2020年に香港国家安全維持法(国安法)が施行された後、香港の民主活動家らは当局の迫害を逃れるため海外に移った。警察は国家の安全を脅かしたとして一部の活動家らを指名手配し、100万香港ドル(約1850万円)の懸賞金をかけて追っている。活動家らはいま、どうしているのか。
「最初の3年間は、(海外に逃れた)メンバーはとても情熱的で、香港のために行動する決意を固めていた。しかし時が経ち、状況は変わった。いま、民主化を求める運動は過渡期にある」
2014年の民主化デモ「雨傘運動」の学生リーダーの一人だった民主活動家、羅冠聡(ネイサン・ロー、31)は現在、亡命先の英国ロンドンに暮らす。国安法が施行された直後の20年7月2日、香港を離れ、英国に政治亡命した。

米国務長官(当時)のポンペオら各国の政治指導者らと積極的に面会し、日本語など多言語で出版した本などで香港の状況を世界に訴えてきた。羅は、ノーベル平和賞の候補者としても名前が挙がっている。
だが各国に逃れた活動家らはいま、厳しい現実に直面しているという。
ウクライナ、中東、相次ぐ紛争で…
ウクライナや中東などで紛争が勃発し、香港に対する世界の関心は急速にしぼんだ。「(活動家らは)香港支援の声を上げ続けるだけでなく、自分たちの生活や仕事、将来のことも考えなければならない。この2年、活動の勢いが弱まっているように感じる」
これこそ、中国共産党や香港政府が望んでいることだ。英国でも、香港警察に指名手配されている羅とイベントなどで関わることで、香港に戻ると拘束され、家族が尋問されると心配する香港人も少なくないという。
日本での抗議デモは
影響は日本にも及ぶ。国安法の施行後、香港でデモができなくなると、在日香港人らによる抗議デモが続けられてきた。昨年6月には東京・新宿で約100人が参加するイベントがあった。しかし、今年はデモの呼びかけはなかった。

香港の民主化を目指す団体「レイディー・リバティー香港」代表のアリック・リー(38)は「香港当局の監視を恐れ、参加者が集まらなくなった」と話す。この1、2年、デモの参加者が香港に一時帰国した際、空港で別室に連れて行かれ日本での交友関係などについて尋問されるケースが増えたという。デモに参加してきた別の香港出身の男性は「当局の関係者にどこで写真を撮られるかわからない不安がある」と話す。
リー自身も昨年8月、香港の両親のもとに、リーの顔に×印が付けられた写真と「中国政府の転覆を扇動している」と批判する手紙が送られてきた。手紙には、当局者しか知り得ない情報も書かれていたという。「当局はさまざまな圧力をかけて活動をやめさせようとしている」

その圧力の根源が国安法だ。効力は、香港を離れた羅の予想をはるかに上回った。「香港の自由は、崖から落ちるスピードで没落し、政治的な自由も、異論も消えた。今では民主派の中で最も穏健であっても売国奴とみられてしまう」。昨年3月には、国家に対する「反逆行為」を知った人に通報を義務づける「国家安全維持条例」も成立した。
「国安法は守護神」
中国政府で香港を統括する香港マカオ事務弁公室主任の夏宝竜は今月21日、国安法5周年式典で「国安法は香港の繁栄と安定を守る守護神だ」と誇った。羅は唇をかむ。「行政長官も立法会もすべて親中派。市民が意見を表明することを脅威に感じ、政府の言うことすべてに従うことを前提にした安定は、香港人が望んでいることではない」
香港に希望はあるのか。その問いに、羅は「私たちは、非常に長い目で見ている」と答えた。中国が変わらなければ、香港が自由を取り戻すのは難しい。でも、今でも香港には投獄された活動家を支援し、民主への思いを静かに支えている人たちが大勢いることが希望だという。「香港人の多くは、厳しい冬と大きな嵐が過ぎ去るのを待ち、安全に春が来るのを待っているのです」