手空拳でいたずらに「反中」をあおる身の程知らずな傾向への抑制にもなります。合理的な解決策も見えてくるのではないでしょうか

 ――鈴木氏の著書には、真摯に問題と向き合わない外交官の話も出てきます。例えば、拘束されている鈴木氏に面会に来た外交官のやる気のなさが実名で批判されています。

 情けないの一言です。職責への無自覚もさることながら、印象としては「また一つ仕事を増やされた」といったような「お上」意識も働いているように思われます。できるかぎりトラブルを避けようとする「保身」文化も感じます。

 先日、帰国した鈴木さんに外務省が初めて聴取したという報道がありました。理不尽にも6年間牢獄につながれていた日本人に対し、邦人保護を所掌する外務省領事部が帰国後約11カ月、何の聴取もしていなかったわけです。

 ――日本の公安調査庁との関係を中国側に問われた邦人も少なくないと言われています。鈴木氏も著書で同庁職員らの身分証の写しと思われる写真が尋問中に示されたことなどから、庁内にスパイがいる可能性を指摘しています。

 その点は分かりません。しかし、過去にも北朝鮮で抑留された記者が同じような写しの写真を見せられたと証言しています。

 情報を扱う機関にとって、情報協力者の秘匿は最低限度のモラルです。このようなことが再び起きないように、一から作り直す覚悟で組織を立て直すべきでしょう。

 ――今後の日中関係については、どうあるべきでしょうか。

 日中関係には不幸な歴史があり、まだまだ日本人に対する恨みが解消しているとは思えません。経済力が勝っていた時期に、もう少し対等な関係を構築しておくべきだったでしょうが、現状は厳しく、当面は危機管理が主眼とならざるを得ないでしょう。しかし、次の世代のために、長期的視野に立った関係改善に向けて努力することです。長年中国の人と付き合った経験からすると、卑屈な態度をとると中国人は逆に軽蔑するように思えます。もっと主体性をもって堂々と言うべきことを言える関係を作るべきではないでしょうか。
(聞き手・田島知樹 

ロシア依存の原発で電気代安く 「東方開放」ハンガリー、狙いと課題(朝日新聞有料記事より)

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 中欧ハンガリーの首都ブダペストから車で南に約1時間。ドナウ川沿いにある人口約2万人の町、パクシュには、国内で唯一の原発がある。

 7月下旬、パクシュ原発を訪れた。関連企業を含め約5千人が働く原発は2022年、ハンガリーの総発電量の47%にあたる電力を供給したという。電力供給での原発依存度は高い。

 4基の原発はすべてロシア型原子炉で、いずれも1980年代に運転を始めた。原子炉を含む主要部分は旧ソ連製で、経済相互援助会議(コメコン)の国際分業体制のもとでつくられた旧共産圏の製品も多く使われているという。燃料も運転開始当初から旧ソ連製で、今もロシア国営企業で、原子力ビジネスを一手に担うロスアトムグループからすべて購入する。

 ハンガリーを含む中東欧諸国のロシア依存は冷戦時代の歴史的なつながりなどもあって、今も色濃く残っている。ブルガリアやスロバキアなど旧共産圏の中東欧諸国には同様にロシア型原子炉が多い。

 なかでも、ハンガリーには特別な事情がある。

ロシアが資金の8割を用立て

 それは、ほぼ半世紀ぶりに建設される「パクシュ2」と呼ばれる新原発の建設をロスアトムグループが手がけることだ。

 パクシュ原発建屋の上階に上がると、数百メートル先に少し掘り起こされた草地が見えた。

 「あれがパクシュ2原発の建設予定地です」と担当者が教えてくれた。本格的な建設作業はこれからのようだ。

 ハンガリーがロシアとパクシュ2建設の政府間協定を結んだのは2014年1月。ロシアがウクライナのクリミア半島の併合宣言をする直前だった。

 入札もなく、政府間の協議でロスアトムの受注が決まった。当時はハンガリーでは野党からロシア依存が強まることなどへの批判があったが、政権が押し切った。

 背景には、10年に政権に返り咲いたオルバン首相の存在があった。オルバン氏は「東方開放政策」を掲げ、ロシアや中国など東側諸国との関係強化を目指したのだ。

 当時、欧州連合(EU)がユーロ危機などで苦しむなかで、オルバン政権は東側に成長の機会を求めた。その柱の一つがロシアとのエネルギー関係の拡大だ。原発発注もその流れに沿ったものだとされる。

 こういった事情もあって、ロシアもハンガリーの要求に相当有利な条件で応えた。

 計画決定から運転開始まで通常10年以上かかる原発は、工事の遅れなどで費用が膨らむことが多いが、パクシュ2はハンガリーの負担を125億ユーロ(約2兆円)に固定し、追加負担が発生しないようにした。資金も100億ユーロをロシアの金融機関が融資し、建設費の8割をロシア側が用立てる内容だ。民間企業では、ここまでリスクをとるのは難しい。

 14~19年に政府のパクシュ2担当委員や担当次官を務めた、ブダペスト工科経済大教授のアソディ・アティラ氏(53)は「資金をどう手当てするかが、まずカギだった。当時、100億ユーロもの資金を長期かつ安定した条件で提供してくれる会社は、ロシアのほかになかった」と話した。

 欧州ではフィンランドの原発事業会社が昨年4月、ロスアトムの子会社と契約していた新原発計画の中止を発表するなど、関係を見直す動きもある。ハンガリーでも「ロシアへの依存は危うい」(緑の党のウンガール・ペーター議員)との声があがるが、オルバン政権はロシアとの友好関係を維持し、ロスアトムとの計画を継続して推進する方針だ。

エネルギー分野での親密な関係 背景に公共料金の抑制策

 ロシアとの関係にそこまでこだわるのはなぜか。

 ハンガリーのシンクタンク「ポリティカル・キャピタル」のアナリスト、アンドラシュ・バルトーク氏に聞いた。東方開放政策でロシアに近づくことで、ハンガリーのEU内での存在感を高めるというオルバン政権の外交戦略のほかに、光熱費の引き下げ政策が関係していると、バルトーク氏はみる。

 オルバン政権は電気など公共料金に上限を設け、政府が料金を肩代わりする形で家計負担を軽くして支持を集めてきた。この政策を継続するため、原油や天然ガスも6~8割を安価なロシア産に頼り、「公共料金を抑えるうえでロシアは重要なパートナーになった」という。

 原発も光熱費政策の流れの中で、重要な位置を占める。ハンガリーは電力需要の2割超を価格変動が大きい輸入電力に頼る。パクシュ2原発が完成すれば自国ですべて電力をまかなえ、価格変動が抑えられるとの算段がある。

 パクシュ2の事業会社は取材に「(パクシュ2で)電力価格を手頃な水準で維持できる」と強調。EUによるロシアの原子力分野の制裁には「ハンガリーは自国のエネルギー主権を危うくするような措置を支持しない」と説明した。

 ロシアに依存するのはハンガリーだけではない。

 EUの核燃料の管理などを担う欧州原子力共同体供給局(ESA)によると、21年時点で、EU向けの原発の燃料に使うウランのうち、濃縮ウランの31%、天然ウランの20%をロシアに頼る。

 ロシア依存度が高い国の一つとみられるのが、欧州で最多の56基の原発を抱えるフランスだ。英国王立防衛安全保障研究所のダリヤ・ドルジコワ研究員(原子力政策)の調べによると、フランスは22年、前年の4倍の3億5900万ユーロ(約567億円)相当の濃縮ウランをロシアから輸入したという。

 フランスは原子力大国だけに、ロシアの原子力ビジネスとも密接な関係を持つ。フランスもEUによるロシアの原子力産業への制裁には慎重とされ、自国の原子力事業に影響が及ぶ事態は避けたい思惑が浮かぶ。

 マクロン仏大統領は今年3月、オルバン氏と会談。仏紙ルモンドによると、両首脳はパクシュ2原発について議論し、仏側は計画を支援する意向を示したという。仏エネルギー移行省はロスアトムへの制裁について、同紙の取材に「ロシア経済に与える影響が相対的に小さいため、必要だとは考えていない」と答えている。

ロシア型原子炉の導入計画 侵攻で不透明さも

 ただ、ロシアに依存する原発計画が、ウクライナ侵攻に伴う制裁で阻まれる場面も出てきた。

 ハンガリー政府は今年4月、パクシュ2の契約内容の修正でロスアトムと合意した。原子力事業に詳しい関係者によると、当初の契約にあった、融資を実行するはずだったロシアの政府系金融機関が米欧の制裁対象になり、国際的な決済網である国際銀行間通信協会(SWIFT)から締め出されたのだという。送金に支障が出るおそれがあるため、別の金融機関に変えられるようにするなどの条件変更がされたとみられている。

 パクシュ2の主要システムの納入計画も修正を迫られる可能性が出ている。原発の制御装置を納める予定のドイツ企業シーメンス・エネルギーによると、ドイツ政府当局からの輸出許可が下りていないという。理由は不明だが、シーメンスが輸出できない場合の対応も課題になっている。

 ハンガリー政府から補助を受けるパクシュ2は、EUの国家補助の審査が想定以上に時間がかかった。ロスアトムの設計作業の遅れも重なり、稼働開始は当初目標の25年から遅れ、早くても30年代前半になっている。

 オルバン氏率いる与党に所属するパクシュのサボー・ペーター市長(49)は「原子力への制裁の可能性も含め、事業の先行きを不安に思う理由はたしかにある」としつつも「政府が制裁を阻止すると信じている」と強気の姿勢を見せた。
(ハンガリー南部パクシュ=寺西和男、パリ=宋光祐) 

ドイツでロシア企業からむ原発計画が浮上 脱依存へ、欧州のジレンマ(朝日新聞有料記事より)

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 「脱原発」を決めたドイツで稼働する最後の原子力発電所3基が止まった2023年4月15日。反原発団体が稼働停止を祝うイベントを取材するため、そのうちの1基がある北西部ニーダーザクセン州リンゲンを訪れた。

 だが、聞こえてきたのは歓声や原発停止を祝う言葉ではなかった。

 目の前には約300人のデモ参加者がいた。

 彼らが集まっていたのは、この日停止するはずの原発ではなく、数キロ離れたある事業所前。午後1時になると、いきなり抗議活動が始まった。

 小雨が降る中、仮設の舞台に上がった、反原発団体幹部のアレクサンダー・フェントさん(53)は「我々はプーチン(政権)を制裁で弱体化させ、戦争を終わらせるためにあらゆることを試みている。しかし、ここでは正反対のことが起きている」などと呼びかけた。

 「プーチン(大統領)の利益になる取引はやめろ」

 参加者が次々と叫んだ。

「プーチン?」

 いったいどういうことだろうか。

ロシア原子力ビジネス 断ち切れぬ欧州のジレンマ

ウクライナを侵攻するロシアへの制裁でも、ほぼ手つかずな原子力産業。欧州では、本格的な制裁や取引中止を求める声が出ていますが、欧州に根を張ったロシアの原発ビジネスからの脱却は難しいようです。なぜでしょうか。記者が現場から探ります。

ドイツ州政府幹部「協力はやめるべき」

 意外な答えがデモ参加者から返ってきた。

 この事業所で計画されているロシア企業との事業がいま、地元で問題になっているのだという。

 ロシアの国営原子力企業ロスアトムが関わっているためだ。

 ロスアトムはロシア連邦原子力庁が前身で、ロシアの原子力ビジネスを一手に担う大手企業だ。ロシア軍が占拠するウクライナ中南部のザポリージャ原発に職員を派遣して運転管理するなど、侵攻を事実上支えている。一部のグループ企業が、兵器に転用可能な製品や素材などをつくっているとも指摘されている。

 このため、「ロシアの侵攻を止めようと力を尽くしている時に、侵攻に手を貸すロシア企業と新たにビジネスをするのはおかしい」(デモ参加者)というわけだ。

 事業を計画しているのは、フランス電力公社EDF傘下の原子力事業会社フラマトム。同社は、原発向けの燃料や関連機器などを手がけ、三菱重工業が主要株主として約2割出資している。

 同州のクリスティアン・マイヤー環境・エネルギー・気候保護相や州政府の担当者によると、フラマトムはロスアトムのグループ会社と合弁会社をつくり、リンゲンの工場で、中東欧にあるロシア型の原子炉向けの燃料を製造する計画を州政府に申請している。合弁会社は当初ドイツ国内に設立する予定だったが、設立先をフランスに切り替えたという。フラマトムに理由を尋ねたが、「センシティブな事業の情報は公開していない」として合弁会社の設立の有無も含め明らかにしなかった。

 マイヤー氏は取材に「ロシアによるウクライナへの残忍な戦争が起きている中、原子力産業におけるロシアとの協力を止めるべきだ」と話し、この申請についてドイツ連邦政府と連携して精査すると説明した。

 ドイツ環境省のクリスティアン・キュン政務次官(緑の党)も取材に「現状でロシアと関係を強化するのかどうかというのが、基本的な問題。私は正しくないと思う」と否定的な見方を示した。ドイツの3党連立政権に入る緑の党は原発に反対の立場で、政府の原子力政策への影響力は大きい。

 脱原発を完了し、原発燃料が必要のないドイツが、ロシアが関わる原発ビジネスに反対するのは理解できる。

ロシア原子力産業への制裁、EU手つかず

 しかし、欧州全体でみると事情は異なる。欧州連合(EU)加盟国では12カ国に原発があるが、原発事業でロシアに依存する国も少なくない。関係を断ち切ろうにも切れないジレンマを抱えている。

 とくに冷戦期、ソ連の旧共産圏の一部だった中東欧では、当時導入されたロシア型の原子炉が多くある。特殊な技術が必要になる燃料を中心にロスアトムグループに頼ってきたが、ウクライナ侵攻を受け、ロシアの依存度を下げようと多くの欧州諸国は調達先の切り替えに動き出している。

 ロシア型原子炉の燃料製造にフラマトムが関わり、ロスアトムのノウハウを吸収し、最終的にロシアなしでも生産できる体制ができれば「脱ロシア依存」の助けになるとの見方もある。

 フラマトムの広報担当者は取材に対し、ロスアトムとは17年に燃料組み立てなどで協業することを目的とした覚書を結び、21年11月に延長したと説明。これまでプロジェクトは実行されていないといい、「事態の進展に応じて決断が下せるように、状況と(会社の)活動範囲に及ぼす影響を注意深くみていく」と回答した。

 企業だけでなく、対応に追われるのがEUや加盟国だ。

 EUは、ロシアのエネルギー産業が戦費の調達源になっている可能性があるとして、ロシア産の石炭や、海上輸送されるロシア産原油の輸入を禁止にするなど制裁を科してきたが、原子力分野への制裁はほぼ手つかずのためだ。

 それでも脱原発を成し遂げたドイツのほか、ロシアに強硬姿勢をとるリトアニアやポーランドなどは原子力も制裁に加えることに前向きだ。ドイツのハベック経済気候相は4月、独DPA通信の取材に、EUにロシアの原子力産業への制裁を働きかけていることを明らかにした。

 だが、各国でロシアの原子力への依存度などの事情が異なり、足並みがそろわない。

 そこでカギを握るのが中欧のハンガリーだ。制裁はEU加盟国の全会一致で決めるという原則があり、ロシアの原子力産業への制裁に反対姿勢を明確にするハンガリーのオルバン首相は、拒否権を発動する考えも示唆している。

 なぜ制裁に反対するのか。ハンガリーの原子力事業にロシアはどう関わっているのか。現地に向かった。
(ドイツ北西部リンゲン=寺西和男) 
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