論説委員コラム「序破急」 坂尻信義

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 読んでいて、気分が悪くなった。トランプ米大統領の2月の一般教書演説は、史上最長だった。史上最悪の内容でもあったはずだ。気力を振り絞り、動画も見た。この人物が世界最大の権力を握っていることが怖くなった。

 日本で「一般教書」と訳されることが多い「State of the Union」は、米国の憲法第2条3項にある「大統領は随時、合衆国(Union)の現状(State)についての情報を議会に報告しなければならず……」との規定にもとづく。年初におこなわれることが定着した。

 しかし、トランプ氏が延々と繰り出した単語で1万語を超える言葉は、虚偽や虚勢、誇張の羅列だった。

 就任から10カ月で「八つの戦争を終わらせた」。パキスタンとインドは「核戦争に発展しかねなかった。私が関与していなかったらパキスタンの首相は死んでいた」。イスラエルとイランの戦争も終わらせたと胸を張った。

 処方薬の価格を世界最低の水準に引き下げたのだという。値下げ率は「300%、400%、500%、600%、いやもっとだ」。100%を超える値下げは理論上、消費者が薬を求めると金銭を受け取ることを意味する。

 息を吐くようにうそをつく。ためらいも恥じらいも感じられない。

 ワシントンで政権の動きを追う元敏腕記者の米国人アナリストは「大統領に怒られるのが怖くて、誰も何も言えないのではない。とりまきは大統領のうそを何とも思っていない」と嘆く。

 同時多発テロの翌2002年の一般教書で、ブッシュ元大統領は北朝鮮、イラン、イラクを「悪の枢軸」と呼び、米国は証拠を捏造してイラクに侵攻した。北朝鮮はこの挑発を口実に核開発を進め、核弾頭を持つに至った。オバマ元大統領は「核なき世界」を唱えた09年のプラハ演説を一般教書で繰り返すことはなかった。バイデン前大統領は24年の一般教書で「米国が連帯し、必要な兵器を供与すればウクライナはプーチンを止めることができる」と大見得を切る。再選をあきらめきれずに引き際を誤り、トランプ氏の再選を招いた。

 一般教書には失望の連続だった。でも今年のひどさは別格だ。そして、イランへの攻撃がはじまった。