香港郊野遊行・續集

香港のハイキングコース、街歩きのメモです。

2025年03月

ウクライナに関する米ロ首脳の発言は何も信じられない N.Y.Times(朝日新聞有料記事より)

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トーマス・フリードマン

 トランプ米大統領が再び政権を握り、ロシアのプーチン大統領との関係を生かしてウクライナ戦争を数日で終わらせるという自慢を実現しようとし始めてから、私はずっと、両者の友情において、何かが翻訳されていなかったのではないかという懸念を抱いている。

 通訳者がトランプ氏に「プーチン氏が、ウクライナの『平和(peace)』のためなら何でもする用意があると言っている」と語ったとき、プーチン氏が本当に言ったのは、「ウクライナの『領土の一部(piece)』のためなら何でもする用意がある」ということだったと私は確信している。

 同音異義語は、注意深く聞いていないと本当に大変なことになる。

「and」や「the」という言葉さえも信用できない

 米紙ニューヨーク・タイムズはトランプ氏とプーチン氏が3月18日、2時間半におよぶ電話協議をし、プーチン氏はウクライナのエネルギー施設への攻撃を停止することに合意したが、米国とウクライナが合意した30日間の即時停戦案については合意しなかったと、ロシア大統領府の発表に基づいて報じた。

 ロシア大統領府は、紛争終結のためのプーチン氏の「重要な条件」として、ウクライナに対する外国からの軍事・情報関連の援助の「完全停止」を挙げた。言い換えれば、ロシアがウクライナを完全に乗っ取ることに抵抗する能力を、ウクライナから剥奪するということだ。トランプ氏が愚かにも信じていたが、プーチン氏はウクライナとの和平を求めているのではない。ウクライナを自分のものにしようとしているのだ。剥奪するということだ。

 失礼ながら、作家メアリー・マッカーシー氏がライバルである劇作家リリアン・ヘルマン氏の信憑性について言ったことで有名な「and」や「the」という言葉も含めて、トランプ氏とプーチン氏がウクライナに関して交わした私的な会話は、一言たりとも信用できない。というのも、ウクライナに関するトランプ氏とプーチン氏の取引は、最初から何かがおかしかったからだ。

 答えのない疑問があまりにも多すぎるのである。

 まず初めに、たとえば、イスラエル、エジプト、シリアの間であった1973年の第4次中東戦争を終結させる離脱協定を結ぶために、キッシンジャー元米国務長官は、1カ月以上かけて激しいシャトル外交を展開した。そして、すべての関係者が取引を望んでいた。一方、トランプ氏の友人であるウィトコフ特使とプーチン氏はモスクワで2回会談し、プーチン氏とトランプ氏は数回電話しただけだ。これで、ロシアによるウクライナ侵攻をウクライナ政府にとって妥当な条件で終結させることができるだろうか。トランプ氏は所有するホテルの売却だって、こんなに短時間ではしないだろう。

同盟国を無視し、プーチン氏に手を差し伸べる

 米国が、同盟国とともに3年間支援し、自由を手に入れようと奮闘している国を、これほど恥ずかしげもなく売り渡したことは、かつてない。

 トランプ氏は「ウクライナでの殺し合い」を終わらせたいだけだと繰り返し言っている。私も同感だ。しかし、殺戮(さつりく)を終わらせる最も簡単で手っ取り早い方法は、殺戮を始めた側、作為的な理由でウクライナに侵攻した側の軍隊が、ウクライナから撤退することだろう。そうすれば殺戮は終わる。

 プーチン氏がトランプ氏の助けを借りる必要があるのは、殺戮を終わらせる以上のことを望む場合だけだ。ウクライナがプーチン氏に何かを譲らなければならないのはわかる。問題はどれだけ譲らねばならないかだ。プーチン氏が望む大きな一切れ(領土)と、ウクライナに科される戦後の制限を、これ以上の戦闘を伴わずに手に入れる唯一の方法は、トランプ氏に協力してもらうことだとも私は理解している。

 ただ、トランプ氏はプーチン氏と交渉するときに、欧州の同盟諸国を無視してきた。欧州の同盟諸国はウクライナに数十億ドル相当の軍事装備品、経済援助、難民支援を行っており、その額は米国を上回っている(トランプ氏は、それについて嘘をついている)。そして、彼らは今、プーチン氏がウクライナを制圧し、次に自分たちの国に攻めてくるのを防ぐために、さらに多くを行う準備ができていると表明している。

 にもかかわらず、なぜトランプ氏はプーチン氏との交渉において、私たちの最も強力なレバレッジ(てこ)である欧州の同盟諸国を引き連れていかなかったのだろうか。そして、ウクライナのゼレンスキー大統領を「独裁者」と恥ずかしげもなく呼んだ後、なぜウクライナへの米国の軍事・情報関連の援助を目に見える形で停止させ、また再開させたのだろうか。

 キッシンジャー氏とベーカー元国務長官が特に有能な交渉者だったのは、同盟国を活用して米国の力を増幅させる方法を知っていたからだ。トランプ氏は愚かにも、同盟国に対して手のひらを返し、プーチン氏には手を差し伸べている。そうやってレバレッジを失っているのだ。

 プーチン氏にはない最大の資産である同盟国を活用することこそ、「賢い国家運営」なのだと、長年にわたって米大統領の中東顧問を務めてきたデニス・ロス元大統領特別補佐官は私に語った。

ウクライナの「結果」がもたらすトランプ氏の利益とは

 戦争を終わらせ、その状態を維持するための持続可能なやり方がある一方で、持続可能ではないやり方もある。すべては何を基本線として重視するか次第だ。もし重視するものがウクライナや同盟国が望むものと根本的に異なれば、彼らがトランプ氏とプーチン氏の親密な関係に基づく結果に従うとは思えない。

 プーチン氏は、ウクライナが、従属的な隣国ベラルーシのようになることを望んでおり、別の隣国ポーランドのように、欧州連合(EU)に根ざした自由経済、民主主義の独立した国になることは望んではいない。

 トランプ氏はどのようなウクライナを望んでいるのか。ベラルーシなのか、それともポーランドなのか。

 どちらの方が、ウクライナの利益、米国の利益、そして欧州の同盟国の利益になるのかについて、私にはまったく疑問がない。私を悩ませるのは、トランプ氏が考える個人的な利益が何なのか、わからないことだ。

 ウクライナの領土をプーチン氏に正式に明け渡すのではなく、単に停戦すること、ウクライナを北大西洋条約機構(NATO)に加盟させるのではなく、EUに加盟させること、そして、米国からの情報や物的支援でバックアップされた国際平和維持部隊を現地に派遣することなど、トランプ氏の基本線が、米国が基本線とすべきものと同じだと判明するまで、私は、トランプ氏とプーチン氏がウクライナについて発言する内容について、「and」や「the」も含めて、非常に懐疑的にならざるを得ない。 

香港「超人」実業家へ米中双方から圧力か パナマ運河港湾売却(朝日新聞有料記事より)

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 パナマ運河にある港湾の事業を米国などの企業連合に売却することで合意した香港企業へ、中国が批判を強めている。香港の「超人」とも呼ばれる大富豪が創業した企業だが、トランプ米大統領が「取り返す」としてきた運河の事業をめぐり、米中双方の圧力を受ける構図だ。合意の実行も不透明さを増している。

 米資産運用大手ブラックロックなどの企業連合は今月4日、パナマ運河などの港湾事業を、香港の長江和記実業(CKハチソン・ホールディングス)から228億ドル(約3.4兆円)で買収することで基本合意したと発表した。

 CKハチソンは不動産などを手がける世界的な複合企業で、中国以外のインフラなどにも投資を広げてきた。今回の合意では、パナマ運河を含む世界の計43港の運営権が売却対象だ。

 トランプ氏は「パナマ運河が中国の影響下にある」と主張しており、理由の一つに香港のCKハチソンが運河の両端にある二つの港を運営していることがあるとされる。

 米紙ニューヨーク・タイムズによると、CKハチソン側はパナマ運河から撤退するよう促す政治的圧力があるとみて、米国の買い手を探したという。

相次ぐ批判、中国当局も「同調」

 ただ、これに対して今度は中国側が批判を高めている。香港の親中紙「大公報」は3月中旬以降、圧力をかけたとみなす米側や、取引に応じたCKハチソンなどを批判する記事を短期間のうちにたびたび掲載した。

 「決して普通の商業行為ではない」「国家や民族の利益を考えていないのか」。こうした文字が躍る記事は、中国政府で香港を統括する香港マカオ事務弁公室も次々と公式ホームページに転載。当局側も同調していることを示している。

 中国側には、港湾が米国企業の手に渡った場合、「中国企業への利用料が差別的に値上げされるのではないか」といった懸念がある。

 香港の李家超行政長官は18日、「(売却をめぐる)社会の懸念は重視するべきだ」とした上で、「国際貿易関係の中で脅迫や圧力をかけることには反対する」と発言。名指しはしないものの、米国側の姿勢を批判した。

 事態への注目がさらに高まる理由は、香港財界の「大物中の大物」も渦中にいるからだ。CKハチソンの創業者は、不動産を軸に巨万の富を築き、「超人」の異名をとる大富豪・李嘉誠氏(96)だ。

矢面に立たされた財界の「超大物」

 米誌「フォーブス」によると李氏の総資産額は373億ドル(約5.6兆円)とされる。李氏は2010年代に、グループの資産を中国から欧州などにも振り向け、中国不動産市場の変調を予見したとも言われる。習近平指導部とは距離があるとの見方もあった。

 親中紙には「いつの時代も、偉大な企業家は冷血に利益を追うだけでない、屈することのない熱心な愛国者だ」として、李氏を標的にしたとみられる評論も載った。

 米ブルームバーグ通信は27日、中国の高官が李氏とその家族側との取引をしないよう、国有企業に求めたと報じた。中国当局が国家安全や独禁法違反を名目とした調査に乗り出すとの観測もある。今回の合意を署名する期限は4月2日だが、香港紙「明報」は28日夜、CKハチソン幹部に近い関係者の話として「来週にいかなる署名もない」との見通しを報じている。

 CKハチソン側にすると、合意を進めれば米側の、断念すれば中国側の圧力を受け入れることになる。パナマ運河をめぐる米中対立の矢面に立たされた格好だ。香港企業に「愛国」が強く迫られることも、民主化運動が弾圧されて以降の香港の実情を映し出している。 

ダグラス・サーク「僕と祭りで会わないかい?(Meet Me at the Fair)」1953

厳しい画質のものですがアップされています。
プロット:タッドという名の少年が孤児院から逃げ出し、旅回りの薬売りの男、ドク・ティルビーに車で連れて行かれる。一方、ゼレルダ・キングは、婚約者が関与しているかどうかはわからないが、孤児院での違法かつ非倫理的な行為の可能性を調査するよう任命される。



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中高生ら19人への性加害を認定 著名な海洋生物学者が教え子に(朝日新聞有料記事より)

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故ジャック・モイヤー氏は子ども向けに多くの著作を残している

  旧ジャニーズ事務所創業者の故ジャニー喜多川氏の性加害問題が日本で社会問題化して2年。故喜多川氏と同じように立場を利用して、著名な海洋生物学者が長年にわたって多くの少女たちに性暴力を繰り返していた事案がある。しかし、インターナショナル・スクールが舞台となっていたこともあり、日本社会ではほとんど知られておらず、被害者らからは「事実を知ってほしい」という声が上がっている。

 この性暴力事案は、米国人の海洋生物学者、故ジャック・モイヤー氏(2004年に74歳で死去)によるものだ。モイヤー氏は1962年から2000年まで、東京都調布市にあるインターナショナル・スクール「アメリカンスクール・イン・ジャパン」(ASIJ)に教員やコンサルタントとして勤務。学校の近くと三宅島の2カ所に家をもち、教員として科学や日本文化・社会科目を教え、7年生(日本の中学1年相当)向けの三宅島での校外学習の企画・運営も行っていた。1984年に教科教員としての勤務を辞めて三宅島に移住した後もコンサルタントとして三宅島での校外学習を運営した。

 モイヤー氏からの性被害を訴える元生徒らの声を受け、ASIJは14年に米国の法律事務所に調査を依頼。調査は、60年代から2015年までの人事ファイル、卒業生のファイル、理事会の議事録、電子メール、年報、三宅島プログラムに関連した資料など約2万6千に及ぶ文書を収集・検討したほか、110人超の教職員や卒業生らにも聞き取りをするなど詳細に行われた。その結果、少なくとも19人の被害者を特定した。翌15年にモイヤー氏の長年にわたる多数の女子生徒への性加害を認定する報告書がまとめられた。

11~12歳の時の性加害も証言

 報告書によると、モイヤー氏は中高生の少女たちに対して、始業前に犬の散歩をするので学校近くの自宅に来るように誘ったり、三宅島での校外学習の後に個別に三宅島に招待したりするなどして、性暴力を繰り返していたという。

 調査に応じた被害者たちは、モイヤー氏は足を触ったり背中をマッサージしたりし、そのうちにキス、胸や性器への愛撫、口淫、性交などを強要したと証言。多くが被害は数年に及んだ。中には11歳から12歳の時に性暴力が始まったと証言したケースもあるほか、「何百回も」性交されたと証言した女性もいる。この女性は海洋生物学者になる夢をもち、モイヤー氏を親のように慕う中で、夏休みには助手として三宅島で働き、性交を強いられ続けたという。

 報告書は、モイヤー氏が03年に卒業生へあてたメールの中で、12人の女性を挙げ、彼女たちがASIJに生徒として在籍していたときに性暴力を加えたことを認めていたことを「特筆すべきこと」と記述する。

 また、モイヤー氏がメールの中で、生徒との最初の性的接触は1960年代後半で、17歳の少女と夏の三宅島で口淫をしたとも明かしているとした。

 報告書は「調査したすべての証拠に照らして、モイヤーが連続小児性加害者であり、女子生徒に対して性的な虐待を加えていたことは明らか」と結論づけている。

 また、1960年代から生徒や保護者らから再三、モイヤー氏の性暴力についての懸念や申告がASIJに寄せられていたにもかかわらず、歴代の校長や学長、理事会メンバーらの認識や対応が不適切だったことも指摘した。

モイヤー氏は2004年に自死

 ASIJの対応が進まない中で、被害者らはASIJを去ったモイヤー氏がその後も日本人の子どもたちとの活動を続けていることを懸念し、2003年秋からモイヤー氏とメールのやりとりを始めた。報告書によると、被害者側がモイヤー氏の性暴力について追及し、子どもとの活動を停止しなければ当局に通報すると警告したという。

 モイヤー氏は2004年1月に自死した。

 その後、13人の被害者が中心になり、署名活動を開始。ASIJに対して、透明性のある十分な調査や学校方針の変革、被害者が味わった苦悩に対する補償、40年以上も隠蔽してきたことへの謝罪などを求めた。

 ASIJは調査を経て、生徒たちを守れなかった学校の責任を全面的に認め、補償や報告書の公表、希望する被害者のカウンセリング費用の負担などを決め、被害者側と和解。生徒を守るための態勢を整備した。

「隠せばまた同じ過ちを犯す」

 事実の解明や学校の変革を求めた13人の被害者は「13人の姉妹」と呼ばれ、ASIJは「13人の姉妹」の勇気をたたえる「Strength and Courage Award」(力強さと勇気への賞)も創設。16年から毎年、モイヤー氏による性加害事案があったことを説明した上で、12年生(日本の高校3年相当)から受賞者1人を選び、奨学金100万円を授与している。13人の勇気ある行動をたたえ、事案を忘れないために続けているとする。

 17年からASIJの学長を務めるジム・ハーディンさんは「モイヤー氏の虐待は何十年も行われていたが、学校の上層部が責任をもって管理できていなかった。いまは子どもが安全に学べる態勢をとっている」と話す。

 ハーディン学長によると、ASIJは学校に専門の「児童保護コーディネーター」を置き、教員はもちろん、事務や掃除、警備、食堂などにかかわるスタッフも含めた全職員が毎年、児童保護についての研修を受ける。子どもの安全を守るためのハンドブックなども作成し、子どもたちが安心して安全に学べる環境、被害申告などへの対応も整備した。また、新任の教師には全員、モイヤー氏の性暴力事案を隠さず説明し、研修をしているという。

 取材に対してハーディン学長は「報告書はいまもだれでもアクセスでき、透明性を持たせている。(過去の事実は)隠さない。隠せばまた同じ過ちを犯すことになる」と語る。

 「13人の姉妹」のひとりで、米国在住の60代の被害者女性は、ASIJの過去の対応については学校の評判を汚さないために隠蔽することを選んだと批判しつつも、現在は「子どもの安全を守る重要性をよく理解し、必要な措置を講じている」としてASIJの取り組みや姿勢を高く評価する。

事案を認識しない日本の社会に失望

 一方、日本の社会で、この事実がほとんど知られていないことに被害者たちの間には落胆の声も上がる。当時、ASIJはホームページで報告書を英語と日本語で公表したが、記者会見は開かなかった。この事案は英字新聞では報道されたものの、日本語メディアではほぼ報道されなかった。ASIJによると、モイヤー氏と関係の深かった日本の約10の団体などには、報告書を送付したという。

 モイヤー氏は、子ども向けの書籍も数多く出し、図書館にはいまも多数所蔵されている。現在でもインターネット上には称賛する文章などが多数残っている。

 13歳のときにモイヤー氏から性暴力を受けたという別の60代の女性は「モイヤー氏の著書が海洋生物学を研究する人たちにとってまだ価値があるのなら、その貢献をすべて否定する必要はないと思うが、彼が多くの少女に性暴力をふるった小児性加害者だったという事実は日本社会で語られるべきだ。モイヤー氏をたたえる意図で彼を紹介している団体があるならば、彼の名前は削除されるべきではないか」と話した。

 1980年代後半に三宅島で被害を受けたという50代の女性は「日本社会でいまだにモイヤーの行為が知られていないことに失望している。日本では彼がいまだに多くの人から尊敬され、重んじられていることに私は傷ついている。日本の人たちには彼の行為について真実を知ってもらいたい」と語る。

 さらに、この女性はモイヤー氏が後年、日本のNPOのサマーキャンプなどにかかわっていたことから、日本人の被害者もいたのではないかとの懸念を示す。「被害に遭った人には、自分は孤独ではない、同じ男の被害者がほかにも大勢いるということを知って、少しでも力を得てもらえれば」と話している。

破滅を救うのはニワトリか トランプ政権の大きな矛盾 N.Y.Times(朝日新聞有料記事より)

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ニコラス・クリストフ

 もし今、米国の調査をしている火星の学者たちがいるとしたら、トランプ大統領の大いなる矛盾に頭を悩ませているかもしれない。

 トランプ氏は民主主義の規範を傷つけ、連邦政府を破壊し、クレムリンの戦争犯罪容疑者に肩入れして、長期にわたる甚大なダメージを米国に与えている。しかし、もしトランプ氏の支持率が下がったとしても、それはこれらのこととは何の関係もないだろう。むしろ、支持率を低下させるのは、卵の価格かもしれない。

地上3フィートの問題を気にかける有権者たち

 私が考えるに、米国の有権者は、1人の犯罪者に対して驚くほど寛容であり続けている。1945年に自分たちの手で創設した法の支配や世界システムによって、私たちは大いに豊かになり力づけられてきたのだが、その犯罪者は他の凶悪犯の罪を許し、そうしたものに無謀な攻撃を仕掛けている。トランプ氏は先日の議会での演説で、彼の「文化大革命」について熱く語り、演説を見た人のうち約4分の3の人々が、ある程度それを支持した(要は、演説を見た人が共和党支持者に偏っていたからなのだが)。

 トランプ氏が非民主的であるとして民主党員たちが激しく非難しても、労働者階級の有権者らにはほとんど響かなかった。彼らは高度3万フィートの問題にはあまり関心がなく、地上3フィートの経済や文化の問題をより気に掛けていたのだ。奇妙なことに、トランプ氏を妨害し、米国の民主主義を守るかもしれないのは、トランプ氏が米国に与えている歴史的損害に対する国民の嫌悪感ではなく、トランプ氏の失政が私たちの日常生活に及ぼす無数のありふれた影響に対する警戒感なのだ。

 トランプ氏の関税は、たとえ一部で導入が遅れたとしても、おそらく消費者物価を上昇させ、金融市場を混乱させ、その結果、私たちの退職後の貯蓄に打撃を与えるだろう。また、製造業のサプライチェーンにも混乱をもたらすだろう。どの程度のことが起こりうるか。アトランタ連邦準備銀行の最新の推計では、第1四半期で2025年の米国の国内総生産は驚くべきことに2.4%も減少するとされている。

 米国人は、大統領がジャーナリストを国民の敵と呼ぶことを我慢するかもしれないし、選挙結果を覆そうと警察官をこん棒で殴った重罪犯人を大統領が恩赦することさえも受け入れるかもしれない。しかし歴史的に、不況を招いた大統領に対してはあまり寛容ではない。

メディケイド削減計画の本質とは

 さらに、共和党は現在、富裕層への減税を続けるための財源として、「メディケイド」(低所得者向け公的医療保険)の大幅な削減を計画しているようだ。もちろん、トランプ氏はメディケイドの削減をするつもりはないと断言している。浪費や無駄を削減しているだけで、単に就労要件の導入などを推進しているだけだというのが共和党の主張だ。メディケイドそのものを削減するのではなく、それを負担する州への一括補助金を提案しているだけだという。

 しかし、疑いのない事実は、メディケイドの対象となっている約7200万人の米国人の医療費に充てる資金を連邦政府が減らすということだ。この計画の本質とは、最も貧しい米国人の医療費を削減し、最も裕福な米国人が大幅な減税を受けられるようにすることであると思われる。これは道徳的に許されないだけでなく、政治的にも問題がある。

 イーロン・マスク氏が社会保障制度を「ポンジ・スキーム」(投資詐欺の一種)と批判したり、トランプ氏がこの制度に不正が蔓延していると虚偽の主張をして、社会保障事務所の売却を口にしたりすることで、有権者の不安はさらに大きくなりそうだ。

連邦政府への攻撃は何をもたらすか

 より広い視点で見れば、多くの人たちは連邦政府の人員配置の見直しや、規制の削減、官僚制度のスリム化に向けた取り組みを歓迎するだろうが、連邦政府に対するトランプ氏の攻撃は、メスではなく、大きなハンマーで行われている。トランプ氏とマスク氏は、職を追われる連邦政府職員について、注目されることのない無名の官僚だと考えているかもしれない。だが、彼らが退役軍人病院の医療従事者であれば、患者は気づくだろうし、彼らが農業プログラムを管理していれば、農家は気づくだろう。

 雑誌アトランティックの元編集者ジェームズ・ファローズ氏は、連邦航空局や米国気象局、米国海洋大気局の予算削減は、航空の安全性を低下させることになると、説得力のある主張を展開している。異常気象がますます日常的になっている現在、ハリケーンや竜巻、熱波を予測するための能力を低下させるというのは奇妙なことである。

 西部の州では、トランプ氏の予算削減が次の山火事の季節の消防活動にどんな支障をもたらすかが、すでに懸念されている。航空機事故や猛威を振るう火災がトランプ氏の責任であると明確に指摘できるとは限らない。しかし、トランプ氏とマスク氏が極めて不注意で、数百万ドルと数十億ドルを混同し、最初にエボラ出血熱対策や核兵器管理のプログラムを削減してから、後になってそれらの問題を解決しようと急いだことを考えると、彼らに有利な判断はできないだろう。

 つまり、トランプ氏とマスク氏の無能さと無謀さが、ワシントンの破壊者である彼らの信用を失墜させ、彼らを制御するかもしれないのだ。

 卵の価格上昇をトランプ氏の責任だと非難するのは、果たして妥当だろうか。おそらく妥当ではない。価格上昇は、トランプ氏による関税やその他の政策というより、むしろ長期にわたる鳥インフルエンザに関係しているからだ。確かに、トランプ氏は鳥インフルエンザの監視体制を弱体化させ、保健福祉省長官のロバート・ケネディJr.氏がワクチンに懐疑的な立場を取っているため、パンデミックが発生すれば、私たちは鳥インフルエンザに対してより脆弱になるだろう。しかし、トランプ氏の不適切な対応は、今日の卵の価格上昇の主な要因ではない。

 では、トランプ氏によるウクライナへの裏切りやNATOへの脅し、民主主義を弱体化させるキャンペーンに対して、有権者は怒りを爆発させた方がいいのだろうか。もちろんだ。ただ、どんな憤りであっても、私は歓迎する。もしかすると、この国が破滅に向かうのを救ってくれるのはニワトリなのかもしれない。 

「ロシアは決して約束を守らない」 前ポーランド軍参謀総長の警鐘(朝日新聞有料記事より)

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 「力」で領土を侵そうとしてくる目の前の大国に、どう対処したらいいのか。国際秩序を再建する必要性も叫ばれるなか、ロシアの脅威にさらされ続けてきた東欧ポーランドのアンジェイチャク前軍参謀総長は、歴史的な教訓も踏まえ、いま現実にロシアを食い止めるための国防増強の必要性を強調する。

 ――米国とロシアが、侵略の被害者であるウクライナの頭越しに停戦をまとめる動きを見せています。

 「私たちから見れば、これは歴史のデジャブ(既視感)です。第2次世界大戦が勃発した1939年、ポーランドはナチス・ドイツとソ連に攻め込まれました。そして米英、ソ連によるヤルタ会談などで戦後処理が話し合われ、ポーランド不在の場で(東部領土をソ連領とするなどの)運命を決められました」

 ――ウクライナが侵略された領土をあきらめさせられ、ロシアの侵攻を追認する結論になる恐れがあります。

 「それは、悪い平和です。ウクライナが望まない条件で(大国が)合意し、ロシアに主導権を与えてしまえば、その後の行動を止められません。停戦にあたって考えるべきことは、ロシアがその後、どんな行動をとるかです」

 「ロシアが戦略的目的を達成したのだから、停戦によって(地域に)平和と繁栄、民主的な社会が訪れると考えるのは大きな間違いです。ロシアは決して約束を守りません。日本の皆さんは、私の話を悲観的すぎると思うかもしれませんが、ポーランドの見方は異なります」

 ――ロシアの行動は変わらないと?

 「ロシアの狙いは、ウクライナを欧州から切り離し、国家として消滅させ、ロシアは偉大だと世界に認めさせることです。その戦略的目的は変わりません」

 「2008年にロシアは(旧ソ連の)ジョージアへ侵攻しましたが、西側諸国は動きませんでした。さらに悪いことに、欧州はロシアと結ぶ天然ガスの海底パイプライン『ノルドストリーム1』を(11年に)始めてしまう。そして、14年にロシアがウクライナのクリミア半島を一方的に併合しても欧州は手を打たず、22年にウクライナへの全面侵攻が始まりました。ロシアは、『他国に侵攻しても深刻な結果は伴わなかった』と解釈したのです」

 「08年当時、ポーランドのカチンスキ大統領は『今日はジョージア、明日はウクライナ、その翌日はバルト三国。そして、次はポーランドだ』と訴えました。ポーランドは、ロシアの脅威と対峙する欧州の最前線です。ポーランドが倒れれば、欧州の安全保障は崩れます」

 ――トランプ米政権が国際秩序に背を向けるなか、平和をどう保つかは、複雑で重い課題です。

 「数字は、現実を認識させることがあります。ウクライナは重要だと欧州は言い、自由や民主主義を守るために戦う同国を支援しています。ですが、支援額はEUのGDP(域内総生産)の0.3%程度。ロシアがこの戦争に勝ったときの代償を考えたら、1%でもおかしくない。だがこれが現実で、私たちに突きつけられた問いです。(ここで食い止められなければ)将来は欧州の安全保障にGDP比5%を支出しなければならなくなる日が来るかもしれません」

 ――ポーランドは国防費を急増させています。

 「私が軍参謀総長に就いた18年、ポーランドの国防費はGDP比2%程度でした。ドゥダ大統領は当時、軍のイベントで2.5%を目指すと演説しましたが、私は正直難しいと感じました。しかし、22年にロシアによるウクライナへの全面侵攻が始まり、現実には24年に4%を超え、25年には5%近くになります。ポーランドにはとてつもない額です」

 「22年のウクライナ侵攻当初、キーウ近郊ブチャで多くの民間人が殺害されたロシア軍による戦争犯罪行為を覚えているでしょう。私も祖母から、第2次大戦中の旧ソ連軍による残虐な行為を聞いて育ちました。ブチャを見て、その残忍さは変わらないと感じました」

 ――トランプ米大統領は国際秩序を守るより、停戦を望んでいます。武力で他国を侵略したロシアに対し、国際社会はどうすればいいのでしょう。

 「もちろん、戦争は終わらせ、ウクライナでの殺戮や破壊を止めなければなりません。戦争は、政治家が始め、政治家が終わらせるものです。しかし、その前にやるべきことがあります。ウクライナに戦車や弾薬を送るだけでなく、制裁によってロシアに効果的な圧力をかけることができます。特にエネルギー産業は西側諸国の技術や機器が入らなくなり、苦しんでいます。にもかかわらず、西側諸国は対ロ制裁をきちんと実行できていません。協調して技術や物品の輸出を止めれば、弾薬を送るよりもロシアは痛みを感じるのに、です」

 ――一時はトランプ氏とウクライナのゼレンスキー大統領の会談が決裂し、軍事支援が凍結されるなど、停戦への圧力が強まっています。

 「ここは一呼吸置いて、政治的なダンスやレトリック、感情は脇に置き、停戦後にロシアがどういった行動を取るか、冷静かつ賢く考えるべきです。戦術的に停戦に成功したとしても、長期的にどんな結果をもたらすか、戦略的な意味を見失ってはいけません。ロシアに有利な停戦となり、軍備を立て直す時間を与えてしまえば、取り返しのつかないことになります。それを心から懸念しています」

ライムンド・アンジェイチャクさん

 Rajmund Andrzejczak 1967年生まれ。戦車部隊などを指揮した後、イラク戦争中に国際部隊の作戦部門長を務め、アフガニスタンでもポーランド部隊を指揮した。18~23年に軍制服組トップの参謀総長。国際秩序について話し合う「東京会議」(言論NPO主催)出席のため来日した。 

「九龍城寨之圍城」アクション監督が語るリアルの越え方(朝日新聞有料記事より)


 骨太の香港アクション映画が久々に日本でヒット中だ。レイモンド・ラム主演で、ルイス・クーやアーロン・クォック、サモ・ハン(・キンポー)ら重鎮スターががっちりと脇を固めた「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦」。その映画でアクション監督を務めるのが、映画「るろうに剣心」シリーズでも同じ仕事を務めた谷垣健治さんだ。香港のアカデミー賞とも称される「香港電影金像奨」の最優秀アクション設計賞でノミネートされるなど、香港アクション界の中心的人物だ。2月の帰国時に話を聞いた。ルイス・クーのあの場面からスタッフも「乗った」

 ――1980年代の香港のスラム街を舞台にした映画は現地の郷愁も呼び、観客動員数は香港における歴代1位を記録、日本でもヒットしています。SNSにはファンアートも多く投稿され、女性誌「レタスクラブ」が劇中に出てくる「叉焼飯」のレシピを紹介するなど、女性人気も盛り上がっています

 「日本では女性のお客さんが多いと聞いて、意外でした。撮影中は、誰にどう受け入れられるかなんて考える間もないくらい大変だったんでね……」

写真・図版

 ――九龍城砦を再現するため、セットに10億円かけたという大作でした

 「本当は中国・広州で撮ろうとしていたんですが、ちょうどコロナが感染爆発して。それで人件費も物価も高い香港でセットを作ることになりました。アクション部は日本や中国から呼んだんですが、渡航も厳しい時期でしたね。今ある条件の中でやれることをやろうという感じでした。九龍城砦を再現するために廃校になった小学校を使ったほか、たとえば、アーロン・クォックとルイス・クーの決闘の場面は、屋外に設置した通路にトタンで屋根をつけたりした即席のセットで撮りました。お金をかけるところにはかけましたが、むしろ全員の工夫で全撮影を乗り切ったという感じでした」

  ――序盤、主人公と九龍城砦のボスが理髪店で出会い、闘う場面に魅了されました

 「あの理髪店の場面は、クランクインした初日とその翌日に撮影しました。ルイス・クー演じるボスが、吸っていたたばこからポンと手を離して、たばこが空中にある間に、バババババッと主人公をやっつけ、何事もなかったようにまたたばこを手にとる。『んな、あほな』じゃないですか。でも、ここでうまくリアルをちょっと飛び越えることができて『うそのつき方』が決まった。スタッフたちもこの撮影から、うまく乗せることができたような気がします」

 ――「アクション監督」とはどういうポジションなのでしょうか。日本ではあまり聞き慣れない言葉です

 「日本にも近い役職はあったかもしれませんが、香港では、アクションに関することならば、アクション監督にあたる動作導演が撮影にも編集にも演出にも携わります」

写真・図版

 「たとえばカメラも(アクションの振り付けを)覚えないと動きを追えない。だから『るろうに剣心』で、主人公の剣心が飛び降りる場面では、僕がカメラを持って一緒に飛び降りながら撮影しました。編集にしても効果音の種類にしても、アクションのリズムや迫力がちゃんと表現されるように関わりたいですね」

 「でも、従来あった殺陣師とかスタントコーディネーターという立場だと、なぜ管轄外のことに口出しするのかと言われてしまう。『アクション監督』という言葉は、日本で仕事をするときに自分の居場所を正当化するための『抑止力』として使い始めたんです」

「一発OKか、病院に行くか」だった昔の撮影

 ――谷垣さんも、かつてはスタントとして多くの監督の「むちゃぶり」に応えてきました

 「僕もむちゃぶりはしますよ。でも、その質が昔とは違う。つまり、僕がスタントマンだった頃は、建物の3階から下にドーンと落ちるような、本当に危ないことをやっていた。それだと、一発OKか、病院に行くかのどちらかで、いずれにしても一発勝負で終わっていました」

写真・図版
スタント時代の谷垣さん。この日の朝の撮影中に頭を地面に強く打ち、この写真の撮影時も含めて一日の記憶がないという

 「今は、危ない場所には全部ウレタンを張ったりCGや合成なども使ったりして、あらゆるところでケガをしない工夫をしている。つまり安全な分、いわゆる『マネーショット』(最高の場面)が撮れるまで何テイクでもやることになります。スタントだけじゃなくて、役者たちもいい画が撮れるまで何回でも挑戦する。必死にぎりぎりのところでやっている人は魅力的じゃないですか。役者たちは本当に毎日必死で、みんなフェロモンを出しまくりだったと思います。それが女性人気につながったのかもしれないですね」

テレンス・ラウが殴られる場面では

 ――今はCGで場面を合成する技術も進化していますが、それでも実際に生身の俳優がアクションをすることの意味とは何ですか

 「殴ったり殴られたり、追いかけたり逃げたりというアクション場面は、人の感情が大きく発露するドラマ性のピークで、そこにカタルシスがある。そして、アクションは、距離が近づけば近づくほど真実に近くなるということだと思います」

 「銃撃戦の場面では、役者が本当には撃たれていないことは客もわかります。でも、僕らはワイヤーを消したりするためにCGは使っていても、殴る行為は真実。たとえば『トワイライト』で信一(ソンヤッ)役のテレンス・ラウが悪役に殴られる場面で、フレームの外から殴っているのは小道具の『柔らかい』拳ですが、実際に当てています。それを見たら、お客さんは『痛そう』と思いますよね。そういうちょっとした真実の積み重ねが大きなうそをつくためには大事。それがあるから、映画の『非日常』にお客さんを没入させられるんだと思います」

 ――アクション映画の道に入ったきっかけは、小学生の時にテレビで見たジャッキー・チェンがきっかけだったそうですね

 「テレビで放送されていた『スネーキーモンキー/蛇拳』でした。主人公が特訓してできなかったことができるようになっていくのを見て、自分もやったらできそうだって思って。もう少し後のジャッキーの映画には、NG集が最後につくようになりましたが、それを見るとああいう映画は、ものすごい何度も努力して、できないものができるようになったということの積み重ねだということもわかった。自分もやってみたいと思うようになりました」

写真・図版
香港旅行中にジャッキー・チェンさん(右)を出待ちして「動きを見てほしい」と直談判した

 《高校では少林寺拳法部に入り、全国大会にも出場。大学時代に入った養成所「倉田保昭アクションクラブ」でアクションやスタントの技術を学び、22歳で香港へ。マクドナルドに集う学生相手に広東語を学びながら、エキストラ俳優を経てスタントに。活躍し始めた1998年に出版した著書『燃えよ!!スタントマン』では、「将来は武術監督を目指す」とある》

 ――何も持たず、つてもなく香港に行き、実際に目指していたアクション監督になりました。どうやって生き残ってきたのでしょう

 「当時の日本はアクションが谷間だった時代で、本格的なアクションをやるなら香港しかなかった。だから、誰かに『今度映画で使うよ』と言われれば、それが口約束に過ぎなくてもその日の『スモールビクトリー(小さな勝利)』と受け止めて『まだやれる』『先に希望がある』と、ポジティブに感じられる性格だったのもあるかもしれません」

 ――「最後の本格派」アクションスターといわれるドニー・イェンとの出会いがアクション人生を変えます。テレビシリーズ「精武門」や映画「ドラゴン危機一発'97」に参加して信頼を得て、次第に「右腕」と呼ばれるようになっていきました

日本進出のきっかけ作ってくれたドニー・イェン

 「よく僕のアクションは、『ワイヤーアクション』とか『カンフーアクション』だとか言われますが、どれも違っている気がします。僕は『ドニーアクション』なんです。ドニーのアクションが、『るろ剣』のアクションになって、それがまた『トワイライト』のアクションになった」

写真・図版
「SPL/狼よ静かに死ね」の撮影中、サモ・ハン(・キンポー)さんに技をかける谷垣健治さん

 ――「ドニーアクション」とはどんなアクションですか

 「僕らのアクションには『理』がある。つまり、力点があって支点があるから作用点として飛べる、という物理的な表現を重視する。だから力の発進点になるショットは短くても入れるようにしています。それと『虚』と『実』というのかな、映画の中だから許されるような誇張された表現とものすごくリアルな表現を交錯させて、『その映画の中にしか存在しないもの』を作りたいという思いは常にあります。そういうアクションを目指していきたいですね」

 ――それが谷垣さんのアクションの独特のグルーブ感につながっているんですね。ドニー・イェンさんからは「香港でやる以上は絶対にトップになることは不可能だ。日本のマーケットを広げることに費やすのが賢いやり方だ」と早くから日本進出を促されていたそうですね

 「僕が香港に行った1993年は、返還を前に中国(大陸での)ロケがすごく増えていた時期でした。それが落ち着いたら今度はアメリカで『マトリックス』や『チャーリーズ・エンジェル』が作られ、香港のチームが海外に呼ばれることが増えて、香港映画が国際化していきました。その流れの中でドニーが『日本でやるのもいいんじゃないか』と勧めてくれました。『香港の方は俺が何かやる時は必ず呼ぶから』と」

 「だから僕が日本で活動していくきっかけを作ってくれたのは、ドニーです。彼がアクション監督をつとめた日本映画『修羅雪姫』に僕も参加したことで、本格的に日本での活動が始まりました」

 《2009年の「カムイ外伝」でアクション監督を務めた後、2012年に公開の始まった「るろうに剣心」にアクション監督として参加。シリーズはメガヒットを記録し、そのアクションは海外でも高く評価された。一方で、香港映画は1990年代前半をピークに、公開される映画の本数が激減。斜陽になっていった》

 「昨年は(『トワイライト』や『ラスト・ダンス(破・地獄)』など)すごくヒットした映画があったんですが、今年は現場が圧倒的に少ない。だから来年くらいからは、公開本数がすごく減ると思います。でも、香港映画の歴史をたどれば元々は上海など中国本土から来た映画人が中心になって作ってきたものです。だから、チャイナタウンみたいなものなんだと思うんですよ」

写真・図版
「トワイライト・ウォリアーズ」の撮影中、サモ・ハン(・キンポー)さん(右)とモニターを見る谷垣さん

 「たとえば神戸とロンドンのチャイナタウンは同じチャイナタウンでも全く違うアイデンティティーがある。僕がやっているのも香港アクションだけど、日本でまた少し変わった何かになってきている。『マトリックス』シリーズに関わったチャド・スタエルスキは香港のチームと一緒に仕事をした経験を生かしつつ、『ジョン・ウィック』シリーズの監督となって、アメリカナイズされたアクションをやっている。香港の地元のアクション映画がこれからどうなるかはわからないけれども、香港映画がいろんなところに流れて、チャイナタウンみたいに世界のいろんなところにできていってその土地に合わせて変化していったらいいと思っています」

 ――谷垣さんにとって、自分が継承していきたい香港映画のエッセンスとは

「『継承』とか全然考えてないです。ここ数年、香港の映画人たちがみんな継承していこうと言い出しているのを、僕はちょっと苦々しく思っていて」

 「だって継承というのは滅びゆく伝統芸能に使われる言葉じゃないですか。言うほどに本当に滅びる予感がして嫌なんです。ジャッキー・チェンとか、ブルース・リーとか、景気がいい時にやっていた人は継承するつもりで撮っていなかったと思う。映画ってもっと野蛮なメディアなので、守るよりは突破していく方が強い。僕は『るろ剣』をやっているときも、すべての体制をぶっ壊すくらいの気持ちでやっていましたから」

 ――今後の野望は

 「アメリカ映画も撮ってみたいし、インド映画も撮ってみたい。知らないところで、またひどい思いをしてみたい(笑)。僕は身一つで、『カメラとお金をやるからなんか撮って』と言われたいタイプ。藩に召し抱えられる武士ではなくて、野武士でいたい。20代は香港でいろんなことをチャレンジした。30代は日本に戻って試行錯誤をして、40代から『るろ剣』など作品に恵まれて、収穫があった。一周回って50代ではまたいろんな挑戦をしていきたいと思っています」

トランプがアメリカに与えている真の損害とは N.Y.Times(朝日新聞有料記事より)

kkkk

 

デイビッド・フレンチ

 トランプ大統領はアメリカに損害を与えている。その修復には1世代、もしくはそれ以上かかりかねない。次の選挙ではトランプ氏が破壊しているものを修復することはできない。その次の選挙でも。

 大統領に就任後の1カ月半でトランプ氏が米国に与えたダメージの深刻さを理解するには、冷戦との比較が役立つ。共和党と民主党は旧ソ連との向き合い方において、しばしば鋭い対立を見せた。ベトナムをめぐる深い意見の相違も、10年以上にわたって、党内及び両党間での政治の議論を活発にした。レーガン大統領時代には、強力な大陸間弾道ミサイル「MX」や欧州への中距離ミサイルの配備をめぐって激しい論争が繰り広げられた。

 こうした違いも大事だったが、もっと大切な多くの点では合意があった。

 両党はともに北大西洋条約機構(NATO)が必要という認識があり、ソ連を深刻な国家安全保障上の脅威と見ていた。どちらの党も多かれ少なかれ、数十年にわたって、ソ連の圧制を食い止めようと封じ込め政策をとってきた。

 投票所に行ったアメリカ人が、親NATOの候補者か、ソ連とワルシャワ条約機構に同調する候補者かのどちらかを選ぶようなことは一度もなかった。こんな考え自体が幻想的だった。アメリカの選挙が国家安全保障戦略を変えることはあっても、私たちの基盤となる同盟関係や根本的なアイデンティティーを変えることもなかった。

 今までは。

 2月28日にホワイトハウスの大統領執務室で起きたことを考えてみよう。トランプ氏とバンス副大統領はテレビ中継中にウクライナのゼレンスキー大統領を不意打ちした。バンス氏はゼレンスキー氏を「失礼だ」と非難し、トランプ氏は「あなたは数百万人の命を賭けている。第3次世界大戦を賭けている」と攻撃した。

 この攻撃は同盟国に対する攻撃のうちの一つに過ぎない。トランプ氏は大統領に復帰後、私たちの最も重要な戦略的パートナーたちに、すぐに忘れることのできない教訓を与えた。すなわち、アメリカは立場を変えられるし、これからも変えるということだ。アメリカの有権者は、伝統的な同盟関係を破棄し、世界で最も危険で抑圧的な政権を積極的に支援する指導者を選ぶかもしれない。

次の選挙で民主党が勝利しても、「信頼」は取り戻せない

 たとえ2026年の中間選挙で民主党が圧勝し、2028年大統領選で共和党候補が敗北したとしても、この教訓は変わらない。私たちの同盟国は、私たちとの同盟関係がその次の大統領選挙までしか安定しないことや、公約がせいぜい1期しか有効でないことを知るだろう。

 そのような状況下で持続的な防衛戦略をつくりあげることは、不可能ではないとしても非常に難しいことだ。持続的な通商政策や外交を行うこともできない。新政権の発足とともに即座に合意が破棄されるのなら、世界の賢明な国々のうち、いったいどの国が、アメリカの言葉やアメリカそのものを信頼するだろうか。

 トランプ政権はマラリア予防やエボラ出血熱の監視などに資金提供していた数千件の契約を破棄した。また、連邦政府職員の解雇や、政治的盟友に乱発される恩赦、法律に基づいて設立された機関を閉鎖しようとする試みは、外交と同じく内政も不確かなものでしかないことを意味している。

 4年ごとに行政機関を壊し、作り直すような国家は効率よく国民に奉仕することはできない。選挙のたびに機関を閉鎖したり再開したりするようではいけないのだ。

 (2021年にトランプ氏の支持者らが連邦議会議事堂を襲撃した)「1月6日」の真の姿が今こそ明らかになった。トランプ氏は自身の権力への願望と法律に対する軽蔑をあらわにしたのだ。彼はアメリカ政府の構造をひっくり返し、大統領をアメリカの権力の頂点に君臨させようとしている。

万能でないはずの大統領の役割

 トランプ氏の行動の結果を目の当たりにするにつれ、建国の父たちがなぜ大統領に至高の統治権を望まなかったのか、私たちは知るようになった。分裂含みの大きな国家を大統領の独断で統治することの危険性について、国の創始者たちは鋭い洞察力を備えていた。そう改めて思い知らされる。

 建国の父たちの真意を正しく理解するには、アメリカン・エンタープライズ研究所のユバル・レビン氏への私の同僚のインタビューがおすすめだ。

 レビン氏が主張するように、大統領は主に管理する者として存在する。議会が創設した制度を管理し、上院が批准した条約や同盟を見張る立場ではあるが、それらの制度や同盟がそもそも存在すべきかどうかを決める立場にはない。

 もしトランプ氏が自らの意思を成し遂げれば、もたらされるカオスにより民主党が選挙で復活する可能性も出てくる。ただそれだけでは問題の解決にはならないし、不安定な状態を修復することにも、私たちの国を癒やすことにもならない。

 だからこそ、現在繰り広げられている法廷闘争が非常に重要となる。最高裁判所はトランプ氏にウクライナ支援を強制することはできないし、そうできるべきでもない。しかし、政府に取り決めを守らせることはできる。公務員を違法な解雇から守ることもできる。議会が設立した機関を大統領による破壊から守ることもできる。言い換えれば、最高裁には憲法秩序を守る機会があるのだ。

 憲法秩序に異議を唱えることで、トランプ氏はアメリカのシステムそのものの安定性に挑戦状をたたきつけている。

 すでに甚大な被害が生じている。同盟国が再び私たちを信頼できるパートナーと考えるようになるには、いったい何回の大統領選挙が必要だろうか?

チェスタトンのフェンス

 私は保守派として、英国の作家・哲学者チェスタトンにちなんだ「チェスタトンのフェンス」という概念にずっと敬意を払ってきた。チェスタトンは変化に対する最善かつ最も注意深いアプローチとして、道をふさぐフェンスをただ壊すのではなく、なぜフェンスが存在するのかを見極めることが必要だ、と論じている。

 チェスタトンはこう書いている。「近頃の改革者は陽気に障害物に近づき、『私はこれの使い道がわからない。撤去しよう』と言う。これに対し、賢明な改革者はこう言うべきだろう。『使い道がわからないなら、あなたに撤去はさせない。去って、考えなさい。戻ってきて、この障害物の使い道がわかったと言えるなら、破壊の許可を出してもいい』」。

 トランプ氏の動きは保守的なものでも何でもない。チェスタトンのフェンスを喜々としてブルドーザーで破壊しているのだ。

 トランプ氏は制度を壊し、信頼を破壊している。そして、破壊された後に修復するのが最も難しいものが信頼なのである。

春風亭柳朝、動画3種

現在Youtube上にアップされている師匠の動画はこの三つのみか?






銀河映像製作「三命」

ViuTVにて31日から放映決定の全12話ドラマ。




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