香港郊野遊行・續集

香港のハイキングコース、街歩きのメモです。

2023年10月

イスラエルの子を守るために、ガザの子を殺すな N.Y.Timesコラム(朝日新聞有料記事より)

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ニコラス・クリストフ

 中東の危機は、特効薬のない異様な挑発にどう対応するかという、我々の人間性が試される難しい試練だ。そしてこの試練に、西側にいる私たちはうまく対応できていない。

 イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザ地区への大規模な空爆や、間もなく始まるであろう地上侵攻は、イスラム組織ハマスとその数々のテロ行為に関連づけられたパレスチナの子どもたちが、犠牲になってもたいしたことのない存在だとみなされていることを示している。ガザ保健省によれば、ガザではわずか2週間で1500人以上の子どもたちが殺され、住宅の約3分の1が破壊されたり損壊したりしている。しかもこれは、さらなる流血が予想される地上侵攻を前にした、地ならしにすぎないのだ。

 私は、太陽の光が降り注ぐ美しいイスラエルのテルアビブに飛んだ。そこには「ハマスを壊滅しろ」という落書きがあった。イスラエル国民は、ハマスのテロと拉致によって打ちのめされている。自らの存在の危機を感じさせる攻撃に遭い、どんな代償を払ってもハマスを打ち砕こうとイスラエルは固く決意している。テルアビブは落ち着いているように見えるが、街を覆う不安感は明白だ。一方、ガザは地獄の中にあり、おそらくもっと悪い状況へと進んでいる。

人命に「階級」? バイデン氏への危惧

 米国は原則をよく口にする国だが、私が危惧するのは、バイデン大統領が米国の公式な政策に、重んじるべき人命の「階級」を組み込んでしまったのではないかということだ。彼はハマスによるユダヤ人の虐殺に当然の怒りを表明したが、それと同じように、ガザの人々の命を尊重するという立場を明確にすることができなかった。イスラエルという国家を支持しているのか、それとも、長年和平を妨げてきたネタニヤフ首相を支持しているのかもはっきりしない。

 バイデン政権がイスラエル支援のため140億ドルの追加予算措置を議会に求めながら、同時にガザの人々への人道支援を呼びかけていることをどう考えればいいのだろう。イスラエルの防空システム「アイアンドーム」のための防衛兵器なら理にかなっているだろうが、実際は、我々の兵器によって一部引き起こされた流血をぬぐうための人道支援に、お金を払うということなのだろうか?

 爆撃で妻と息子を失い、負傷した2歳の娘を治療しなければならなかったガザのイヤド・アブ・カルシュ医師に、私たちは何と言えばいいのだろうか。彼は愛する人の遺体の処置をしなければならず、めいや妹をケアする時間さえなかった。

 「いま話している時間はない」。彼は電話口で声を震わせながら、ニューヨーク・タイムズの同僚に言った。「家族の埋葬に行きたいんだ」

 バイデン氏は19日の演説で、壊滅を狙う勢力によって攻撃を受けたウクライナとイスラエルを強く支持するよう米国民に呼びかけた。それはいいだろう。しかし、仮にウクライナがロシアの戦争犯罪に対し、ロシアの都市を包囲して攻撃し、粉々にしたうえ水と電気を止め、何千人もの人々を殺害し、医師たちに患者を麻酔無しで手術せざるを得なくさせたとしたらどうだろう。

 我々米国人が肩をすくめて、「まあ、プーチンが始めたことだし。ロシアの子どもたちには気の毒だけど、生まれるならどこか別の場所を選ぶべきだったのにね」と言うとは思えない。

包囲攻撃と処罰に耐えるガザの子どもたち

 ここイスラエルでは、ハマスの攻撃が非常に残忍で、ユダヤ人虐殺やホロコーストの歴史に合致するものでもあったことから、たとえ多くの犠牲を払うことになってもハマスを一掃する、という決意に至った。「ガザは人間が存在できない場所になるだろう」と、イスラエル国家安全保障会議の元トップ、ジオラ・アイランドは宣言した。「イスラエル国家の安全を確保するためには、これ以外の選択肢はない」と。

 この見解は現実的かつ道義的な誤算を含んでいる、と私は思う。ハマスの終わりを見たいと思うが、ガザから過激主義を排除することは難しいだろう。地上侵攻は、民間人の耐えがたい犠牲により、過激思想を抑え込むよりも助長する可能性が高い。

 特に、多くのパレスチナ人がハマスに共感しているからガザの人々の命は重要ではない、という暗黙の考えに異議を唱えたい。憎むべき意見を持っているからといって、人間は生きる権利を失うことはないし、いずれにしても、ガザの人々のほぼ半数は子どもなのだ。幼児も含むガザの子どもたちが、包囲攻撃と連座的な処罰に耐えている200万人超の中に含まれているのだ。

 イスラエルは恐ろしいテロ攻撃に見舞われ、世界の同情や支援に値する。だが、民間人を虐殺したり、食料、水、医薬品を奪ったりする白紙の委任状を手に入れたわけではない。ガザへの人道支援のアクセスについて交渉しようとしたバイデン氏を称賛するが、課題は援助をガザに運び入れることだけでなく、それを必要な場所に届けることだろう。

 長期にわたる地上侵攻は、私には非常に危険な道に思える。多くのイスラエル兵や人質、そして何よりガザ市民が殺されるだろう。我々はもっとうまくやれるし、イスラエルももっとうまくやれる。都市を壊滅させることは、シリア政府がシリア北部のアレッポでやったことであり、ロシアがチェチェン共和国の首都グロズヌイでやったことだ。米国が支援するイスラエルがガザでやるべきことではない。

 この試練に対する最良の答えは、たとえ挑発に直面しても、われわれの価値観を貫くことだ。つまり、偏見にとらわれず、すべての命に等しい価値があるという考えを支持しようとすることだ。もしあなたの倫理観が、ある子どもたちをかけがえのない存在と見なし、他の子どもたちを使い捨てにしてよい存在と見なすなら、それは道徳的な明晰さではなく、目先のことにとらわれたあさはかな考えだ。イスラエルの子どもたちを守ろうとするために、ガザの子どもたちを殺してはならない。 

今朝の東京新聞から。

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唯一のレアアース鉱山が復活 中国依存脱却へ、米国で進む大転換とは(朝日新聞有料記事より)

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 追いかけてくる中国への依存を断ち、振り切らなければならない。いま米国を駆り立てるものを象徴する現場が、カリフォルニアのモハベ砂漠にある。

 乾いた坂を車で上ると、眼下に円形の巨大なくぼみが広がった。直径820メートル、深さ180メートル。見下ろすと、足が震えた。

 北米で唯一レアアース(希土類)が採掘・加工されるマウンテンパス鉱山だ。1990年代初めまで世界屈指のレアアースの露天掘り鉱山だったが、その後廃山状態になっていた。

 「この産業は、中国に支配されてきた」

 2017年に鉱山を買収し、再び生産を始めたMPマテリアルズのマット・スラスチャー上級副社長は言う。

 レアアースの採掘や加工には人手がかかり、環境負荷も大きい。米国は「世界の工場」中国に生産を委ね、レアアース化合物・金属の輸入の9割を頼った時期もある。

 「単純化されすぎた市場の効率性の名のもとに、戦略物資のサプライチェーン(供給網)は海外へ流出した」

 4月、バイデン政権の司令塔、サリバン大統領補佐官は講演で、過去数十年間の政策を厳しく総括した。一度手放した供給網を、安全保障のために取り戻す――。そんな政策目標を、サリバン氏は「新ワシントン・コンセンサス」と名付けた構想の中核として示した。

 冷戦終結後、米国はグローバル化を主導し、貿易や投資の自由化を推し進めた。経済的な相互依存の深まりが中国の民主化を促す、という期待も根底にあった。

 しかし、中国は民主化しなかった。米国が対テロ戦争やリーマン・ショックで疲弊する一方で、中国が経済的にも軍事的にも急速に台頭した。

非難を浴びせ合うバイデン氏とトランプ氏も、通底しているのが中国への脅威の認識です。記事後半ではレアアースだけでなく、半導体分野にも再び力を入れる米国の姿を報告します。

レアアースを「武器」として使う中国

 レアアースは、家電や自動車はもちろん、先端兵器にも欠かせない戦略的に重要な資源だ。米国製ステルス戦闘機F35にも1機あたり400キログラム以上が使われるとされる。

 中国は尖閣諸島沖で中国漁船衝突事件が起きた後、日本へのレアアースの輸出を事実上禁じ、米トランプ前政権との貿易摩擦が激化した際も、レアアースの輸出規制を検討した。相手国が供給を中国に頼る重要物資を「武器」として使うことを辞さず、実際、今夏には一部の重要鉱物の輸出制限を始めた。

 マウンテンパスを運営するMP社は、中国の独壇場となっている高純度のレアアースを取り出す技術の確立を目指す。24年までの関連の投資額は総額7億ドル(約1千億円)に上る。米国防総省は4500万ドルをかけ、全面支援する。

 バイデン米大統領は言う。「未来の力の源泉を、中国やその他の国に長く依存してきた時代を終わらせる必要がある」

 企業の自立性を重視してきた米国の姿勢にも変化がみられる。安全保障上の必要性から企業に積極的なてこ入れを図り、企業側もそれに呼応しようとしている。半導体産業はその典型だ。

 「F35には台湾製の半導体チップがいくつ載っているのですか」

 米半導体大手インテルのパット・ゲルシンガー最高経営責任者(CEO)が、ある防衛産業のCEOに尋ねた。

 CEOは押し黙った。「無理に答えなくていいです」とゲルシンガー氏。防衛産業に携わる関係者であれば、誰もが知っていることだ。米国の安全保障に直結するF35も、台湾製半導体なしにはつくれない。

 9月、先端技術に関するイベントでこのエピソードを紹介したゲルシンガー氏は、危機感を強調した。

 「石油がどこにあるかが過去50年の地政学を決定づけた。次の50年でより重要になるのは、技術面で供給網を握っているかだ」

半導体工場の建設ラッシュに沸く米国

 米国は「シェール革命」で、石油や天然ガスの国内での大増産を果たした。19年には67年ぶりにエネルギー源の輸出量が輸入量を上回り、中東など国外の石油権益の戦略的重要性は薄れた。

 一方、半導体分野では、米国は90年、世界の製造シェア37%を握っていた。翌91年にイラクへの攻撃が始まった湾岸戦争では、半導体の進化で米国のレーザー誘導爆弾の精度が格段に上がり、冷戦末期のソ連との軍事的な実力の差を見せつけた。

 だが、その後、巨額の設備投資がかかる半導体製造は台湾や韓国への移転が進んだ。20年、米国の製造シェアは約10%まで落ち込む。特に最先端半導体は、中国との対立の最前線である台湾が世界製造シェアの9割以上を占め、有事には供給が途絶する可能性もある。

 この状況を踏まえ、米議会は民主・共和の党派を超えて、半導体産業に527億ドル(約7・9兆円)を巨額の補助金などの形で投じる新法を成立させた。これを当て込み、いま全米が、半導体の世界大手による工場の建設ラッシュに沸く。

 16年の米大統領選で、共和党のトランプ氏は、中国が不正な経済競争を仕掛け、米国の労働者から職を奪ったと訴えて大きな追い風を得た。24年11月の大統領選に向け、再選を狙う民主党のバイデン氏も、中国への対抗を打ち出して支持を固めようとしている。大統領選をにらんで激しい非難を浴びせ合う両氏だが、中国への脅威の認識は通底している。

 その一つのあらわれが、サリバン氏が4月の講演で提唱した「新ワシントン・コンセンサス」といえる。そもそもの「ワシントン・コンセンサス」とは、冷戦終結後、米国や米国主導の国際通貨基金(IMF)、世界銀行などが推進した市場原理重視の経済政策路線を指す。財政規律の重視、貿易の自由化、規制緩和、民営化の推進――。こうした路線はITや金融の技術革新と相まって、米国の経済成長を支えた。

 だが、「単純化されすぎた市場効率」の追求による弊害もまた大きかった、というのがサリバン氏の主張の根幹だ。

 「米国は製造業を失っただけでなく、未来を決定づける重要技術でも競争力を失った」

 こうした反省に立ち、新コンセンサスは、①現代版の産業政策②同盟国との協力③現代的な貿易協定④新興・途上国への支援⑤中国への輸出・投資規制――を柱とする。

 「軍民融合」を掲げる中国が米国製品や技術を軍事転用することに警戒を強め、対中規制強化の起点となったのはトランプ前政権だ。中国の知的財産侵害を理由に制裁関税をかける「貿易戦争」を仕掛けるとともに、先端技術の輸出規制を導入。バイデン政権はこれを引き継ぎ、より徹底した形で実施している。

「狭い庭と高い柵」の規制

 22年10月には、包括的な先端半導体の輸出規制を導入し、1年後に更なる厳格化を決めた。23年8月には半導体に加え、次世代兵器に欠かせない人工知能(AI)や量子コンピューターに対する米企業の対中投資を一部規制する方針も示した。

 特に、半導体の輸出規制は、台湾や韓国など米国外の国・地域を介した形での移転も認めないもので、トランプ前政権の規制の枠組みを発展させた。かつてないほど厳しい規制には、米国や同盟国の半導体産業からも懸念の声が上がる。サリバン氏ら米高官は、「狭い庭と高い柵」という表現を用い、安全保障に関わる最先端技術に絞って厳しい規制を敷くと説明し、理解を得ようとしている。

 ただ、専門家からは、「狭い庭」はいずれ拡大し、規制強化の方向に向かうとの見方も根強い。日本を含め、世界的な半導体供給網の一端を担う各国はいずれも影響を免れない。1月の日米首脳会談でバイデン氏は、岸田文雄首相に直接、規制に足並みをそろえるよう求めた。日本が強い半導体製造装置の輸出を制限するためだ。

 新しいコンセンサスには批判もある。IMFは、重要物資に対する補助金競争や輸出規制が広がるのに伴い、「世界経済は国内総生産(GDP)の7%を失う」と試算する。米中対立など地政学的な分断による経済的な打撃は、新興・途上国ほど大きいとも指摘する。

 だが、イエレン米財務長官は4月の講演でこう言いきった。

 「たとえ経済的利益が代償になったとしても、安全保障上の懸念に妥協することはない」
(マウンテンパス=榊原謙) 

ウクライナの支援打ち切り トランプ主義者が望む理由 N.Y.Timesコラム(朝日新聞有料記事より)コラム

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ポール・クルーグマン

 9月末の米連邦政府の閉鎖は免れたが、数週間以内に再びこのドラマが繰り返されることになるかもしれない。ケビン・マッカーシー下院議長(共和党)は、党内の強硬派が実現可能なものに同意しないため、民主党の票がなければ可決されない「つなぎ予算」案を提出するという、当たり前のことをしただけだった。そして予算案には、共和党が要求していた歳出カットは含まれていなかった。ただひとつ、ウクライナ支援の除外というとんでもない一件を除いて。

 民主党がこの予算案に合意したのは、ウクライナ支援について別途採決が行われることを期待しているからだとみられる。バイデン大統領は、マッカーシー氏とその旨の合意に至ったと信じていると示唆した。私は彼らが正しいことを願っている。

 しかし、なぜこのような事態に至ったのだろうか。右派系だがトランプ元大統領派とは言えないアメリカン・エンタープライズ研究所のマイケル・ストレイン氏は、この財政的対立を(大人気ドラマを引用して)「『サインフェルド』閉鎖」、つまり「何の意味もない閉鎖」と呼んだ。

 これはいい表現だが、大衆文化を引き合いに出すのであれば、「めちゃくちゃ怒っている、もう我慢できない」と人々が叫ぶドラマの題名を取り、「ネットワーク」閉鎖と呼んだ方がいいかもしれない。

 この混乱した怒りを満足させることができるのはクーデターにほかならない。マッカーシー氏が、ウクライナを裏切るか、少なくとも裏切るふりをすることで、民主党との取引に対する反発を抑えることができると考えたのは明らかだ。トランプ元大統領の支持者らがウクライナへの裏切りを望んでいることははっきりしていた。しかし、なぜなのか?

支援反対派の主張は事実か

 イーロン・マスク氏のような反ウクライナの論客がどう取り繕おうと、それは金銭の問題ではない。

 議会内外の右派強硬派は、ウクライナ支援に費やされている金額に憤慨していると主張する。しかし、もし本当に支援の財政負担を気にしているのなら、数字を正しく把握するという必要最低限の努力はするだろう。でも、そうはしていない。ウクライナ支援は社会保障の将来をむしばんでいるわけでも、国境警備を不可能にしているわけでも、アメリカの国内総生産(GDP)の40%を消費しているわけでもない。

 実際にはウクライナ支援にいくら費やされているのか。ロシアの侵攻から18カ月で、アメリカの支援総額は770億ドル(約11兆5千億円)にのぼる。多いと思われるかもしれない。我々が通常、対外援助に充てている微々たる額と比べれば多い。しかし、連邦総支出は現在、年間6兆ドル以上、18カ月に換算すると9兆ドル以上であり、ウクライナ支援は連邦支出の1%未満だ(GDP比では0.3%未満)。うち軍事支援費は米国防予算の5%にも満たない。

 ちなみに、米国は決してウクライナ支援の重荷を一人で背負っているわけではない。

 過去にドナルド・トランプ氏らは、欧州諸国が自国の防衛に十分な支出をしていないと不満を述べていた。しかし、ウクライナに関しては、欧州の国々や機関は合計で、我々よりもかなり多額の援助を約束している。特に、フランス、ドイツ、英国を含む欧州のほとんどの国が、対GDP比で米国よりも高い援助を約束している。

 ウクライナ支援のコストに話を戻そう。ウクライナ支援がいかに小さな予算項目であるかを考えれば、ウクライナ支援によって国境の安全確保など他の必要なことができなくなるという主張はナンセンスだ。トランプ主義者たちは数字を正しく把握することでは知られていないし、それどころか数字が正しいかどうかを気にすることもないが、彼ら自身でさえ、ウクライナ支援の金銭的コストが耐え難いものだと本当に信じているかは疑わしい。

ウクライナの抵抗がもたらしたものとは

 苦境に立たされた民主主義国家を支援するメリットは非常に大きい。思い出してほしい。ウクライナ戦争以前、ロシアは軍事大国として見られており、米国人の大多数はそれを重大な脅威と見なしていた(そして、一部の共和党議員はその保守的な軍隊を称揚していた)。その軍事大国がいまや力を弱めている。

 ロシアの侵略に対するウクライナの抵抗の予期せぬ成功は、征服戦争への誘惑に駆られたかもしれない他の独裁政権に、民主主義国家を転覆させるのは容易ではないと知らしめた。率直に言えば、ウクライナにおけるロシアの失敗は、中国が台湾を侵略する可能性を確実に減らした。

 最後に、共和党員でさえ自由世界と呼んでいたものが、明らかに強化された。北大西洋条約機構(NATO)は、皮肉屋の予想を裏切って難局にうまく対処し、加盟国を増やしている。西側の兵器はその有効性を証明している。

 我々がイラクやアフガニスタンで費やした費用に比べればほんのわずかな額による大きな見返りだ。ウクライナ人が戦い、命を落としていることも忘れてはならない。では、なぜトランプ派の政治家はウクライナを切り捨てたがるのか。

 答えは残念ながら明白だ。共和党強硬派が何と言おうと、彼らはロシアのプーチン大統領の勝利を望んでいる。彼らはプーチン政権の残酷さと抑圧を、米国が見習うべき立派な特徴だと考えている。国内では独裁者になりたがっている人物を支持し、国外では本物の独裁者に共感しているのだ。

 だから、ウクライナにいくら費やしているのかという不満に耳を貸してはいけない。その主張は実際の支援額に裏付けられていないし、コストを懸念していると主張する人々は、本当はお金のことなど気にもしていない。彼らは要するに、国外でも国内でも民主主義の敵なのだ。 

フラワー・ストリートに猪が出現!

香港島サイドに現れるというのはもう珍しくないのですが、九龍それも太子道西の花墟市場に白昼出現という事件。
どこから来たかと言えば獅子山あたりでしょうが、どうやってクルマにぶつからず来られたのか?
それにしても警官が特殊警棒を振り回しているだけというのはどうも。


イスラエルと米国、「特別な関係」の長い歴史とは(朝日新聞有料記事より)

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 バイデン米大統領が18日、イスラム組織ハマスと軍事衝突のさなかにあるイスラエルを訪問しました。米国はイスラエルへの支持を明確にしており、両国は「特別な関係」にあるとも言われます。なぜなのか、その歴史をひもときながら解説します。

 Q パレスチナ・イスラエル情勢について、バイデン米大統領はどんな姿勢なのか。

 A 演説では「疑いの余地なく米国はイスラエルの後ろ盾だ」と断言し、いち早くイスラエル支持の姿勢を明確に打ち出している。人道被害を軽減する必要性を強調しつつも、イスラエルの地上侵攻には反対しない構えだ。

 罪のないイスラエル人が無残に殺害され、30人の米国人も犠牲になったことが大きい。ただ、背景にある両国の「特別な関係」も理解する必要がある。

イスラエル独立、11分後に国家承認

 Q 米イスラエルの関係はどれほど特別なのか。

 A 米国は明らかに、イスラエル寄りの政策をとってきた歴史がある。

 かつては、国連安保理でイスラエルの国際法違反を非難する決議案が提出されるたびに、米国だけが拒否権を発動してきた。こうした姿勢は極端にイスラエル寄りに映り、批判も多かった。

 イスラエルへの支援額も突出している。イスラエル建国以来、米国は1580億ドル(約23兆円)を提供してきた。第2次世界大戦以降、米国が支援したどの国よりも多い金額だ。イスラエル軍が誇るミサイル防衛システムも、米国からの資金に支えられている。

 Q いつから特別な関係が始まったのか。

 A 象徴は1948年のイスラエル建国時の対応だ。アラブ諸国の反発を心配する声もあるなかで、当時のトルーマン大統領は独立宣言のわずか11分後に、世界で初めてイスラエルを国家承認した。

 これは、選挙でのユダヤ票を意識した判断だったとも言われる。また、ドイツによるユダヤ人の大虐殺(ホロコースト)を踏まえて、イスラエル建国を認めるべきだとの考えもあった。ホロコーストの苦い記憶は、ドイツをはじめ欧米各国がイスラエルを支持する理由の一つとなってきた。

 Q 米国にいる多くのユダヤ系国民の影響力も大きいのか。

 A 「イスラエル・ロビー」は米政界で最強のロビー団体の一つとして有名だ。「米国・イスラエル公共問題委員会(AIPAC)」など複数の組織が、米政府や議会に強力な働きかけを続けてきた。

 イスラエル支援に反対した議員を厳しく批判したり、パレスチナ寄りの議員の当選を阻止するために対立候補に資金を投入したりといった活動も報じられる。

 近年はユダヤ系の大口献金者が大きな存在感をみせている。とりわけ共和党では、巨額の政治献金を得るためにイスラエル支持を競うように訴える場面が目立つ。ユダヤ系の政治集会に大物政治家が勢ぞろいするのは恒例だ。

 Q キリスト教福音派の影響もあるのか。

 A それも大きい。米国でユダヤ系の人口は2%あまりに過ぎないが、福音派は人口の4分の1近くを占めるためだ。

 福音派は、聖書の言葉を一字一句大事にする。イスラエルは「神がユダヤ人に与えた土地」であり、ユダヤ人が聖地であるイスラエルにかえらなくてはいけないと考えている人が多い。

 福音派は地方の保守層に多く、共和党支持の傾向にある。だから福音派が多い政治集会では、やはり政治家たちはこぞってイスラエル支持を強調する。

若年層に目立つ「イスラエル離れ」

 Q イスラエル支援は米国の利益にもなるのか。

 A 中東における米国の戦略的な狙いから、イスラエルを支持してきた側面も大きい。

 冷戦期にはソ連によるアラブ諸国への接近に対抗するように、米国はイスラエル支援を強化していった。さらに、1979年のイスラム革命後のイランが反米姿勢をとり、米イスラエル両国にとって共通の脅威となった。

 その後のテロとの戦いにおいても両国は協力。軍事や諜報(ちょうほう)活動(インテリジェンス)での連携も互いの利益となっている。

 Q 「特別な関係」は時代を経ても変わらないのか。

 A 最近は若者世代の「イスラエル離れ」が目立つと言われる。

 たとえば今回、イスラエルがハマスに対して軍事行動を取ることが「完全に正当化されるか」と尋ねたCNNの世論調査がある。「完全に正当化される」と答えた人は65歳以上だと81%にのぼったが、若くなるほど割合は下がり、18~34歳では27%まで落ちた。

 米国では、若い世代ほどリベラルな考え方を持つ傾向にあり、イスラエルによる占領政策を批判し、パレスチナ人への人道配慮を求める声も目立ち始めている。

 かつてイスラエル支持は超党派の合意だったが、最近はそうとも言えない。リベラル系の民主党議員からイスラエル批判の声が出ることも多く、イスラエル支持が強い共和党との違いが際立つようになった。

 イスラエルの右傾化も影響している。ネタニヤフ政権は米国が主導したイランとの核合意を批判し、民主党のオバマ政権と関係が悪化。バイデン政権も、ネタニヤフ首相による司法制度改革が民主主義を損ねると懸念を抱く。

 逆に共和党のトランプ政権は、米大使館をエルサレムに移転させるなど、完全にイスラエル寄りの政策を鮮明にし、両国は蜜月の関係が続いた。
(ワシントン=高野遼 )

一帯一路10年、中国が輸出した不動産バブル 記者が見た恩恵と矛盾(朝日新聞有料記事より)

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 シンガポールの西端。そこから海峡にかかる約2キロの橋を車で渡ると、マレーシア第2の都市、ジョホールバルに入った。

 幹線道路を西にはずれると、ヤシが茂る荒野が広がる。その向こうに、人工島にそびえる白い巨大なマンション群が近づいてきた。その数、約60棟。

 20~40階のマンションのベランダには草木が植樹され、この街は「フォレストシティ(森の都市)」と呼ばれる。中国の不動産最大手・碧桂園と地元政府傘下企業が手がけた巨大プロジェクトだ。

 街の作り手だけでなく、不動産の買い手も、ほとんどが中国人だった。

中国の習近平政権が巨大経済圏構想「一帯一路」を打ち出して10年。中国マネーと企業が続々とアジアへ、アフリカへ、欧州へと渡り、もたらしたものは。各国の現場を記者が歩きました。

 6年前にマンションの一室を買った中国・貴州省の女性(66)に現地で出会った。

 「飛ぶ鳥を落とす勢いだった碧桂園が手がける物件だし、環境も良いと言われた」

 販売側が現地へ招いたツアーに参加したときのことを今も覚えている。「きれいな空気、シンガポールの繁栄を享受できる」「インターナショナルスクールも来る」。そんな宣伝文句に引き込まれるように、一緒に参加した人たちが次々と契約していった。

 シンガポールは目と鼻の先。価格は1平方メートルあたり2万元(約40万円)台。上海や北京と比べれば数分の1の値段で、憧れの海外不動産を持てる。「子供には驚かれたけれど、衝動的に買っていた」

「周りの店は次々と閉まっていった」

 中国の国営メディアも当時、このプロジェクトを「『一帯一路』戦略の正確さと生命力を証明している」と持ち上げていた。

 一帯一路は、中国の習近平政権が2013年秋に提唱した巨大経済圏構想だ。中国から欧州へとまたがる交易路だった海と陸のシルクロードを、現代に再現させることを目指した。習氏の号令のもと、多くの中国企業が国外に進出し、中国の融資をもとに道路や橋、港湾、鉄道などの建設を競った。

 フォレストシティの壮大な構想もその一つだった。35年までに四つの人工島をつくり、70万人が移り住む。総投資額は1千億ドル(約15兆円)とされ、桁外れの中国式不動産開発をそのまま海外にもってきたかのようだった。

 だが、暗転は早かった。

記事後半では、一帯一路の「要衝」に位置づけられ、急速な発展を遂げるカンボジアで記者が目にした光と影を報告します。

 9月末、街を歩いた。人影がない。道ですれ違うのは従業員ばかり。夕食時でも、明かりがともっているのは各フロア一つ程度だった。

 マンションの1階は店舗スペースだが、多くの店が閉まっている。「まもなく開店」と貼り紙された壁だけが延々と続く棟もある。

 営業を続ける数少ない中国の家具大手の女性店員は「周囲の同業者は次々と閉まっていった」と話す。

 マンション販売の開始後、風向きが変わった。中国政府は資本流出を防ぐため、国外送金の際に不動産を買わないと承諾書に署名を求めるようになった。

 18年にマレーシア首相に返り咲いたマハティール氏は、中国人ばかりが買うプロジェクトを批判し、外国人の購入を規制した。

 「購入者の8割は中国人」(碧桂園関係者)だったことから、住宅販売は行き詰まった。そこへコロナ禍に見舞われ、商店も潮が引くように撤退していった。

開発企業が自国で陥った苦境

 住人は70万人どころか、1万人前後にとどまる。完成した人工島も一つだけ。現地の碧桂園関係者は「完工まで50年はかかるかな」と肩をすくめる。「ゴーストタウン」と報道は容赦ない。

 島内の住宅展示販売場で販売マネジャーを務めるニコラス氏は「報道はうそとは言えないが、コロナ禍が終わった今、過去のものだ」とあきらめていない。

 だが、ハードルは高い。物件を手放したいと思う人が多いからだ。

 夫妻でマンションを買った福建省アモイ市の60代の女性は打ち明ける。「買い物に行くにも数十分かかる。生活が不便すぎて、オーナーはみんな、売りたがっている」

 貴州省の女性も、衝動買いを後悔している。マレーシアまで来るのも苦痛に感じる。購入時の3分の2の価格でいいので、買い手を探しているという。

 当の開発主である碧桂園もいま、中国で苦境に陥っている。野心的な拡大路線が中国の不動産不況の直撃を受け、積み上がった借金を返せない危機にあえぐ。30兆円近い巨額負債の行方が、国際的にも懸念を広げている。

 一帯一路の名のもとで進められた「中国企業による中国人のための都市づくり」は、中国国内の不動産バブルまでも輸出してしまったかのようだ。

 国の発展段階によっては、本当に必要な支援は農業だったり、教育だったりすることもある。しかし、「中国企業は国内の成功体験から、不動産や都市開発などに走りがちだ」と日本の援助機関関係者はいう。

 その典型例が、カンボジアだ。

きらびやかなカジノのネオン、その足元で

 プノンペン中心部。国会議事堂や外務省、宗教省などの官庁と隣り合わせて、不似合いな2棟の巨大カジノホテルがそびえる。「金界」などと中国語で書かれたネオンが夜闇にぽっかりと浮かんでいる。

 「カンボジアの民間部門で最大の雇用主であり、経済に重要な役割を果たしている」。運営する香港上場企業はホームページでこう誇る。この10年の間にホテルの別館、地下ショッピングモールと増設を続け、工事や運営は主に中国企業が手がける。夜になると中国人やベトナム人らでごった返し、周りには中華料理店や中国人向けの医院も立ち並ぶ。

 「この10年、中国の投資でプノンペンは高層ビル街になり、生活はよくなった。中国人客なしではやっていけないと、痛感している」。近くの繁華街で飲食店を営むケム・コサルさん(48)は、こう話す。

 07年ごろ、貧困率が50%前後もあったカンボジアは、右肩上がりの経済成長が続いてきた。21年の対内直接投資のうち、中国が6割超を占める。同国の政府は、政治的にも中国と近い。「中国のおかげで発展した」と感じる市民も少なくない。

 ただ、そんなカンボジアにも一帯一路のひずみは押し寄せている。

 その一つが、格差の拡大だ。別の店主はいう。「恩恵が多いのは富裕層。高速道路もできたが、料金も高く、一般市民にはあまり使い道はない」

 さらに、プノンペンから南西へ車を約3時間走らせると、別の現実が迫ってくる。

海辺に残されたゴーストビルの森

 港湾都市シアヌークビルに着くと、目の前に高層ビル群が広がった。ここにはカンボジアと中国政府が一帯一路のモデル事業に認定する「経済特区」がある。

 中国からの投資が急増したのは17年ごろ。リゾートホテルやカジノが次々と建設され、街は中国語の看板であふれるようになった。地元紙によれば、19年に156あったホテルと436あった飲食店の約95%を中国資本が占めた。中国マネーが流入し、マンション価格も高騰。不動産バブルのような状態になった。

 だが、ホテルやアパートの一室で中国人が営業する違法なカジノが急増。19年に政府がオンラインギャンブルを禁止し、多くのカジノが閉業すると、年末までに約20万人の中国人が去った。コロナ禍も影響し、中国からの投資も途絶えた。

 その結果、約4割の建物が工事途中で止まり、「ゴーストビル」になってしまった。

 地元の州は工事の完了までに10億ドル(約1500億円)を調達する必要があると試算する。だが、副知事はいう。「他に優先的に取り組まなければならない政策が多く、予算がない」

 カンボジアの中国に対する債務も、22年末で約40億ドル(約6千億円)まで膨らんだ。中国依存が、自国の発展や衰退までをも左右する事態になった。

 一帯一路が提唱されて10年。投資がもたらした発展の一方で、各国へ持ち込まれた「中国式」がもたらす矛盾が目立つようになってきている。
(ジョホールバル=斎藤徳彦、プノンペン=大部俊哉) 

労働組合は不完全だが、米国にとって必要不可欠なのだ・・・・N.Y.Timesコラム(朝日新聞有料記事より)

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ニコラス・クリストフ

 全米自動車労働組合(UAW)のストライキが続くなか、労働組合に対する不満の声が聞こえてきそうだ。

 「自動車産業を一度潰したのに、また同じことをしようとしている」「彼らは腐敗している」「近代化に抵抗するラッダイト(産業革命期に労働者たちが機械を壊した運動)だ」などと言う人もいるだろう。

 確かに、組合に対する批判には一理ある。しかし、その批判は根本的な点を見逃している。労働組合は平等のための強力な力であり、組合がなければしばしば玄関のドアマットのように扱われる(他人に踏みつけられても黙ったままの人のたとえ)低賃金労働者の地位を向上させる力でもあるのだ。

 過去半世紀の間に労働組合が衰退するにつれ、労働者が不当に扱われてきたというのが核心的な現実だ。労働者は低賃金で、医療サービスや退職手当を失い、自分のスケジュールを自分で管理できなくなった。彼らは尊厳を奪われ、時には賃金も奪われた。ブルーカラー労働者の間では、薬物やアルコール、自殺による「絶望死」が急増した。

かつては労働組合を警戒

 「絶望死」の研究の先駆者であるプリンストン大学の経済学者、アン・ケース氏とアンガス・ディートン氏は、このような死の増加の一因は、組合の衰退とそれに伴う労働者階級の良質な雇用の喪失にあると述べている。

 多くの高学歴の専門家がそうであるように、私もかつては労働組合を警戒していた。労働組合は厳格な労働規則を主張し、技術の近代化を妨げ、汚職スキャンダルに見舞われ、時には人種差別や性差別を行った。彼らは定期的に残業時間を操作し、生産を停止すると脅して途方もない金額を巻き上げてきた。

 2019年、カリフォルニア州オークランドの警察官2人は、法外な残業代によって60万ドル(約9千万円)以上の給与と手当を「稼いだ」。また、西海岸の常勤の港湾労働者たちの平均給与は米国の多くの弁護士や歯科医よりも高く、彼らの親方の平均給与は医師よりも高いと言われている。

 しかし、企業の経営陣の報酬はさらにスキャンダラスに見えるので、私は過去15年間、アメリカの労働者階級の危機を報道しているうちに、組合に対する軽蔑を捨てた。多くの労働者階級の友人を薬物乱用やそれに関連する病気で失い、その結果、家族やコミュニティーが崩壊していくのを目の当たりにしてきた私は、労働組合は個々の労働者だけでなく、米国そのものにとっても良いものだと信じるようになった。

 UAWの賃金以外の要求のいくつかは私には非現実的に思えるし、全体的なパッケージは、すでに競合他社よりもかなり高い賃金を支払っている企業にとって人件費を倍増させるかもしれない。そうだとしても、自動車労働者の一部が時給16ドルか17ドルしか得ていない一方で、なぜビッグ3のCEOがそれぞれ2千万ドル(約30億円)以上の給与に値するのか、私にはわからない。ただし、公平を期しておくと、フォードによれば、労働組合に入っている労働者の福利厚生を含めた平均報酬は年11万2千ドル(約1670万円)だという。

 ちなみに、経営陣の報酬は公平な交渉によって算出されると考えている人は、取締役会の行動を理解していない。経済学者ジョン・ケネス・ガルブレイス氏が述べたように、彼らの給与は「しばしば、ある個人の自分自身への温かい個人的なジェスチャーという性質を持っている」ものだ。

 アメリカの組合の黄金時代は1945年から1970年までであり、当時は確かに権利の乱用や破壊的なストライキがあった。しかしそれは、経済のパイが急速に拡大し、より公平に分配された、アメリカ経済史における魔法のような時代でもあった。株主は恩恵を受けたが、経済の底辺にいるアフリカ系アメリカ人を含む労働者も同様だった。

私たちの未来に何をもたらすか

 1970年当時、民間の労働者の29%が労働組合に入っていたが、今ではわずか6%である。数十年の間に、ブルーカラー労働者は中流階級への道を失い、黒人男性にとって賃金格差はかつてないほど大きくなった。

 だから私はこう考えるようになった。労働組合は資本主義そのものと同じように不完全だが、やはり同じように必要不可欠な存在なのだ。

 経済学者たちによる大規模な調査で、組合員世帯は非組合員世帯よりも、他の要因を調整した上で、10%から20%多く稼いでおり、組合員の賃金上昇が波及して非組合員の収入を押し上げていることがわかった。これらの学者は、1968年以降のアメリカの不平等の増加の約10%は、組合員数の減少の結果であることも発見した。

 別の研究によると、生涯にわたって組合に加入している場合、同じ業界で組合に加入していない人の所得と比較して、数十年間で130万ドル(約1億9千万円)の所得が上乗せされる。

 野放図な組合が時にひどい行いをする一方で、野放図な企業が何をするか考えてみよう。何百万人もの米国人がオピオイド(麻薬性鎮痛薬)中毒になっているのは、製薬会社が人々を中毒にすることが利益になると判断したからだ。

 私たちは(企業と労働組合の)双方の行き過ぎを抑制するためにチェック・アンド・バランスを必要としており、労働組合はその監視システムの一部である。しかしここ数十年、法律が組合の邪魔をし、全米労働関係委員会(主要な労働関係法を執行する連邦政府の行政機関)は、あまりにお粗末な罰則のために事実上組合潰しを許してきた。バイデン大統領のもとで、その状況は変わりつつあるようだが。

 労働組合はまた、米国における子どもの貧困というスキャンダルに対処するため、幼児教育や保育、最低賃金の引き上げ、還付可能な児童税額控除といった政策を強力に提唱してきた。

 自動車労働者のストライキとそれが今日の経済に与えるかもしれない影響を心配するのは当然だ。特に賃金以外の要求において、UAWが行き過ぎではないか、と考えるのは理にかなっている。そしてまた、非組合員であるブルーカラー労働者が毎年毎年、何十年と搾取され、押しつぶされたら何が起きるのか、その結果、彼らの子どもたちや彼らの国、そして私たちの未来に何をもたらすかを心配するのも当然なのだ。 

「日曜日の人々」1930年

エドガー・G・ウルマ―とロバート・シオドマクの共同監督で両者の監督デビュー作。
脚本がビリー・ワイルダーとカート・シオドマク。
撮影ユージン・シュフタン。
撮影助手フレッド・ジンネマン



今朝の東京新聞から。

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