
ニコラス・クリストフ
米国が今日、世界で支配的な超大国となってきた秘密の公式とは何だろうか。
三つの根本的な要素を指摘したいが、いずれも今や弱体化している。私たちの世代とドナルド・トランプ大統領の歴史的遺産について考える時、それは見出しを飾るような政治的争いよりも、米国の国際的な地位が徐々に低下していることのほうになるのではないだろうか。
愛国心とは、旗を振ることではなく、2世紀以上にわたって米国を卓越した存在にしてきたこれら三つの力を守ることだ。
すべての疑問への答えは教育に
あらゆるレベルでの教育への取り組みが、科学技術分野での世界的リーダーシップをもたらす――。
ほとんどすべての疑問に対する答えは教育にあると私は信じている。最も高い利益を生む長期投資は、多くの場合、人的資本への投資だ。しかし、歴史を通じて、ソクラテスを処刑し、ガリレオを異端審問にかけ、書物を禁じようとする者たちが常にいた。
米国が世界の主導的国家になったのは、19世紀以降、大衆教育に力を入れていたことが大きな要因だ。その間、他の国々はほんの一握りのエリート層だけを教育していた。このことはクラウディア・ゴールディン氏とローレンス・F・カッツ氏が2008年の画期的な著書「教育と技術革新の競争」で主張している。
米国は公立小学校の普及と高校・大学進学率の拡大を推進した。その後、米国の研究型大学は世界をリードする存在となり、シリコンバレーをはじめとする各地に技術拠点を育んだ。そのため、米国は「マグニフィセント・セブン」と呼ばれるテクノロジー企業を誇るが、欧州にはこれに匹敵するものはない。米国の科学技術の卓越性は、大学、研究資金を提供する連邦政府機関、そしてその知識を商業化する民間企業の間の共生的なパートナーシップのおかげでもある。
米国の教育における優位性は、高校卒業率や若者の理科・数学のスキルで東アジア諸国に追い抜かれたことで、数十年前から低下し始めていたと言えるだろう。しかしトランプ氏は、教育成果の向上策を示す研究やデータ収集を含む教育省の機能を骨抜きにすることで、教育への圧力をさらに強めている。さらに悪いことに、彼は米国の名門大学に対して戦いを仕掛けている。
米国の科学における卓越性は、経済競争力と幸福をもたらす。しかしトランプ氏は、がん治療に大いに有望なmRNAワクチン開発プログラムを縮小し、医療研究への投資を削減している。
どの大統領もハーバードやコロンビアのような大学を誇りに思うべきであり、潰そうとしてはならない。私たちは空母だけで中国に対抗するのではなく、それ以上に自国の若者を教育し、人工知能、合成生物学、材料科学の研究をリードすることで対抗している。しかし、中国は新興技術においてすでに米国を上回っているとの見方もある。
「民主主義存亡の脅威」をもたらす
だからこそ、1957年のスプートニク1号(旧ソ連による人類初の人工衛星)打ち上げ後と同じように、この国を科学と教育に再びコミットさせるべきだ。ところが、トランプ政権による名門大学への敵意は、ワクチンから気候変動に至るまで科学に対するより大きな軽蔑を反映しているように見える。これは、中国で秦の始皇帝が学者を生き埋めにしたことにまでさかのぼり、この国ではスコープス裁判(1925年、米テネシー州で進化論教育を禁じた法律をめぐり争われた裁判)、マッカーシズム(赤狩り)、そして2017年の大学基金税(米国で大規模私立大学の基金収益に課された税)にまでさかのぼる反知性主義の、最新の開花と言えるだろう。
法の支配に支えられた自由市場と自由貿易――。
これは、トランプ氏が最も敬意を払っている柱だ。彼は資本主義と自由市場をおおむね信じている(おそらく多くの民主党員よりも)が、自由貿易からの急速な後退を主導してきた。彼の関税は1930年代以降で最も高い。また、トランプ氏は市場経済の基盤のいくつかを体系的にそぎ落としてきた。市場は慎重な財政・金融運営によって繁栄するが、彼の減税は債務の急増を招き、彼は米連邦準備制度理事会(FRB)の独立性を押しつぶそうともしている。腐敗は資本主義の害毒だが、彼の一族は大統領職をATMのように利用しているように見える。
法の支配はどうだろうか?
英国が産業革命発祥の地となったのは、保護と予測可能性を提供する法制度があったからでもある。対照的に、トランプ氏は下級裁判所の判断を繰り返し無視し、司法省を利用して政敵を罰してきた。ロナルド・レーガン大統領(当時)によって任命された連邦判事のマーク・L・ウルフ氏は11月、辞任すると発表した。トランプ政権による「法の支配への攻撃」とそれが「民主主義存亡の脅威」をもたらしていることについて率直に発言するためだ。
移民と世界中の最も優秀な人材の吸収――。
東ヨーロッパ出身のアルメニア難民だった私の父は、1952年に米国に到着した。その後まもなく、家主は「難民からお金を受け取ることはできません」と言って家賃を返した。
このような歓迎の精神は、必ずしも一貫して実践されているとは言えないものの、米国を非常に豊かにしてきた。米移民評議会によると、「マグニフィセント・セブン」のテクノロジー企業のうち4社は移民によって率いられ、世界の有力企業リスト「フォーチュン500」の46%は移民またはその子どもらによって設立された。
これら三つの要素だけでは、米国の偉大さの完全な秘訣とは言えない。国内市場の物理的な大きさそのもの、民主主義、そして州同士の通商の容易さも寄与した。そして、これら三つの要素においてさえ、私たちはしばしば不十分だった。
ただ疲れ果てた老国に
しかし、私はこれら三つの要素こそが、今日の米国が世界をリードする大国として台頭してきた中心的要素だと考えている。そして今、これらの強みは、特に大学、貿易、法の支配、そして世界最高の頭脳の獲得において、体系的に損なわれつつある。
米国の世界的な優位性に対するリスクは、トランプ氏のホワイトハウスのボールルーム(大広間)、政府閉鎖、そして彼の対立者に対する醜悪な発言ほどには注目されない。しかし、彼の最も重要な遺産は、私たちの経済エンジンの基盤に与えているダメージかもしれないと私は考える。
今年のノーベル経済学賞は、イノベーションが経済成長をいかに推進するかを明らかにした3人の学者に贈られる。彼らは、イノベーションが移民、優れた大学、そして世界へのアイデアの開放性から生まれることを強調し、今後の「暗雲」を警告した。
インドのジャワハルラール・ネルー首相が自国を例に挙げて「希望と活力が徐々に漏れ出していく」と表現したように、私たちは歴史を通して、偉大な国家が時としてエネルギーと推進力を失い、衰退していく様を繰り返し見てきた。西暦1000年、世界最大の都市は、当時世界で最も重要な国であった中国の開封だった。しかし、中国と開封はその後のほぼ千年間衰退し、近年になって復活した。
米国がそのような衰退を経験するかどうかはわからないが、貿易と移民を絞り、大学を抑圧するなら、衰退する可能性はより高そうに見える。特別な秘訣を失えば、米国はただ疲れ果てた老国となり、他の若い国々に追い抜かれるのを見ているだけになるだろう。これこそ米国の命運を左右する重大な問題なのだ。


