
車いすを押す女性が、地上につながる30度ほどの角度のスロープをみて苦笑いを浮かべた。15度でも車いすでは急傾斜だ。
「1人では無理だ」
ウクライナの首都キーウの地下道。恋人のオレグ・シモロスさん(26)が乗った車いすを押すブラダ・レレカさん(26)は諦めかけていた。すると、通行人の男性が歩み寄った。2人がかりでスロープを登り、やっとのことで地上に出ることができた。
2022年2月に始まったロシアによる全面侵攻が続くウクライナでは、砲弾や地雷などで負傷し、手や足を失う人が増えている。領土防衛隊員として戦闘に参加していたシモロスさんも22年10月、対戦車地雷で両足を失った。
移動に手助けが必要になる人が増える中、侵攻前から整備が進んでいなかったウクライナ各地には、街のいたるところに段差が残る。地下鉄の多くはエレベーターがない。地下道からのスロープが設置されていても角度は急で、周囲の助けが不可欠なほどだ。街は、バリアフリー化が急務となっている。
ウクライナ地方・国土・インフラ発展省が23年、約5万4千カ所のバリアフリー化率を調べたところ、全体では22%だった。分類別には、鉄道の駅が34%、バス停は21%、国内避難民のアパートは12%にとどまった。
同じ調査によると、地域別でキーウはバリアフリーのレベルが「平均的」、西部リビウは「高い」、ロシア占領下の東部ドネツクは「低い」との結果が出た。
インフラを担当する同省のオレクサンドラ・アザルヒナ副大臣は、「旧ソ連時代に造られた建物もあり、恥ずかしいことに首都キーウは全くバリアフリーでない」と打ち明ける。
思うように進まぬバリアフリー化 背景には侵攻
侵攻前から、バリアフリー化を進める計画はあった。21年4月に、ウクライナ議会で採択された「30年までのバリアフリー空間創出のための国家戦略」だ。この戦略では、エレベーターのない集合住宅のアクセス性を確保するなどの「物理的バリアフリー」や、障害をもつ人がインターネットを使えるソフトの開発などの「情報の利用しやすさ」といった六つの方向からアプローチするとうたっている。
戦略を策定してからほぼ3年となるが、アザルヒナ氏は「残念ながら、戦争が続いて、思うように進められていない」と話す。「資金の配分を考えたときに、今は兵器を優先せざるを得ない」
米紙ウォールストリート・ジャーナルによると、ウクライナでは侵攻後、推計2万~5万人が手や足を失ったとされる。キーウ市内の義肢・リハビリセンター「ベズ・オブメジェニ」で侵攻前に1日2人ほどだった患者は、今年2月時点では1日あたり約20人に急増した。以前は即日で義足ができ上がっていたが、今は2週間以上待たなければならない。
バリアフリー化が進まず、足などを失った人たちは苦しい立場に置かれている。22年10月、地雷除去活動中に砲撃を受け、左足のひざ下を切断した義足の患者(26)は、「街を歩いて足に汗をかいた時、義足を外して拭くと、周囲に変な顔をされる」とこぼす。
この患者の兄で、車いすを利用する男性は先日、レストランへの入店を拒まれたという。男性は、「例えば、新しく建物を建てるときに法律で基準を設けるなど、バリアフリー実現のために、立法レベルであらゆることをして欲しい」と訴える。(キーウ=河崎優子)






