
米国のリベラル勢力である民主党はなぜ失敗し、トランプ大統領を2度も当選させるという結果を招いたのか。民主党の問題点を左派の立場から鋭くえぐる近著が話題を呼んだ著述家ジョン・ジュディス氏に聞いた。
――今はトランプ氏と共和党の固い支持基盤となっている米ウェストバージニア州の炭鉱地帯を訪れた時、昔は多くの家でキリストと民主党のケネディ大統領の肖像画が飾られていたと聞きました。以前は労働者やキリスト教徒に強く支持されていた民主党の変化に驚いた覚えがあります。背景は何ですか。
1970年代が重要な節目です。それまでは、30年代にニューディール政策を進めた民主党のルーズベルト大統領を強く支持していた労働者層が「ニューディール連合」を築いていました。これが崩れていったのです。人種差別の是正を目指した公民権運動に対し、反発した南部の白人労働者層が共和党へ移りました。この白人層には保守的なキリスト教福音派も多く、ベトナム反戦運動などを通じて高揚した(都市部の若者が体制や保守的な考えに対抗した)「カウンターカルチャー(対抗文化)」の動きにも反発していました。
労働運動の退潮も始まりました。民主党はウォール街(金融界)やハリウッド(娯楽業界)のエリートや献金者との結びつきを強め、労働者に打撃を与える自由貿易や緩やかな移民政策へ傾きました。94年、民主党のクリントン大統領の下で北米自由貿易協定(NAFTA)が発効し、その年の中間選挙で共和党が圧勝したことは、公民権運動や貿易、社会・文化問題を巡って労働者層が不満を募らせていたことの象徴でした。
――2期務めたオバマ大統領や、トランプ氏を下したバイデン大統領は一時的にせよ、党勢を回復したのではないですか。
オバマ氏の経済政策は新自由主義的で、金融界の献金者には配慮する一方、労働運動の衰退による支持基盤の溶解という問題には対処しませんでした。バイデン氏は、インフレと移民規制という課題で失敗しました。
人種や性が関わる社会・文化問題でも民主党は近年、極端な方向に進んでいました。例えば、2024年の大統領選で焦点になったトランスジェンダーの問題があります。私はトランスジェンダーの人への差別は許されないと考えますが、未成年の子どもが手術を受けられるようにすべきだという意見には賛成しません。こうした問題が極めて重大だと働きかけたロビー団体があり、民主党がそうした運動と同一視されたことで、共和党に効果的な攻撃材料を与えました。
マムダニ氏の勝利が示すものは
――労働者層に注目が集まる一方、民主党の支持者が多い都市部の大卒有権者層が見過ごされてしまっている面はありませんか。
民主党の課題は、ジェンダーや人種、移民といった社会課題への見方が、都市部の極めて高学歴な少数の活動家的グループによって決められてしまう傾向があることです。こうした極端な見方は、大卒有権者の間でも必ずしも人気があるわけではありません。もし民主党が国政レベルの選挙で勝ちたいのであれば、こうした活動家的な要素を捨てる必要があります。この部分をあきらめたとしても、大卒有権者層の要望に応えることはできます。
――「民主社会主義者」を自称するインド系のマムダニ氏がニューヨーク市長に就いたことをどう考えますか。
彼の選挙運動を見に行きましたが、従来は政治に関心が薄かった多様な若年層を動員していました。社会・文化問題からは距離を置き、徹底的に経済・物価問題に焦点を当てていました。ニューヨーク以外の保守的な中西部や南部でそのまま通用するとは思えませんが、今後の民主党にも重要な示唆を与えるものです。民主党は、経済問題では(格差是正のために積極的に富の再分配を進める)左派の立場から、社会・文化問題では(性が関わる問題などで過激と受け取られる主張から距離を置き)右派との中間的な立場から戦うべきなのです。
――今年の中間選挙や28年の大統領選に向け、民主党の行方をどのように見ていますか。
足元の物価状況や経済格差を見ても、中間選挙では民主党に大きな優位があると見ています。トランプ氏は誰にも制御できない状態に陥っており、彼がコロナ下の混乱を経て20年の大統領選で落選したように、共和党には不利に働きます。大統領選は予備選まで予測が難しいですが、何人かの州知事は有力な民主党候補になるでしょう。
ただ、私もこれまでトランプ氏の行動を過小評価し、見誤り続けてきました。20年の大統領選で負けたのに「選挙が盗まれた」と主張するとか、米連邦議会議事堂襲撃事件が起きるといったことは予想すらしていませんでした。「中間選挙が民主党に有利」などと言っていられるのは選挙が普通に実施されることが前提ですが、米国の民主主義が非常に危険な時代にあることにも留意が必要です。
米誌ニュー・リパブリックなどで活躍。2023年の著書「アメリカ民主党 失敗の本質」(2月に邦訳出版)は米紙ウォールストリート・ジャーナルで「民主党員の必読書」と評された。