香港郊野遊行・續集

香港のハイキングコース、街歩きのメモです。

2025年02月

フジ取材歴30年のジャーナリストに聞く 日枝氏「長期支配」の弊害(朝日新聞有料記事より)

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 異例の経営危機に陥っているフジテレビについて、1990年代から30年以上にわたり取材を続けてきたジャーナリストがいます。

 クーデターに発展した創業家との権力争い、ライブドアによる乗っ取りの危機。フジサンケイグループの歴史を見つめ、社会の公器としてふさわしいのかを問うてきた目に、今回の事態はどう映っているのか。「メディアの支配者」などの著作で知られる中川一徳さんに聞きました。

 ――フジの記者会見には参加しましたか。

 「10時間に及んだ2回目の記者会見には参加しました。手持ち式の金属探知機によるボディーチェックや目視による所持品検査が行われるなど、非常にものものしい雰囲気でしたね。誰が来て何が起きるかわからないなか、フジはかなりのリスクを取ってフルオープンの会見を開いたと感じる一方、混乱状況を予見し、あえて放置したとも思いました。落ち着いて質疑ができる雰囲気ではなかったので、質問はせずに途中で帰りました。聞いてみようかと思うことはあったのですが」

 ――なにを聞きたかったんですか。

 「人事のことです。局長以上の人事権は社長にあるのか、会長にあるのか。また日枝久・取締役相談役に拒否権があるのか、行使したことはあるのか。人事権はこれまでどう変遷してきたのか。そういったことを経営陣がどう説明するのか関心がありました」

 「これはあくまで私の見方ですが、あの会見で壇上にいた人たちは、会長であれ社長であれ、いずれも簡単に首をすげ替えられるだけの存在でしかありません。元幹部など多くの証言を重ね合わせてみると、人事権は事実上、依然として日枝氏が持っているからです。もちろん今回の事態を引き起こした要因は複合的なもので、他局も含めてテレビ業界に沈殿していた問題が噴出した側面はあるでしょう。ただやはり、日枝体制の責任が極めて重いと私は考えます」

 ――どういう責任ですか。

 「彼がやってきた最大の悪弊は、グループ内で情実人事を続けてきたことです。適正な人事評価が軽視され、日枝体制に対して従順な、上意下達の人たちが目立ってポストを得ていくのを長年にわたって見てきました。セクハラまがいの言動で有名な人物が人事部局で要職に就いて驚いたこともあります。コネ入社が多いのも特徴で、良識的な人たちは頭を抱えるようなことが、30年以上も繰り返されてきた。組織が腐敗するのは避けがたいと思います」

 「それを最も象徴しているのが2022年に港浩一氏が社長に就任した人事です。彼はバラエティー制作部門の出身ですが、私はバラエティー番組の制作現場で起きた事故などに彼がどう対応したかを20年ほど前から取材してきたので、港社長のもとで今回の事態が起きたことには、正直言って驚きません。そのような人物を重用してきた日枝体制が引き起こした経営危機だと思います」

ルビコン川を渡って

 ――なぜ日枝氏はそこまでの権力を持ったのでしょうか。

 「フジテレビやニッポン放送、産経新聞などを含むフジサンケイグループはもともと、故鹿内信隆氏の一族が支配するオーナー企業でした。また当時フジテレビはニッポン放送の子会社にすぎない存在でもありました。そこで1992年にクーデターを起こし、グループ議長やフジ会長を務めていた鹿内家の3代目・宏明氏を追い落としたのが、当時フジ社長だった日枝氏でした。『パブリックカンパニー』に生まれ変わるためという大義名分のもと、自分の首が飛ぶかもしれないという生半可でないリスクを取って日枝氏がルビコン川を渡る決断をした結果、クーデターを成し遂げます」

 「2005年には、ニッポン放送の子会社化を進めるなかで買収を仕掛けてきたライブドアに対し、財務の悪化も顧みず巨費を投じて防衛に成功しました。クーデターとライブドア事件を乗り切ることで、盤石の体制を作り上げたのです。こうした過去の圧倒的な成功体験があるがゆえ、日枝氏には相当に強固な自負心があると思います。17年に会長から取締役相談役に退いた格好になってはいますが、フジサンケイグループ代表の座はまだ譲っていません。クーデターによって世襲はなくなったものの、かといって日枝氏の後継者が出てくるわけでもない構造になってしまっているのです」

 ――日枝氏が長く君臨している実態は、パブリックカンパニーの理念とは相いれないように見えます。

 「フジサンケイグループでは、メディア企業として自分たちが社会の公器であるという考え方が他局に比べて薄いように感じることが多いんですよね。たとえばTBSの場合、ドラマを作っている制作陣のなかにも『自分たちが稼いだ金で報道が頑張ってくれ』というような共通認識があったと方々で聞くんですね。70年代などは特にそういう空気だったと。もちろんフジにもそういう人たちはいるでしょうが、会社の成り立ちも影響してか、非常に弱い」

 「グループ初代議長の鹿内信隆氏は経団連の前身のひとつである日本経営者団体連盟の出身で、フジは開局当初から産業界との結びつきがとても強いのが特徴です。社員を採用する時点で、権力に対して疑義を呈するようなタイプの学生はあまり採らない傾向が強かったようです。そのため、これは取材をしながら実感してきたことですが、フジには従順な人たちがものすごく多いんです。絶対権力者の日枝氏が長年にわたって人事を掌握するなか、日枝氏の影響力をそぎかねない人物は本流から外れていく。体制に対する言論が抑圧され、萎縮が蔓延している状況が30年以上も続くのを見てきました。現場にいる人たちの声を聞いても、鹿内家がグループを支配していた時代でさえ、これほどの窒息感はなかったように思います」

永らえた要因

 ――投資ファンドなどの株主だけでなく、社員集会などでも経営体制の刷新を求める強い声が上がっています。日枝氏が経営層にとどまるのは難しい状況ではないでしょうか。

 「私は、日枝氏が闘う気まんまんでいるのではないかと推測しています。たしかにナショナルスポンサーが次々とCMを降りたのは経営にとってとても大きいことです。社会の環境変化は著しいスピードで進んでいて、一般の消費者を相手にする企業は世間の空気を如実に感じ取っています。ニッポン放送を子会社化する過程で日枝氏と極めて近しい関係になった主幹事証券会社の大和証券さえもCMを降ろしましたからね。それほどスポンサーは追い詰められている。しかし、日枝氏は大きな裏切りだと思っているのではないでしょうか」

 ――社会が変わっているのに、日枝氏が変わっていないということですか。

 「彼の内面世界では、変わる必要がなかったのでしょう。広告収入が減ってきているとはいえ、免許事業で権益ビジネスのモデルに安住していれば多くの収益を出すことができるからです。親会社も含めて社外取締役などが機能していなかった問題もあります。彼らは今になって『経営刷新小委員会』を作りましたが、そもそも取締役会の一員としてこれまでは何をしていたのでしょうか。私にはアリバイのような組織にも見えます。朝日新聞など他のメディアがきちんと批判をしてこなかったことも、日枝体制が問題を抱えながら永らえてきた要因の一つだと思います」

 「いずれにせよ、この危機的状況を収拾しようとするなら、日枝氏の動向が焦点であることははっきりしています。彼の退場を求める声は大きいものの、意外と日枝体制は粘り強いかもしれません。クーデターとライブドア事件に続く今回の第三の危機に対してはまだ手を打てていませんが、日枝氏が自身の影響力や存在感が小さくなることをそう簡単に良しとするようには思えません。フジの統治構造をそれなりに知ることになるであろう第三者委員会がどんな調査報告をするのか注目していますが、深く踏み込むことができるかどうか。そしてグループの核が公益に資する報道機関だというなら、社会にどう必要とされているのか、若手社員は考えるはずです。その自省を基に、フジ内部で心ある人たち、人望や胆力のある人たちが軸になり、日枝氏や経営幹部が蓄積してきた悪しき価値観を打ち破れるかどうかだと思います」

中川一徳さん

 なかがわ・かずのり 1960年生まれ。月刊誌「文芸春秋」記者を経て独立。フジサンケイグループの権力闘争を描いた2005年の「メディアの支配者」で講談社ノンフィクション賞などを受賞。
19年には続編となる「二重らせん 欲望と喧噪のメディア」でライブドア事件などの実相にも迫った。
noteでも「フジTVの『閲覧を禁じられた社史』」などの記事を公開している。
 

最も貧しい子どもたちに立ちはだかる億万長者たち N.Y.Times(朝日新聞有料記事より)

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ニコラス・クリストフ

 世界で最も金持ちの人物が、世界中で最も貧しい子どもたちの命を救っている米国際開発局(USAID)を破壊したことを誇り、「木材粉砕機に押し込んでやった」と豪語している。

 私の計算では、イーロン・マスク氏の純資産は地球上の最貧困層10億人の総資産を上回っている。ドナルド・トランプ氏の大統領当選以降だけでも、マスク氏の個人資産は、連邦予算の1%にも満たないUSAIDの年間予算全体をはるかに上回る規模で増えている。

 マスク氏やトランプ氏のような意気揚々とした億万長者たちが子どもたちを医療から切り離すのは非情なことだ。しかし、1961年にジョン・F・ケネディ元大統領がUSAIDの設立を提案した際に指摘したように、それは近視眼的でもある。ケネディ氏は、援助を削減することは「悲惨な結果をもたらし、長期的にはより高くつく」と指摘した。さらに「我々自身の安全が危険にさらされ、繁栄が脅かされることになる」と付け加えた。おそらくそれが、ロシアがトランプ氏の動きを称賛する理由だろう。

「再編」ではなく「解体」、米国への打撃大きく

 ケネディ氏とは対照的に、トランプ政権は残虐さと無知、近視眼を織り交ぜており、その組み合わせは米国の人道支援への攻撃において特に顕著に表れているように見える。

 米国ではすでに鳥インフルエンザで1人の死者が出ており、パンデミックへの懸念が高まっている。しかし、米国を拠点とする非営利団体のグローバルヘルス評議会によると、トランプ氏による対外援助の停止により、49カ国で鳥インフルエンザの監視が中断されている。

 2014年に西アフリカでエボラ出血熱が大流行した時の米国のパニックを覚えているだろうか? トランプ氏は当時、特にヒステリックだった。結局、あのときはエボラのパンデミックは回避されたが、その一因は、ギニア、リベリア、シエラレオネにおけるUSAIDの活動にもあった。

 偶然にも、ウガンダで新たなエボラ出血熱の流行が報告されたばかりで、これまでに234人の接触者が確認されている。通常であれば、USAIDが流行の抑制を支援するところだが、今やトランプ氏とマスク氏がそれを機能停止に追い込んだ。

 別の感染症であるマールブルグ病が先月タンザニアで発生した。救援隊員たちはウイルスの封じ込めに奔走しているが、ここでもトランプ氏は米国を「無断欠席」にし、世界をより脆弱な状態にしている。

 一つ公表しよう。2012年、USAIDは私と妻が執筆した本をもとに、インドとアフリカ向けのゲームをいくつか製作した。USAIDは私たちに一切報酬を支払わなかったが、それらのゲームは虫の駆除や女子教育、安全な妊娠の促進に大いに役立った。

 私は世界中でUSAIDの活動を目にしてきたが、その状況は複雑だ。USAIDが際限なく官僚的だということ、そして援助の多くがそれを必要とする外国の困窮者ではなく、元政府職員を雇って公共事業を多く受注する、いわゆる「ベルトウェー・バンディット」と呼ばれる米国の業者に流れているという批判は正当である。

 しかし、USAIDが「(社会正義に対する意識が高い)ウォーク」の無駄遣いの温床だとするホワイトハウスの神話には根拠がない。この神話はトランプ氏の「ハマスにコンドームを約1億ドル分(以前は5千万ドルと主張していたが)支出した」とする主張に代表される。

 うーん。男性用コンドームは1個あたり3.3セントなので、1億ドル分は30億個になる。ハマスがその数のコンドームを1年で使い切るには、戦闘員1人当たり1日325回、毎日性行為をする必要がある計算だ。それはイスラエルの爆撃よりも効果的に戦闘集団としてのハマスを壊滅させるかもしれない。

 いずれにせよ、近年のガザ地区向けコンドームに費やされた米国の実際の援助額は、1億ドルではなく0ドルだったようだ。

 トランプ氏の政策は、その言葉遣いと同じぐらい無謀だ。私はUSAIDの再編を歓迎する。しかし、これは再編ではなく解体であり、私たちの価値観と利益の双方に対する打撃である。

 マスク氏はUSAIDを「犯罪組織」と激しく非難した。実際には、その職員の多くが公共サービスの最良の伝統の下、命をかけて働いてきた。USAIDの慰霊壁には、スーダン、ハイチ、アフガニスタン、エチオピアなどで活動中に命を落とした99人の名が刻まれている。

私が目にしてきた数々のUSAIDの活動

 私は長年にわたり、USAIDの真の改善を目にしてきた。昨年発表された鉛中毒対策における官民協力は、米国のリーダーシップの模範となるものだった。そして、私自身の旅を通じて、USAIDは私にとって以下のような意味を持つようになった。

 私は、出産時の恐ろしい損傷である「フィスチュラ」を抱える女性や少女たちが600ドルの手術を受けて人生を取り戻すのを見てきた。これはUSAIDが支援していることの一つだ。

 私は、象皮病や異常に大きくなった陰囊(いんのう)のせいで屈辱的な思いをしている男性たちも見てきた。彼らは時に、歩行時に臓器を支えるために手押し車が必要になることもある。そして、USAIDはこの病気と闘い、その発生を減らしてきた。

 私は、マラリアで命を落としていく子どもたちを見てきた。私自身もマラリアを患った。そして過去20年間で、USAIDがこの病気に対する大きな進歩をもたらす力となってきたのを目にしてきた。

 私は、アフリカ南部がエイズによって荒廃していくのを見てきた。そして当時のジョージ・W・ブッシュ大統領が打ち出し、一部がUSAIDを通じて実施された画期的なエイズ対策プログラム「大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR)」が、その状況を一変させた。レソトやマラウイで棺おけ職人たちが、死亡者が大幅に減少したために商売が立ち行かなくなったと不平を漏らすのを目にした。PEPFARはこれまでに2600万人の命を救ってきた。今後数カ月のうちに、トランプ氏による援助削減で、どれだけの命が失われることになるのか計算してみたい。

 私は、トラコーマや河川盲目症、白内障によって、中年の人々が日常的に失明するコミュニティーの苦しみを見てきた。USAIDがそうした失明を予防する支援をしたときの様変わりぶりも見てきた。

 トランプ氏はUSAIDが「急進的な狂人によって運営されている」と嘲笑した。子どもたちの命を救おうとすることが急進的な狂気なのか? 女子の識字率向上を推進することが? 失明と闘うことが?

 もしこれが「ウォーク」なら、USAIDの支援を受けてカンボジアやフィリピンで子どもの性的人身売買に対し傑出した闘いを繰り広げてきた「インターナショナル・ジャスティス・ミッション」の福音派キリスト教徒たちについてはどうなのか? トランプ氏は、子どもたちをレイプから救出することが急進的な狂人の大義だと考えているのだろうか?

 トランプ氏の動きは、USAIDが議会によって設立されたことを考えると法的に不確実だが、その結果は明白だ。私たちの価値観を守り利益を保護するためにケネディ氏が設立した機関への攻撃により、世界中で子どもたちがすでに医療と食料を失いつつある。

 ホワイトハウスにいる億万長者たちにとっては、これはゲームのように見えるかもしれない。しかし、心ある人々にとって、これは子どもたちの命と私たち自身の安全に関わる問題であり、今起きていることは吐き気を催すものである。

4年目に入った「必要ない侵略」 前駐ウクライナ大使が語るこの3年(朝日新聞有料記事より)

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  ロシアがウクライナへの侵攻を開始してから、2月24日で3年となりました。この間の推移をどうみるか。侵攻開始前から昨年10月まで駐ウクライナ大使だった、松田邦紀氏に聞きました。


 ――ロシアによるウクライナへの侵攻が始まって、3年になります。

 起こる必要もなければ、起こってはならないロシアの侵略戦争が、不幸にも3年続きました。ウクライナの人的、物的被害はきわめて大きいです。この間ウクライナでは、東部の人も西部の人も、ロシア語を話す人もウクライナ語を話す人も、みなが団結して国の防衛にあたり、助け合いました。ただ3年も経てば、社会に疲れはでてくる。いまだ国外に600万人が避難しています。国民の間に将来への不安が全くないといえば、うそになります。

 ――この間のゼレンスキー大統領への評価は。

 ゼレンスキー氏は侵攻翌日の2022年2月25日、国民に対して「自分たちはここにいる」と動画で発信し、国外に逃げない姿勢を示しました。これで多くの国民の気持ちが奮い立ちました。欧州連合(EU)への加盟交渉も始まり、ウクライナの慢性的な問題だった汚職への対策も進めた。危険をかえりみずに自ら前線に行き、世界中でウクライナの立場を説明して回りました。国民もそういう点は評価していると思います。

 ただ、疲れはあるのでしょう。戦争が始まる前の21年12月、大使の信任状奉呈式で会ったときはエネルギッシュな若者という印象でしたが、退任に際して最後に会ったときは、悲しみや怒りが深く表情に刻み込まれていると感じました。

 ――3年間で、ウクライナの政治や市民の、侵攻終結に対する姿勢に変化を感じましたか。

 侵略戦争が始まってすぐ、国民の間では「とことん抵抗する」という思いが跳ね上がりました。

 しかし、ウクライナの領土奪還が比較的うまくいった22年が終わり、冬場のエネルギーインフラに対する、ロシアからの国際法や人道法を無視するような攻撃を受け、23~24年にかけて戦線が硬直する中で、なんらかの交渉を模索すべきだと考える人が増えたのは事実です。ただ、すべてを失ってでも早く妥結しろということでは決してありません。

停戦交渉をどうみるか

 ――トランプ米大統領の就任で、停戦への期待が出ています。

 ウクライナが防衛的な軍事行動に加えて外交的な決着も模索し始め、トランプ米政権がそれを受け止め、ロシア側に働きかけた結果、今に至っていると思います。

 ロシアにとっても戦争継続は決して楽ではなく、3年間で様々な問題が出ました。戦争をきっかけにフィンランドとスウェーデンが北大西洋条約機構(NATO)に入り、国内ではインフレ(物価高)が進み、ウクライナより多くの兵が亡くなっているとみられています。それぞれ思惑は違いますが、何らかの形で停戦、和平にもっていくというベクトルは一致しつつあります。

 ――いまの状況は、基本的には歓迎できるのでしょうか。

 停戦に向けた機運そのものは、多くの当事者が評価しているでしょう。ただ、目指す中身までみんなの心が一致しているかというと、そうではありません。

 ――交渉の先行きをどうみますか。

 ここから紆余曲折があるので、私は慎重にみています。ただ、トランプ氏が戦争を終わらせる方針を明確に打ち出した以上、目標に向かって周囲を引っ張り、抵抗勢力には圧力をかけるでしょう。今年1月にはトランプ氏が、ロシアが停戦の取引に応じなければ対ロ制裁を強化するとか、(ロシアの収入になっている)石油の値段を下げれば戦争はすぐ終わるなどと発言し、ロシアに圧力をかけました。米国が100%ロシアのいいなりになることはないと信じています。

 ――米ロ2カ国による、ウクライナの頭越しの交渉を警戒する声もあります。

 頭越しに交渉される可能性をウクライナ政府がどの程度心配しているのかは分かりませんが、ウクライナ側もできることはやっています。昨年9月、勝利のための計画を当時まだ大統領候補だったトランプ氏に説明しに行くなど、米大統領が誰になってもいいようなアプローチをしていました。

かつて駐在もしたロシアへの思い

 ――どんな停戦、和平が望ましいですか。

 正義が反映され、戦後の国際秩序が永続的なものになるようなものでなくてはいけません。岩屋毅外相が今月のミュンヘン安全保障会議で発言したように、ロシアが勝った形になれば他の国に間違ったメッセージを与えてしまう。

 ――ロシアに対してどんな思いを抱いていますか。

 私は若い外交官としてソ連に留学し、モスクワの大使館では計2回勤務しました。ロシアが世界の文化、科学技術の発展に貢献してきたことには、私なりに敬意を持っていました。今は、どこで道を間違えたのか、どこまで戻ればやり直せるのかという思いです。

 将来またロシアが国際社会と一つになり、世界の平和と安定に貢献することを期待しています。その意味でも、この戦争をきちっとした形で終わらせなければ、ロシアが間違いを正すきっかけを失ってしまうと考えています。

ミャンマーの国境地帯、なぜ世界的犯罪拠点に? 安田峰俊四(朝日新聞)

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 【解説】

本件について、日本では非常に活発に報道がなされています。 ただ、一連の報道は、詐欺拠点の「場所」があるタイやミャンマー(に拠点を置く西側ジャーナリスト)から見える視点のものが多い印象です。 しかし、これらの"詐欺拠点"(園区)の運営者は中国人で、バックにいるのは各国の華人。近頃「解放」されたとされる何千人もの"外国人"も大部分は中国人です。 本件はコンピュータでたとえれば、ハードはミャンマーやタイなのですが、そこで動いているソフトは中国(人民共和国に限らない中華世界)です。もちろんハードの考察は欠かせませんが、ソフトたる中国の視座なくしては全容は見えないと考えます。 そもそも、従来の報道における「ミャンマー詐欺拠点」という前提のくくりも、実は正確に実態を反映していません。 とりあえず、カンボジアのシアヌークビルからラオス、ゴールデントライアングル、ミャンマーの中国国境地帯、タイ北部、そしていま話題のミャンマー東部までの一帯を「中華暗黒ベルト」と規定します。東南アジア大陸部の中国的世界において、現実の国民国家の国境線は近代以来一貫してさしたる意味を持たず、こう呼ぶほうが自然だと感じるためです。「ミャンマー」か「タイ」か、みたいな分け方ではなく、中華暗黒ベルトの世界か否か、が肌感覚での妥当な理解です。 近年、中華暗黒ベルトが中国の経済発展と習近平政権の諸政策により、結果的に極度に活発化した鬼子のひとつが、最近話題の"ミャンマー詐欺拠点"というやつです。
まずは中国の習近平政権です。同政権の初期、大規模な腐敗摘発政策と極度の監視社会化が進んだことは広く知られる話です。しかし、これに困ったのが、中国全土にいた「わるいひと」たちです。狭義の黒社会の人たちはもちろん、官僚(地方含む)のマネロンに関係したり政商をやったり賭博・売春施設を経営したりとエッジィな商売をしていた人たち、さらにそこの経済圏の周縁にいる人たちにとって、このような習政権の政策は大変不都合です。 しかし、彼らはものすごく沢山います。簡単には滅びません、また、旨味の薄いホワイトな商売にわざわざ参入するのもあまり楽しいことではありません。ならば、彼らはどこに消えたのか? 近年の中国の社会は妙にクリーンなのですが、一体どこへ? 一方、習政権の初期から中期にかけては、もう一つの政策が進行しました。中国が近隣の小国を束ね、中国企業と中国の経済発展モデルを輸出する一帯一路政策です。こと、東南アジアの各国は(中国の主観では)実質的に”属国”あつかいですので、高速鉄道などのインフラ輸出や中国系経済特区の整備が盛んに行われました。”属国”相手なので、街丸ごとくらいの地域を中国企業が99年間租借して実質的に治外法権と関税自主権を認めさせるみたいな、19世紀の帝国主義国みたいなこともやっています。 いっぽう、東南アジア各国は、ガバナンスが極めて脆弱な国が少なくありません。つまり、グレーな商売を極めてやりやすい土地です。ゆえにもともと、中華暗黒ベルトはずっと前から存在していますが(クンサー勢力とかミャンマーの中国系軍閥とか)、習政権の反腐敗と一帯一路政策の結果、中国本土にいた「わるいひと」たちが、これ幸いと東南アジアに殺到することとなります。 そして、現地政府の支配が及ばず、中国人の内部の論理で完結した地域である中国系経済特区を拠点にしはじめます。結果、2010年代後半ごろから、国名でいえばカンボジアからラオス・ミャンマーなどの各国に詐欺拠点が多数誕生します(他にもフィリピンとかにもありますが)。 「中華暗黒ベルト」は、法治概念、人権概念、国民国家の認識といった西側各国の常識がもとより通用しない地域ですので、中国系社会の内部では、密航やマネロンや薬物売買(アヘン栽培等も含む)や売春なども「普通の仕事」として通常経済のなかに組み込まれています。いつの時代の話だと思われるかもしれませんが現代もそうです。 この世界では、もちろん詐欺も「普通の仕事」なので、詐欺拠点の運営主体も表向きは会社です。園区(パーク)と呼ばれる区画ひとつ、もしくはビルひとつがまるごと会社持ち、そこでビジネスとしてオンライン詐欺をやらせるという形になります。
私が得た内部に近い筋の話では、日本の報道でいう"ミャンマーの詐欺拠点"で働く中国人は30万人(!?)に及ぶとも聞いています。また、ミャンマー東部の拠点がここまで派手になったのは2021年ごろからのようです。なぜこれだけの人たちが詐欺に従事しているのでしょうか? 理由を全部説明すると大変なので、ひとまず働く人たち自身の理由"のみ"説明しますと、コロナ禍と中国不動産バブルの崩壊による、大量の債務者や貧困者の出現が関係しています。近年、中国では多重債務者が自暴自棄になって無差別殺人事件を起こす「献忠」という事件が多発しています。しかし、そこまですべてを捨てられない人はどうやって借金を返すのか? 答えの1つが、ミャンマー(に限らず東南アジアの中華暗黒ベルト各地)の詐欺拠点で働くことです。実のところ、少なくとも中国人に関しては、労働者のほとんどが「自発的に」来ているという話を複数の関係者から聞いています。 いわば、往年の比喩でいう「マグロ漁船に乗る」(※実際のマグロ漁船はそんなにブラックではないと思いますが)みたいな感じで、人生の一発逆転を求めて詐欺拠点にいくわけです。 一方、拠点を運営する会社は、従業員(=詐欺従事者)の食事や住居は会社持ち、詐欺師として一人前になるまで数ヶ月は訓練も必要ですから、穀潰しがいると経営者として気分が悪いわけです。ただ、こちらの会社は世間の一般企業とは異なり、「わるいひと」が運営していますので、成績が上がらない場合は従業員をぶん殴ります。もっと会社に損害を与えたり、反抗して無駄な管理コストを発生させている場合、よそに売り飛ばしたり、臓器を売ってお金にかえたりもします。これが、報じられている「虐待」の実態であるといえます。 (なお、これらは2022年くらいから華人圏で広く知られている話ですが、日本人と関係ないと判断されたためか、国内メディアでは今年に入るまでほとんど報じられてきませんでした) さらに近年、彼らには別の問題も発生しました。会社(詐欺拠点)と従業員(詐欺従事者)が増えすぎて、中国国内の人を騙せなくなってきた&中国政府がさすがに怒りはじめたことです。ちなみに内部に近い筋に聞いた話では、ミャンマーの「園区」は50くらいはあるみたいで、さらにラオスやカンボジアにもたくさんあります。 ゆえに、一部の会社は中国ターゲットの詐欺(中国盤)ではなく、外国人ターゲットの詐欺(外国盤)に切り替えるようになりました。ただ、英語圏向けの詐欺は、アフリカなどから自発的に出稼ぎでやってきて従業員(詐欺従事者)になる人がいるわけですが、日本向けの詐欺は日本語がネイティブの日本人を連れてこなくてはいけません。 私が聞いた話では、日本人も「儲かるから」と自発的に詐欺拠点に行った人がかなりいるようです。しかし、昨今話題になっている高校生の例などは、明らかに騙されて連れて行かれたと思われます。会社(詐欺拠点)のスカウトエージェントもノルマがあるので、なりふり構わず人を連れてきた結果であるかと想像します。 詐欺拠点は極めて規模が大きく、国境を越えて広範囲に存在します。最近の取り締まりや国際メディアの注目で壊滅するようなものとは、到底思えません(せいぜいミャンマー東部の拠点が下火になり別の場所に移る程度)。
「解放」された人が3000人でも7000人でも、膨大な従事者のなかでは一握りでしょう。 まさに国際政治と国際経済のブラックボックスです。日本人がそれらに直面する時代になっているというのが、本件の最大のインパクトであると感じます。

なぜ中国で政治スキャンダルが続くのか 個人支配の強化で弱まるもの(朝日新聞有料記事より)

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 中国の王毅(ワンイー)外相は14日、「米国が中国を押さえつけるなら、中国も最後まで付き合うしかない」と語りました。日本国際問題研究所が昨年末に発表した「戦略アウトルック2025」で、中国で習近平国家主席の個人支配体制が定着していると分析した李昊(りこう)東京大学大学院准教授は「中国は対米外交に集中するため、全方位的に関係改善を目指している」と語ります。同時に、石破茂首相の対中外交について「リアリストとして対中リスクを減らす努力が重要」とも指摘しました。

 ――中国では習近平氏に対する個人崇拝が強まっているとたびたび指摘されています。

 2012年の中国共産党大会で初めて総書記に就任してから、少しずつ習氏に対する個人崇拝が強められてきました。17年の党大会では習氏の名前を冠した「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想」と題したイデオロギーが党規約に盛り込まれ、同大会が閉幕した直後の人民日報は1面で習氏の写真をひときわ大きく掲載しました。

 その後は、習氏の実績や能力をたたえる宣伝があからさまに増え、2022年ごろから、習氏を「人民の領袖」と呼ぶ宣伝キャンペーンも展開されています。この尊称もいつか公式化されるかもしれません。

 こうした動きは、本人が拒絶すれば止まるわけですから、習氏自身の意思であることは間違いありません。周囲の忖度という面もあると思います。

 ――なぜ、強固な支配体制が確立できたのでしょうか。

 12年当時は、胡錦濤時代への反省から、「もう少し、リーダーシップを発揮できる体制にすべきだ」というコンセンサスが指導部内にあったようです。

 習氏はこの流れに乗り、反腐敗の名目で政敵を次々に排除しました。そのうえで、総書記への書面での職務報告の義務化や、自らがトップに就いた「中央全面深化改革領導小組」の創設など、制度面でも権力集中を進めました。

 また、習氏はかつて勤務した福建、浙江、上海時代の部下を次々に抜擢し、周りを固めています。現在、習氏以外に23人が選出されている共産党政治局員はいずれも、習氏に忠誠を誓ったとみられる人物であり、対抗勢力は見当たりません。

「反腐敗キャンペーンは政治運動」

 ――アウトルックでは「秦剛(チンカン)元外交部長(外相)や李尚福元国防部長(国防相)の失脚、ロケット軍の司令員(司令官)と政治委員の更迭、高官の汚職腐敗による摘発など23年から政治スキャンダルが繰り返されている」とも指摘しました。

 中国に限らず、独裁体制でよく見られる現象です。個人支配を強化したため、法や制度が脆弱になってしまうからです。3期目では軍を中心に高官の摘発が続いており、腐敗撲滅が進んでいないのは明らかです。

 政治スキャンダルの原因になっている腐敗を防止するためには、透明性と罰則などのルールが必要ですが、その整備は進んでいません。習氏による反腐敗キャンペーンは恣意的に実施され、政治運動としか言いようがありません。

 ――「今日の中国の最大の問題は経済の停滞である」と指摘しました。

 一番大きいのが不動産不況です。不動産市場から活気が失われ、一気に景気が悪化しました。習氏が主導した「ゼロコロナ政策」の影響も大きかったと思います。消毒液の購入や毎日行うPCR検査、スタッフの人件費など、関係費用は天文学的な数字に上ります。実際に負担した地方政府の財政が悪化し、場所によっては地方公務員の給与の支払いすら滞っています。

 内需が足りないため、巨大経済圏構想の「一帯一路」などを掲げ、需要を外部にも求めていますが、経済面では十分な成果を上げていません。外国資本による投資も不透明感から進んでいません。もっと、民間の活力を利用する必要があると思います。習近平氏もそれを認識しているようで、馬雲(ジャック・マー)氏ら民間企業経営者との座談会を開催し、支援していく姿勢を鮮明にしました。

 中国国家統計局は1月17日、24年の国内総生産(GDP)成長率を前年比5.0%と発表しました。多少誇張された数字である可能性もありますが、毎年5%前後の成長を続けられる国は非常に限られています。中国の経済成長は減速したものの、終わったわけではなく、依然として世界経済を牽引する役割を担うでしょう。

相次いだ日本人学校襲撃事件 「当局はデマを取り締まるべき」

 ――昨年相次いだ日本人学校襲撃事件の影響をどう見ていますか。

 日中両国にとって衝撃的な事件でした。日本の対中感情に不可逆的な悪い影響を与えたと思います。偶発的な事件という指摘もありますが、日本人を狙った犯罪だと考えるのが自然です。

 一つの要因は、「日本人学校でスパイを養成している」など、デジタル空間の反日言説やデマを放置してきたことです。「日本批判の主張をすべて取り締まれ」とは言いませんが、差別とデマは許されません。中国当局は、国内の不満のはけ口として、問題を放置してきた責任があります。これは現場の問題ではなく政治の問題です。今後、社会にはびこるデマを取り締まらないと、次々と同じ事件が起きる懸念があります。

 ――日中間の懸案になっている日本人拘束問題や処理水放出問題はどうなっていくでしょうか。

 日本人拘束問題は扱いが非常に難しいと思います。問題なのは、何が機密とされ、取り締まる基準が何なのかが、全く不明であるということです。中国は一切公表していないため、外資企業が中国に社員を派遣するのを躊躇するなど、影響が広範囲に出ています。中国はもう少し、合理性や透明性を伴った法執行に努めるべきです。裁判の過程も情報公開が進むことが期待されます。

 処理水の問題は完全解決までもう少し時間がかかるでしょう。可能な限り早期に水産物の輸入停止は撤廃されるべきですが、解決に至る過程自体が、中国にとって交渉のカードになり得ます。

第2次トランプ政権発足で日中関係は

 ――トランプ政権の発足により、中国の外交や日中関係はどうなっていくでしょうか。

 中国は対米外交に集中するため、全方位で世界各国と関係を改善しようとしています。トランプ氏と習氏は1月17日に電話会談しましたが、米中関係の安定化は簡単ではないでしょう。

 石破茂政権の対中外交は、コミュニケーションを増やし、意思疎通を図ることでリスクを下げようとしているようです。

 一部で石破首相を「親中派」とする指摘がありますが、それは誤った認識です。石破氏は昨年8月に台湾を訪れ、頼清徳総統とも会談しています。「親中」「反中」ではなく、国益を守るという観点から対中外交を考えるべきです。石破政権の対中政策は、リアリストとして日中関係のリスクを減らすことで、日本の安全を図ろうとしているように見えます。

 もちろん、日本がなし崩し的に譲歩し、中国側に誤ったメッセージを与えることは避けなければなりません。意思疎通は日本の意見や要求を確実に中国側に伝えるためです。邦人の安全確保、日本企業の活動環境の改善、東シナ海における緊張緩和など、懸案は多く、タフネゴシエーターでなければなりません。 

今朝の東京新聞から。

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「紐育の波止場」1928年、ジョゼフ・フォン・スタンバーグ(サイレント)

シネマ・ヴェーラ、明日13日が最終上映のこの映画。
クライテリオンのDVDと思われるものがアップされていました。

 

「西部戦線以上なし」1979年

79年のTV版「西部戦線以上なし」の存在を初めて知りました。
監督は「マーティ」のデルバート・マン。
主役が「去年の夏」「朝やけの空」のリチャード・トーマス。
アーネスト・ボーグナインにドナルド・プレザンス、それにパトリシア・ニールという顔ぶれ。


今朝の東京新聞から。

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「男焼衣」1996年七月公開

久し振りの日本での香港映画ヒットという全くめでたい「九龍城寨」。
古天樂と谷垣さんといえば、古天樂の主演第1作目の「男焼衣」が初顔合わせだったんでは?
著書の「燃えよ!スタントマン」にはこの現場の様子が実に可笑しく書かれています。
30年近く経って、TVタレントが業界の大立者となったり、もう一方は大作の動作指導を任されるという実に月日の移ろいを感じさせます。
この映画は香港盤VCDしか出ていなかったような? まともに全篇を観たひとは少ないんじゃないかと思います。
後ろ姿の丸囲みは髪型からして谷垣さんかと、最後の画像で左に写っているのはジャック・ウォンで間違いないかと。

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