Indian Americans Become a Political Force, Just as Usha Vance’s Profile Rises
オハイオ州選出のJ・D・バンス上院議員が7月15日、共和党の大統領候補であるトランプ前大統領の副大統領候補に決まった時、インド系米国人でヒンドゥー教を信仰するウーシャ・バンス氏が初めて副大統領夫人になる可能性が出てきた。
それは注目すべき現実を確たるものにした。つまり、現時点では、インド系の女性がホワイトハウスでもう1期務めるか(訳注:現副大統領で、民主党の大統領候補に指名される見込みのカマラ・ハリス氏を指す)、もしくは副大統領夫人(訳注:ウーシャ・バンス氏を指す)になるかということだ。
それはこの10年間、政治における一大勢力として台頭してきたインド系米国人コミュニティーにとって、直近の画期的な出来事だ。2021年にはカマラ・ハリス氏がインド系として、女性として、また黒人として初めて副大統領に就任した。24年の大統領選では、ニッキー・ヘイリー氏とビベック・ラマスワミ氏という2人のインド系米国人候補が初めて登場した。
また、現在では連邦議会に5人、州議会には40人近くのインド系議員がいる。アジア系米国人に関するデータを収集する団体「AAPI Data」によれば、米国内におけるアジア系グループでは最大の数だという。
もう一つ、インド系米国人にとっては初めてとなることがある。昨年発表された国勢調査の報告書によると、インド系はこのほど中国系を抜き、一つの出身国を自認する人々の中で国内最大のアジア系グループとなった。20年には、440万人近くがインド系であると認識している(出身国が複数に及ぶとする人々を数えると、中国系が依然として最大のグループだ)。
ほとんどのインド人は、1965年以降に米国にやってきた。新しい移民法により、それまでアジア系やアフリカ系などを排除していた制限が撤廃されたためだ。米国におけるインド系人口はここ数十年で急増した。特に、成長著しいテクノロジー分野の米国企業がソフトウェア・エンジニアやコンピューター・プログラマーを大量に雇用するにあたり、インドで最も高い教育を受けた労働者たちを引き寄せたためだ。
米国にいるアジア系の中で、インド系は平均して最も裕福で、最も学歴が高いグループだ。また、政治や市民活動への関わりについても、ほぼすべての指標で、インド系はアジア系の中で最も高いかそれに近い順位にある。専門家たちによると、出身国であるインドでは根強い民主主義の伝統があり、英語の使用頻度が高いことが大きな要因だという。
「インド系は、米国政治での影響力を増している」と、「AAPI Data」の創設者でエグゼクティブ・ディレクターのカーティック・ラマクリシュナン氏は言う。
人口が増加したのは最近のことだ。ハリス氏の母、シャマラ・ゴパラン氏が58年にカリフォルニア大学バークリー校の大学院に進学するために渡米した時、彼女は米国内に住むわずか1万2千人のインド系移民のひとりだった。
インド系の増加、きっかけは1965年の移民法
65年の移民法以降に移住したインド人の多くは、高等教育を受けるために米国にやってきた。この移民法は、欧州系を優遇していた出身国別のクオータ制を撤廃した。学業を終えた後、多くのインド人は仕事を見つけ、雇用主の援助を受けて合法的な永住権を取得した。そのほか、高度なスキルを要する仕事をするために、企業や団体によって米国に呼ばれた人もいる。
ウーシャ・バンス氏の父クリシュ・チルクリ氏は、インドの工学系大学では最も権威のあるインド工科大学で学んだ機械工学者だ。母親のラクシュミ・チルクリ氏は生物学者で、現在はカリフォルニア大学サンディエゴ校のカレッジの幹部である。
2人はウーシャ・バンス氏と姉妹のシュレヤ氏をサンディエゴ郊外にある中産階級の上位層が住むランチョ・ペニャスキートスで育て、家では(インドの公用語の一つ)テルグ語と英語を話していた。チルクリ家は南インド出身の結束の強い6家族のひとつだ。(6家族の)成人の多くはエンジニアか教育者だった。ウーシャ・バンス氏と彼女の両親は、取材の要請に応じなかった。
全米のインド系人口の増加を反映し、サンディエゴのインド系コミュニティーが80年代半ばの約200世帯から、現在の約4万人に膨れ上がっても、6家族の結束は固かった。そう話すのは、彼らが時折通う地元のヒンドゥー教寺院、シュリ・マンディールのラミ・レディ・ムティアラ会長だ。
女性たちは熱心な読書家で、よく集まっては小説について語り合い、男性たちはグアバやマンゴーといったトロピカルフルーツを栽培するコツについて情報交換していたと、チルクリ家と親しいラメシュ・ラオ氏は言った。「インドでの夏の経験を米国でも再現できないか試してみたいという考えに取りつかれていた」
この20年で、テック系労働者の需要が高まり、スキルの高いインドからの移民が新たに急増した。現在米国にいるインド系の約60%は2000年以降に入国した。近年、南部の国境を不法に越えるインド系移民の数も急増している。米国の調査機関「ピュー・リサーチ・センター」によると、21年時点で、約72万5千人のインド系移民が米国に不法滞在している。
異なる信仰や経済的な背景、教育レベルなど、インド系移民の間にも多様性が広がったことで、カーストに対する偏見や、インドの首相、ナレンドラ・モディ氏のヒンドゥー至上主義政治といった問題をめぐり、コミュニティーの分裂を生み出してきた。
その間も、インド系コミュニティーは米国政治への関わりを深めてきた。
政治的に謎の多いウーシャ・バンス氏
ウーシャ・バンス氏は政治的に謎の多い人物だ。有権者登録の記録を含むオンラインデータベースによると、彼女は少なくとも14年までは民主党員だった。友人たちによると、彼女の夫が「ネバー・トランプ」を掲げてトランプ氏を批判する立場から熱烈な支持者に変わっても、彼女は自身の政治に対する考えを公でもプライベートでもほとんど語らなかった。
7月17日夜の共和党全国大会で、バンス氏が共和党の副大統領候補になって初めて注目される場に登場したウーシャ・バンス氏は、夫について愛情を込めて語り、「肉とジャガイモのような男」であるにもかかわらず、彼女の母親のためにインド料理の作り方まで学んだ献身的な父親であり夫であると話した。
しかし、彼女のスピーチには明らかに欠けていたふたつの言葉があった。それは「ドナルド・トランプ」だった。